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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第3章 狂犬ひろいました
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第48話 雷門中への訪問

廃工場での報復隊戦から数日。

雷門中と桜坂中——そのあいだの空気が、じりじりと熱を帯びていた。


元々は“狂犬”神代煙を狙った報復だったのに、

ふたを開けてみれば凪嵐十字軍が乱入して共闘。

外から見れば完全に集団抗争の画となっていた。


実態は数で囲んだ報復隊が、

普通に負けただけ——

だとしても。

「ウチの遠征が、桜坂にやられたらしい」

「“凪嵐十字軍”が狂犬守りに参戦だってよ」

「これもう戦争じゃね?」

そんな解釈が、雷門中の中で勝手に育っていくのに、そう時間はかからなかった。



桜坂一帯には、見慣れない制服がちらほらと増えていた。

雷門の制服を崩した女子たちが、コンビニ前やゲーセンの入口で、妙に長居している。


「……ウロつき方が露骨だな」

夏菜や鷹津がガンを飛ばせばそそくさと離れていく…そして遠目で集まりだす。

その様子を夏菜が眺めて舌打ちした。

「……うぜーな、あいつら」


「完全に様子見って感じね」

隣で、鷹津が缶ジュースを煽る。

「蜘蛛の巣会潰したあとだからさ。

 向こうも“噂の新勢力”の顔見にきてるんでしょ」


「まだ下見程度だけど…このままほっといたら抗争モノね」

梨々花のまとめも冷たい。


夏菜は舌打ち一つ、空を仰いだ。

入道雲が、ふてぶてしく膨らんでいる。


「……しゃーねぇ」

「夏奈?」

「話つけに行くわ。雷門に」

あまりにもさらっと言われて、鷹津が二度見する。

「はあ!? マジで言ってんの?」

「わお」

梨々花が目を瞬かせる。


「ここでダラダラ構えて、“やる”“やらねー”でヒヨってんの一番ダセぇからな。

 どうせ向こうも確かめたいんだろ、桜坂の出方」

夏奈は肩を回す。

「番格のとこ、直接行って話つけんのが早えよ」

「おま……一年んときタイマン張ったの、忘れてねえだろうな。

 あっちで今三年の番格と互角って、わりと伝説なんだけど」

「だから話が早いんだろ。因縁は、使えるときに使うもんだ」

そう言って、夏奈は振り向く。


少し離れた電柱にもたれていた白い影——煙を指で呼んだ。

「そういうわけだ。行くぜ、煙」

「……ち、わざわざ聞こえるように話しやがって」

煙はポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくり近づいてくる。

「別に、放っときゃいいだろ。

 やられたら、やり返すだけだ」


「違ぇよ、今はそういう問題じゃねーんだわ」

夏奈はぴしゃりと言い切った。

「お前一人の問題で、雷門と桜坂ごと巻き込まれんのがマズいっつってんの。

 アタシら今、“名前が勝手に売れちまってる”状態だからな。

 下手な動き方したら、一気に派閥戦争だぞ」

「……」

「だから、終わらせに行く。お前も来い。

 本人が顔出したほうが話が早え」


煙は露骨に顔をしかめたが——

少しだけ考えたのち、舌打ちして肩をすくめる。

「……ちっ。好きにしろよ」


「はい決まり」

夏奈はにかっと笑う。

「梨々花はあぶねえからやめとけ。鷹津は一緒に来いよ。

 途中でケンカになったらだるいし、セコンド必要だからな」

「りょーかいよ…見ときたかったけどしょうがないわね」

「……はいはい、後輩のためだと思って付き合ってやるよ」


そうして三人は、夕焼け色の路地を抜けていった。



雷門中学校。


高台に建つその校舎は、桜坂中とは違う、どこか“喧嘩慣れ”した空気をまとっている。



正門前。

制服を緩めた生徒たちがたむろしていた。

見慣れた顔は、ひとりもいない。

そこへ、夏奈たちは——真正面から歩いていった。

校舎の影にいた不良たちが、ざわっと色めき立つ。


「お、おい……」

「あれ、桜坂の虎閃じゃね?」

「白髪のチビ……狂犬だ」

「後ろのは鷹津……凪嵐十字軍だ」


ざわつきが広がる中、構わず靴音を響かせ、昇降口で立ち止まる。

「イミナいる? 話あんだけど」

夏菜の呼びかけに、どよっと空気が揺れた。

「オイ、呼び捨てだぞ」

「一年んときタイマンやったって話、マジだったんか……」



しばらくして、踵の音が奥から近づいてきた。

現れたのは、鋭い目をした上背のある女子。

肩までの髪を後ろで束ね、薄い笑み。

雷門中三年番格——山吹イミナが、配下を引き連れて現れた。


「……誰かと思えば」

イミナは薄く笑う。

「桜坂の“虎閃”じゃないの」

「久しぶり、相変わらず目つき悪ぃな」

夏奈も口角を上げた。


「元気してたかよ、イミナ」

「おかげさまでね。……にしても」

イミナの視線が、夏奈の背後へ滑る。

「アンタが男のパシリやってるって聞いて、泣けてきちゃうわ」


「ちげーよ」

鷹津がむっとするより早く、夏菜が鼻で笑った。

「あいつは人に命令するタイプじゃねぇ。

 むしろ、自分のことを使い潰しちまうタイプ。

 ここに来たのは、アタシの独断だ」


「けっ、惚気かよ。暑苦しい」

イミナは鼻で笑った。

「夏だからな」

軽口が一巡。空気が、少しだけ動く。



夏菜は片手をポケットに突っ込んだまま、本題を撃ち込んだ。

「なあ。——一年に負けて、数揃えて“報復カエシ”とかさ」

目が笑っていない。

「雷門らしくねーじゃん」


「……まぁな」

イミナも視線を逸らし、舌打ちする。

「しかも負けてりゃ世話ねえぜ。

 ……だが、このまま引き下がっちゃ雷門が終わりよ」


「だからこそだろ」

夏奈は一歩、前に出た。

「数でやった時点で、かっこつかねーことはお互い分かってんだろ。

 だから——これで手打ちにしてくれ」

その瞬間。

夏奈の隣で、煙がわずかに肩を震わせる。

「……」

「煙」

呼ばれて、煙は一歩前に出た。

雷門中の視線が、一斉に白髪の少女に突き刺さる。

「……悪かった」

短く。

それでも、はっきりと。

深く頭を下げた。


廃工場で報復隊を叩きのめした張本人——

神代煙が、誰にも殴られていないのに、自分から頭を下げている。

周囲がざわめいた。

「……ふっ」

イミナの口元が、少しだけ緩む。

「本人が来て、謝るなら——それで終わりでいいわ」


雷門生徒たちが、息を飲んだ。

「一人と一人の喧嘩を、桜坂まで巻き込んで引っかき回したのはウチの落ち度。

 凪嵐十字軍とやり合うつもりは、こっちにも無い」

「サンキュ」

ふっと、場の熱が引く。

夏の風が、昇降口をぬるく渡った。



「……それにしてもさ」

イミナは何か思い出したように眉を上げた。

「アンタ最近“音無し”ともつるんでるらしいじゃん。

 あいつにもワビ入れに来させらんない?」

「ムリ」

夏奈は即答した。

「あいつヘッドの言うことしか聞かねぇよ。諦めな」

「マジ?」

イミナはあきれたように笑う。

「“音無し”といい、お前といい……マジで何者なんだよ、その男子」

「さぁな」


夏奈は、わざとらしく肩を竦めた。

「ただの、パン屋バイトだよ」



話し合いが終わり、校門を出る。

夏の風が、少しだけ涼しく感じられた。


「……なぁ」

とぼとぼと歩きながら、煙がぽつりと言う。

「本当に、これで終わるのかよ」

「終わるさ」

夏奈はあっさり答えた。


「ここまで筋通して話つけたんだ。

 あとは虹色の噂で適当に美化されてく。

 “狂犬が番格の前で頭下げてケリつけた”ってのは、それはそれで悪くねぇ」

「……そういうもん、なのか」

煙の声には、まだどこか信じきれない響きがある。

今までは、「殴る」「殴られる」だけでしか関係が切り替わらなかった。

“暴力を使わずに争いが収まる”なんて、絵本の中の話なのだと思っていた。


「お前さ」

夏奈は立ち止まり、煙の肩を指で軽く突いた。

「強えのは分かってる。

 でも、強いだけじゃ先は持たねぇからな」

「……」

「無茶すんなよ、煙」

その言葉に、煙は気まずそうに顔をそむける。


代わりに、横から鷹津が大きく伸びをした。

「とりあえずさー」

お腹をさすりながら、笑う。

「腹減ったろ? 戻る前に、行きつけの中華でも寄ってくか」

「……別に」

と言いながらも、煙の胃袋は素直にグゥと鳴った。

「奢り?」

「一回だけな」

夏奈と鷹津は、聞かなかったことにして、笑って歩き出した。



行きつけの中華屋。

丸いテーブルの上、湯気を上げるチャーハン、唐揚げ、麻婆豆腐。


「ほらよ、チャーハン。唐揚げもいっとけ」

鷹津がスプーンを差し出す。

「……」

煙は警戒しつつ、黙々とかき込んだ。


「……うまい」

その一言に、夏菜と鷹津が顔を見合わせ、笑う。


「当たり前だろ。ここ、町内一の店だぞ」

「辛いのいけるなら、麻婆追加する?」

「…………ちょっと、もらう」


レンゲを差し出す手が、ほんの少しだけ震えずに伸びた



その日の夜。

カノンの裏路地にて。


「えっ」

一琉は、目を瞬いた。

「……あれ、抗争沙汰になりかけてたの?」


「なりかけ、っつーか」

夏奈が頭をかきながら笑う。


「放っといたら、確実にそっち方向に進んでたな。だから、先に行っといた」

「…なるほど、確かにありうる動きだね…

 早めに対処してくれて助かったよ」


「へへっ、気にすることはねーよ。

 そもそも元は煙の喧嘩だし」

煙は壁にもたれ、そっぽを向いていた。

「アタシは、ただ“桜坂まで巻き込まれんのがダルかった”ってだけよ」

梨々花が、スマホをくるくる回しながら頷く。

「夏菜なら、そのくらいやるわよねー。

 “雷門、非暴力で手打ち”っと。

 やっぱ番格向いてるんじゃない??」

「やめろ」

夏奈は顔をしかめた。

「四六時中んなこと考えてたら頭おかしくなるわ」


静は何も言わない。

けれど、肩の力がゆるんでいるのが、近くにいるとわかる。

その様子を見て、一琉は胸の中の何かがほどけていくのを感じた。

(よかった)

本当に。

拳を交えずに、終わらせられた。


夏の夜風が、パンの甘い匂いをさらっていく。

その匂いの中で——凪嵐十字軍と呼ばれる彼らの日常は、またひとつ、新しい顔を見せたのだった。

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