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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第3章 狂犬ひろいました
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第43話 章プロローグ “狂犬”の噂

終業式も近づいてくる夏の昼休み。

屋上のコンクリートは熱を持ち、弁当箱の下からじんわりと伝わってくる。


街では暗夜會の噂が広まりつつも、

一琉たちの周囲では平穏な日々が続いていた。



「そういえばさー」

梨々花が箸を止めて空を見上げる。

「一年にさ、“狂犬”が入ってきたって話、覚えてる?」


「なんだよ急に」

「暗夜會はいろいろなところで暴れてるけどさ、

 桜坂周辺は凪みたいに平穏そのもの。

 ニュースになりそうなのが狂犬くらいしかいないのよー」


一琉は苦笑する。

「十字軍なんて言われたって遠征する気にはなれないよ。

狂犬っていうのは、確か入学早々大暴れしてるっていう…」


「そう、それ」

 梨々花は指を鳴らす。


「見た目はひょろくて全然強そうじゃないのに、

 倒しても倒しても立ち上がってくるって噂。

 雷門中の“顔見せ遠征”をガチの殺し合いに変えたヤバい奴」


 夏菜が言葉を続ける。

「遠征組が十人以上病院送り。

 で、神代煙も一緒に運ばれて……」

「二日後には普通に登校した」

 梨々花が肩をすくめる。

「“あれは殺し合いだった”って噂。まあ、誇張はあるだろうけど」


「アタシは関わらないほうがいいと思うけどねぇ」

鷹津は眉をひそめる。

「一回見たけどさ、あれはただの喧嘩屋じゃねぇ」


「ふーん……」

ちょっとした雑談の中、一琉は箸を止めてぼんやりと空を見る。

まだ視たこともない白い頭と、“ただの喧嘩屋じゃねぇ”という言葉だけが、妙に頭に残った。



夕方。

パン屋カノンのシャッターを下ろし、一琉はエコバッグを肩にかけた。


「お疲れー」

 店の前には、原付にまたがった鷹津が待っていた。

 ハンドルにはコンビニの袋をぶら下げている。

「今日も送ったげるわよ、王子サマ」

「ありがとう、沙夜」

 一琉が笑うと、彼女は少しだけ咳払いした。


商店街のアーケードは、夏の気配を吸い込んで賑やかだった。

クレープ屋の甘い匂い、ゲーセンから漏れる電子音、部活帰りの生徒たちの笑い声。

静かな足音すら立てず、静が屋根の上から彼らを見守っていた。


と、前方の人垣が不自然に揺れる。


「……?」


一琉が視線を向ける。


小柄な白髪の少女。

ボロボロの制服にスニーカー。

その細い肩を、年上らしき不良女が二人、ぞんざいに掴んでいる。


「ちょっと付き合えよ、オマエ」

「あいつらが世話になったらしーじゃん?」

半ば引きずるようにして、少女はアーケード脇の路地に連れ込まれていった。


「……っ」

 一琉の足が止まる。

「ストップ」

 鷹津が腕を伸ばして前に出た。

 真剣な声だった。

「……あれは、放っときな」


「なんで?」

「あいつ、神代煙だ。狂犬。

あれに関わると、マジでろくなことになんねぇ」

アーケードの喧騒の中でも、鷹津の眉間のシワははっきり見えた。


「——連れ込まれてたように見えたけど」

「…あの三人のうち、生き残るやつ一人に賭けろって話なら、

 あーしは迷わず煙に賭けるね」

「……」

「それくらいヤバい奴よ。

 巻き添え食うのはこっち」


言ってることは正しい。

でも、耳の奥にこびりついた記憶がざわついた。



「……沙夜」

「なに」

一琉はゆっくりと息を吸い込んだ。


「蜘蛛の巣会の幹部を倒したあなたなら、大丈夫だと思う」

「ん?」

「頼っていい? 一人じゃ怖い。

でも、あれをこのまま見てるのは、もっと嫌だ」


「一緒に来てくれないかな」


 数秒の沈黙。

 夏の空気が、重くまとわりつく。



鷹津が呆れたように息を吐く。

「そう言われたら、断れねぇでしょうが」

それでも否定はしなかった。


短く舌打ちして、肩をすくめる。

「ヤバくなったら撤退する。約束」

一琉はうなずく。


鷹津は原付を路地の手前に停め、スタンドをかける。

その動きは、すでに戦う準備を終えた者のものだった。



「静ー」

一琉が小さく呼ぶと、風が揺れた。

振り向けば、いつの間にか静がアーケードの軒下に立っていた。

「お願い」

一琉が言うと、静は小さく頷いた。


三人は、薄暗い路地へと足を踏み入れる。

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