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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第2章 静かに見守る影
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第38話 新勢力

廃公園を抜けた夜風が、戦いの余韻をさらっていく。



静かな月光の下、

梨々花がくるりと振り返った。

手にはスマホ。画面の光だけが、

いたずらっぽい笑みを照らす。


「ねぇねぇ、今回の件、広めちゃっていい?

 おねが〜い♡」


血と埃にまみれた仲間たちの中で、

ひとりだけ妙に楽しげだ。



「はぁ? お前、マジで言ってんのか……」

夏菜が呆れ声で肩をすくめる。


一琉は少しだけ考え、静かに頷いた。

「……暗夜會の注意喚起になるなら、広めてもいいと思うよ。

無いとは思うけど、警察にもみ消されても怖いし、ね」


梨々花の顔がぱぁっと輝く。

「やった! ありがと、一琉♡ 

じゃ、任せといて!」



梨々花の親指が、迷いなく画面を滑る。

“暴露屋”モード。彼女の指先は、ほとんど戦闘のように速い。


数分後、見出しが躍る。


『【急報】蜘蛛の巣会=鬼道連残党だった。

背後に潜む暗夜會。

潰したのは“桜坂の転校生”率いる——

”凪嵐十字軍”!』


現地の写真や動画、位置情報を一部モザイク化して添付。

後に報道と合致する当事者の証明。


すぐさま鳴り続ける通知音の瀑布。

引用、転載、スクショ。裏SNSの黒い海に、白い飛沫が立った。





翌朝。

桜坂中の廊下はざわめきで満ちていた。


「え、マジ? 蜘蛛の巣会が鬼道連の残党だったけど、

直接乗り込まれて壊滅?」

「その裏に暗夜會がいたんだって」

「潰したの、あの天凪クンたちってこと?

“凪嵐十字軍”って呼ばれてるし!」

「かわいい男の子が実は…って漫画かよ!!ほんとにほんとなの??」



教室で梨々花がスマホを掲げる。


「速報速報!

裏SNS、現在“凪嵐十字軍”でトレンド独占中〜」


一琉は入学初日とはまた違う種類の視線を感じながら、

眉を寄せてスマホを覗き込む。


「……注意喚起のつもりだったんだけど、

これじゃ僕たちが“新勢力”みたいになってない? 

凪嵐十字軍って何?」


「ちょうどいい名前が必要だと思ってぇ〜。

かっこいいでしょ? 許して♡」


梨々花は肩をすくめ、上目遣いで首をかしげて見せる。



隣で夏菜が腕を組み、にやりと笑う。

「ま、いーんじゃね? アタシは大したことしてねーけど、

名前が広まる分には悪くねぇし」


鷹津が額に手を当てて呻いた。

「……なんか一晩経ったらヤバい気がしてきた……いやいや待て待て。

暗夜會との抗争とか、冗談じゃねぇって! 

あーしら、そこまでデカいことしたかぁ?」


静はスマホを一瞥し、無言で小さく頷いた。

表情ひとつ動かさないが、その背に微かに疲労がにじむ。



一琉はため息をつきながらも、苦笑いを浮かべた。


「……まぁ、仕方ないか。

名前が広まるのは、得にも害にもなる。

問題は――どう使われるか、だね」





裏SNSでは、すでに祭りのような騒ぎだった。

蜘蛛の巣会検挙の報道がなされてからは、

さらに火に油が注がれる。


「報道されてる…マジネタ確定じゃん」

「復活した鬼道連を巣から引きずり出したってことだよな、正気じゃねえって」

「鬼道連!? 鬼哭冥夜に潰されたはずじゃなかったのかよ!」

「その生き残りが暗夜會? マジかよ」

「地下に潜ってたって噂、やっぱホントだったんじゃね?」

「それ潰したって正気か? やばすぎだろ」

「桜坂の転校生+音無し+虎閃+鷹津……“凪嵐十字軍”ってやつらしい」

「ヘッドの転校生が超美男子ってマジ?」

「妄想書き込んでんじゃねえよバチバチの超武闘派だぞ」


コメントは雪崩のように流れ、

気づけば「凪嵐十字軍」はひとつのタグになっていた。


誰が言い出したかも分からないまま、

街の不良たちはその名を恐れ、あるいは憧れ、

勢力図の空白に“新しい名前”を書き込み始める。



「……なんか、勝手に歩き出してるな」


一琉はつぶやき、スマホを閉じた。

遠くで、昼のチャイムが鳴る。

風が校舎を抜け、窓際のカーテンを揺らした。


——凪嵐十字軍。


それはまだ形を持たない、ただの噂。

だが、この日を境に、“桜坂の転校生”の名は

確かに街の闇へと刻まれていくのだった。

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