第37話 事後処理
祭りが終わった後のような、
静かな空気が満ちる連結コンテナ内。
ボロボロのハエトリが松葉杖をついて戻ってきた。
縛られたアシダカたちを見るなり、ふっと笑う。
「……こうなったかぁ。最悪すぎて、ちょっと気持ちよくなってきた」
「生きてたか、ハエトリ」
アシダカが苦笑し、ハエトリは肩をすくめる。
「逃げないのかよ?」
「う~ん、ま、腐れ縁だしね」
そういってハエトリはどかりと座り込んだ。
静がその手足を縛り上げる。
◇
「…おい」
鷹津がマネキに声をかける。
「ち、格下に負けてへこんでるんだからさあ、
そっとしといてほしいもんだね」
舌打ちを一つ。
じろりと睨み返し、皮肉気に応えた。
「ふん、そんな格上のマネキさんでも地獄鬼は怖いってわけ?」
「どーせ君じゃ勝てないんだから、聞くだけムダムダ。
手も足も出せなくなって後悔するがいいさ」
「けっ、聞くまでもねえっての。
ビビってるとこ笑ってやろうと思っただけだっつーのよ」
「…その虚勢だけは本物かもね。
デカい一発を喰らわされて泣いてるのが目に見えるようだよ」
「…アンタさっきから」
「もう話すことはないよ。
”本物”には思い付きの武器攻撃なんか通用しないから、
せいぜい技を磨いとくんだね。ま、無駄だけど!」
そういうとマネキは縛られたままゴロリと寝ころび反対を向く。
もう何を問われても応えることは無かった。
◇
「ジョロウさん」
一琉は静かに問いかける。
「暗夜會のやり方は中高生にしては洗練されすぎています。
裏にだれかいるのではないですか?」
「……一本だけ吸っていい?
“終わりの味”を覚えときたいの」
流し目を一琉に向ける。
「…一本だけ。終わったら縛り直します」
ジョロウは煙草をふかすと話を始める。
「ふぅ……六道鬼の一員、人鬼が持ち込んだやり方よ。
いや、持ち込まされた…かな。
そいつによって暗夜會は、
ただの不良集団から変質した」
梨々花が補足を入れる。
「人鬼…リリアン周辺で勢力を持っていたお嬢様ヤンキーね。
物珍しさから六道鬼に数えられていたけど、
最弱の勢力だったはず…」
表現の違和感、一琉はそこが重要だと直感する。
「持ち込まされた…? それは、誰に?」
「くす…鋭いのね。
でも一本分じゃこれ以上は秘密。
実際に会ったら驚くわよ」
ジョロウは妖艶に笑った。
そして、
煙草の長さが半分ほどになったころ、
沈黙の中でジョロウが呟く。
「さて………完敗…ね」
ジョロウが改めて一琉を見やる。
「何が何でも鬼哭冥夜に報復するためにやってきたけど、
今度は男の子に負けるとはね。
ここまで徹底的だと、
いっそ清々しいわ」
ジョロウは胸ポケットをなでると、
壁に描かれた蜘蛛のマークを見上げ、
一本をゆっくりと吸い切った。
◇
事後の段取りを終え、立ち上がり——
一琉は、蜘蛛たちへ向き直る。
「全部終わったあと、
カノンにパンを食べに来てもいいです。
僕に報復しに来てもいいです。
でも——もう、筋の通らないことはしないでほしいです」
沈黙。
やがて、ジョロウが微笑んだ。
「ねえ一琉くん。
暗夜會は、まだまだ根深いわよ。
どんなニュースが届くか——
少年院で楽しみにしてる。
……せいぜい頑張るのね」
一琉はにこりと微笑んだ。
◇
数時間後。
アジトを離れた一琉たちは、
公衆電話から匿名通報を入れる。
十数分後。
遠くで赤色灯が交差し、蜘蛛の巣へと警官が流れ込む。
幹部は顔と役割が割れ、復帰は困難。
パシリは資料ごと押さえられ、
“被害者兼加害者”として保護の手続きへ。
暗夜會は上納ルートを断たれ、静かに軋む。
夜明け前の風が冷たい。
一琉は振り返り、遠くのコンテナ群を見た。
「……蜘蛛の巣に囚われていたのは、
蜘蛛自身だったのかもね」
そう呟いて、彼は歩き出した。
隣で静が、ほんの、ほんの少しだけ肩を寄せる。
夏菜が前を歩き、鷹津があくびをし、梨々花が忙しくメモを取る。
朝の気配がする風が、軽く背中を押した。
背後で、夜が静かに解けていく。




