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第36話 一琉の流儀

戦いの終りの空気。

帳簿のページがぱらぱらと風を受けた。

静が背後で控え、一琉は正面に座るジョロウを見つめていた。



「……終わり、ね」

ジョロウが唇を歪めた。

その声は、どこか芝居がかった静けさを孕んでいる。


「カンダが金庫番よ。わたしたちはただ、上に搾取されていただけなの。

一琉くんにはひどいことを言ったけど、

あれは……抜け出すために必死で。

…実は人質も取られていて——」



一琉は小さく笑った。

まるで気心の知れた常連と雑談するような、柔らかい笑み。


「うそ」


その言葉だけで、空気が変わった。



「……なにを言って——」


「本命が、別にありますよね?」


ジョロウの瞳がわずかに揺れる。

一琉はカンダのスマホを手にして、軽く掲げた。


「そこの帳簿の内容だけでも、カンダさんの報告と実際の集金額、結構差がありましたよ」



カンダが露骨に狼狽する。


「へ? しょ、しょんなわけ……」


「監査名乗るなら数字見ないと。

結果だけ渡されて、それを報告するだけ——

ジョロウさんたちが厚遇するわけです。

作り放題ですよ、裏金。」


「はへ……? う、うそぉ……」


カンダの顔から血の気が引いていく。

ジョロウは黙ったまま、笑みを消した。



「隠し場所を“二つ”用意するのは普通です。

上納金を取られている人たちならなおさら、もうひとつが本命。

……それに、同じ組織になめられて黙ってる不良なんて、いませんよね?」


軽く後ろで手を組む。


「さっきから目が泳いでますよ」


アシダカが一瞬、視線を逸らした。

その動きが、裏づけのように響いた。



「……え?まじ?」

「何?どういうこと?」

「た、たしかにありえなくは…」

「……すごい」



「……何を——」

「隠してる金がある。

投降して命を拾ったフリをして、

あとから回収して再起——

そのつもりでしたね」


ジョロウの口角がひくりと動く。





「…ともかく、まずは表金庫からか」


夏菜が腕を鳴らす。

「よぉ、出番だぜ。金庫開けな、カンダ」



「おいカンダ」

ジョロウの声が低く響く。


「金庫守り切れば暗夜會に戻れる。

サツが入っても、どっちの金庫も普通に探しちゃ見つからない。

証拠は出してある帳簿だけ。

留置所から連絡して回収させれば、面目は保てる。

今、有利なのはお前だ。

こいつらも殺しまではできない。……気合い入れな」


「!! ……た、たしかに?☆」


「ふーん、根性あるじゃん。どこまで持つかな~」

鷹津が笑い、わざとらしく拳を手に打ち付ける。

静が音もなく歩み寄る。


「ピぇっっ……」

カンダはすぐに震え出した。



「待って、みんな」

一琉が手を上げる。


「ね、カンダさん。

金庫を守り切ったとして、暗夜會の人が帳簿を見たらどう思うでしょうね?

分け前もらって結託してた、って思われても仕方ないですよ?」


「へ? そ、そそそんなことしてないし!」


「おい、聞くな!」ジョロウが遮る。



「楽しくパーティなんか開いちゃって……

仲良さそうでしたよね。

普通の頭があればそう判断しますよ」


「あ、あばあばああば」


「全部取られてしまえば、あなたの失態も一緒に消える。

あなたに残された道は、負け犬か、裏切り者。

どちらかしかないんです。

……ね、開けちゃいましょう?」



しばしの沈黙。


「…………………あ、あけましゅぅぅぅ……」



「……こ、こえ〜」

夏菜と鷹津が同時に呟く。


「チッ、カスが」

ジョロウの舌打ちが響いた。



カンダの案内で、隠されていた金庫が開く。

中には札束、上納リスト、脅迫資料。

一琉は一枚一枚、確認していく。


「上納金とパシリの脅迫資料……上納リストは匿名。

やっぱり、中高生の組織にしては手慣れすぎている。

暗夜會とのつながりは出てこない、か」





「さて」

一琉はゆっくりと立ち上がった。


ジョロウの背後には、

意識を取り戻したアシダカと外から連れてきたマネキが縛られている。



「次は裏金庫、ですね」

その言葉に、ジョロウの肩がぴくりと動いた。



ジョロウの両肩に手を置き、目をのぞき込む。

「裏金庫が残れば、蜘蛛の巣会は復活できる。

……そうですよね?」


「……」


「場所を知っているのは、

ジョロウさんと…アシダカさんですね?」


「……」

沈黙するジョロウの冷や汗が、うなじを伝う。



「マネキさんはわざと見当違いのサインを出して攪乱。

信頼関係は強いですね。

アシダカさんも、慣れない腹芸を一生懸命で……

かわいいです。

うんうん、あっちなんですね?」


「は、はぁ? なんの話、だぁ?」



一琉の微笑は崩れない。


「…ねぇ、近江さんがカンダさんを追っていったとき、

裏手の廃倉庫まで行ったらしいんです。

偶然って怖いですね」


ジョロウが息を止めた。


「……何のことを言っているのか、

全く分からないわ」


「ありがとうございます」


一琉は立ち上がり、静かに言った。

「近江さん、梨々花。裏手の廃倉庫、たぶん床下。

探してきてもらっていいかな」

「「……は、はいっ!」」


「…っ」



「一琉…さん?

今のって…すごい…ですわね?」

唖然と見ていた鷹津が思わず口走る。


「んふ、どうしたの急に変な敬語。

本当に見つかるかもわからないし、

ちょっとしたカマかけ、だよ?」

柔らかく笑った一琉が答える。


「そ、そうよね~。

うまいこと見つかると、いいわね」

(ぜったい確信もってる!

……マジで一琉のことは怒らせないようにしよ)

鷹津は固く心に誓った。


(かっこよすぎ……しゅきぃ……)

静は平常運転だった。


(静以外は怖がらせちゃったな…

でも、これは必要なこと。

僕たちのためにも、

多分彼女たちにも…)

一琉は軽く水を含み、飲み込んだ。





しばらく待つと、二人が金庫を抱えて戻ってくる。


「ほんとにあったわ……」梨々花が呟く。

「場所もドンピシャ。名探偵かよって」夏菜が笑う。


「ジョロウさん。中、確認していいですか?」

「………………はぁ。

……本っ当に、怖い子ね。わかったわ」



伝えられた番号で開けた中には、金、そして金。


——そして、一枚の写真。


ジョロウ、アシダカ、マネキ、ハエトリ——

少しだけ若い四人がそれぞれポーズを決めている。

「我等最強永遠不滅愚連隊」と殴り書きされた落書き。



「……くす」

一琉が漏らすと、ジョロウは頬を赤くしてそっぽを向く。


「ち、笑いたきゃ笑え」


「ううん。

……根っこのところは、純粋だったんだなって」


一琉は写真をそっとジョロウの胸ポケットにしまった。


「他の金と資料は全部、ここに残そう。

……なんの落ち度もない人たちから取ったものだから」



ジョロウ達の目はいまだ油断ならないが、

企みの光は消えている。


今度こそ、戦いが終わった空気が広がった。


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