第21話 護衛任務、開始
パン屋の裏手の路地。
紙袋を両腕で抱えた守屋静は、
壁に背を預けてしゃがみこむ。
「……“恥ずかしがり屋さん”…って……」
音無しの静は、パンの袋を両腕で抱きしめたまま、
耳まで真っ赤になっている。
顔を上げることもできず、その場で小さくうずくまった。
「……バレてる……バレてた……そんな、はずじゃ……」
肩が震える。
あの少年の柔らかな声が、何度も頭の中で再生される。
『ちょっと恥ずかしがり屋さんなだけで、
よくパンたくさん買ってってくれるよ』
耳まで真っ赤に染め、静は袋をぎゅっと抱き寄せた。
肩を震わせ、遠くを見ながら、
そのまま過去を回想し始める。
◇
放課後の路地裏。
夕焼けを背に、静はパン屋の看板を見上げていた。
制服の襟を少し直し、息をひとつ整える。
(最近、ここ……人が少なくて落ち着けたのに)
店内には、見慣れない少年の姿があった。
柔らかい笑顔。整った立ち姿。
静の心臓が、一拍遅れて跳ねた。
「……誰……?」
ドアベルが鳴る。
中に入ると、甘い香りとともに、彼の声が迎える。
「いらっしゃいませ! おひとり様ですか?
今ちょうど焼きたての――」
静は反射的に目を逸らした。
無表情のまま、わずかに肩が硬直する。
そんな様子を見て、一琉は柔らかく笑った。
「あ、常連さんでした? 僕、まだ入ったばかりで」
「……ぃえ……っ、その、は、初めて……です……」
「そうなんですか、じゃあ今日がご縁ですね。
オススメはこのクリームパンですよ。
僕もさっき味見したばかりです」
その言葉に、静はしばらく黙って見つめた。
目の前の少年が、太陽の光のようにまぶしく見えた。
(……かわいい……)
「……買います……全部……」
「えっ、ぜ、全部!?」
焦る一琉。
静はうつむきながら、財布を出す手を震わせる。
パンを包みながら、彼が笑う。
「ありがとうございます。
よかったら、また来てくださいね」
「……はぃ……」
ぴっ、と不器用な敬礼のように会釈して、
静は逃げるように店を出た。
路地裏。
袋を抱えて歩く静は、ひとり小声で呟く。
「……あの子……かわいかったな……けなげで。」
「……助けようとしてるのかな……あの店……」
(…この街は平和寄りだけど、不良はうろつく。
たぶん今年からはさらに荒れる)
ふと薄暗くなってきた空を見上げる。
一番星が、静かに光っていた。
「……あの子に、怖い目にあってほしくない。
あの笑顔、守る……」
静はフードをかぶり、影に溶けた。
──音無しの静、護衛任務、開始。
◇
パン屋の裏手にしゃがみこむ静。
「……恥ずかしがり屋……うぅ……」
頬を覆い、静は膝を抱えたまま顔を伏せる。
胸の鼓動が収まらない。
「……一琉クン……そんな風に、思ってたんだ……私のこと……」
少しだけ、口元が緩む。
店の売り場――パンを並べる一琉の姿。
想像の力により壁越しにその笑顔を見た瞬間、
静はそっと立ち上がった。
「……かわいすぎる……一生……護る……」
袋をぎゅっと抱きしめ、彼女は音もなくその場を去る。
風が吹いて、パンの香りだけが、彼女の後を追った。




