表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第2章 静かに見守る影
18/156

第18話 はじめての寄り道

バイト終わり、雨上がりでもないのに、どこか洗われたような夜。



カノンの裏口から制服姿の一琉が出てくると、

通りに原付が止まっていた。

鷹津が足でスタンドを蹴り上げる。


「お、やっと出てきたわね。ほら、乗んな」


「え、今日は送ってくれるだけじゃないの?」


「バカ、せっかく夜空いてんのに直帰とかダサすぎでしょ。

ゲーセン寄ってくわよ」



一琉は苦笑して鷹津の後ろに乗る。


「……はいはい」


春の夜風が頬を撫で、

街のネオンが二人の頬を照らした。



ゲーセンの自動ドアが開いた瞬間、

熱気とまぶしい光が一琉の頬を照らした。

電子音が交錯し、リズムゲームの拍が壁を揺らす。


鷹津は常連のように堂々と歩く。


一琉のカバンをひょいと預かり、

ロッカーに押し込んだ。

「カバン置いとくな。盗られんぞ」


「ありがとう」



プリクラ機の前で鷹津が不意に腕を引く。

「はい、記念」


「えっ!?」

気づけば、強引にシャッターが切られていた。


出来上がった写真には、二人の顔が仲良く並んでいる。

「やば、カノンの看板男子まじ映えるじゃん」


「……パン屋の宣伝に使えそう?」


「もうちょいノリ覚えなって!」



音ゲーコーナーでは、

巨大なスクリーンの照明がリズムに合わせて瞬く。

鷹津がステップを踏むたび、観客のざわめきが膨らんだ。


一琉は隣のUFOキャッチャー、

他の客がプレイした際に爪の“遊び”を見極め一発でぬいぐるみを落とした。


鷹津が思わず口を開いた。

「えっ、天才?」

「掴む力は相当弱そうだったから…

タグの穴に通せれば関係ないかなって」


「……手先器用だな。どんな仕事してたらそんな動きになるんだよ」


「接客業、かな」

「ふーん……」


(絶対なんか裏があるやつ)と、鷹津は目だけで言った。


少し離れた筐体のガラスの向こう、

一琉たちの姿を、影がじっと見守っていた。



少しの後、

トイレ横の休憩コーナーで、一琉たちに影が近づく。

周囲では、少し離れたメダルゲームの電子音が絶え間なく響いていた。


「あれあれ~転校生クンじゃないの~?」

「やっぱ超かわいいじゃん、お姉さんたちと遊ぼ~?」



髪を染めた不良が三人。



鷹津の空気が変わる。

「あ?……何気安く声かけてんだ、テメェら」


空気が一瞬で張り詰めた。

周囲の電子音が奇妙に遠く聞こえる。


「お、鷹津ちゃんじゃ~ん。

そういや近江にあっさり負けたんだっけ?」


ヘラヘラとした応答。



ドン、とメダルマシンが大当たり音を鳴らす。

明滅するライトが、鷹津の鋭い横顔を赤と青に染めた。


遠くの影が滑るように近づいてくる。


「……」

瞬間、鷹津の手が閃いた。


手首を捻り上げ、膝裏を刈り、壁へ押し付ける。

――三人が同時に息を呑む。



「あーしが負けたのは近江だけだ。

お前らごときが図に乗んなや」


「ヒッ……!」


不良たちは散り、店内の音が何事もなかったように戻る。

メダルがまたざらついた音を立てて流れ落ちた。

近づいていた影はスッと消えた。


一琉は苦笑しながら言う。

「……やっぱり、強いね」


「まあね。護衛だし、これくらいはやるっての」

照れ隠しのように笑い、再び音ゲーに戻っていった。



帰り道。


原付で冷えてきた夜風を切りながら、

鷹津が声を張った。



「アンタ毎日バイトしてるけどさあ、そんなに生活大変なわけ?」


「……そこまでではないかな。

僕がやりたくてやってるだけだよ」


「ふーん…

あーしみたいなバカにはわかんない考えがあるんだろうけどさあ、

もうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃねぇのって思うわけ。

学校でもバ先でも完璧だと、疲れるっしょ」



「……それで今日は連れてきてくれたんだね。

来たことなかったんだ、楽しかったよ」


「まじ? あんた、どこで育ったのよ」


「……少し、遠い場所で」



鷹津は小さく笑った。


「ま、少しはストレス発散になったっしょ」

「……うん、ありがとう」


「お礼は今度またゲーセンね」

「ええ……」



春の空は透き通るように高く、

星々が冷たい光を投げていた。


夜の街に、二人の笑い声が風に溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ