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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第6章 血祓戯流、夜を越えて
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第108話 コンクリート・バトルライン

 合図もなく、最初の三人組が飛び出した。

 中央の一人が前に出てジャブを連打。

 左右の二人が、半歩後ろからカバーの構えを取る。

 軍命魔流の基本フォーメーション。


「――行くぞ」

 煙が一歩、床を蹴った。

 足音を殺して一直線に間合いに入る。


 前の女のジャブが伸びる。

 煙はそれを、首をわずかに傾けて外に滑らせた。

 右肩の外をかすめる拳。

 同時に、煙の左ストレートが女の顎を真上に突き上げる。


「がっ――!」

 上体が浮いたところへ、その腰にタックル。

 両足をすくい上げ、勢いのまま横のワゴン車に叩きつける。

 鉄板が鈍くへこむ音。


 左右のカバー役が同時に踏み込んでくる。

 ひとりはローキック、ひとりはフック。


 煙はローをスイッチで空振りさせ、わずかに後ろへ跳ねる。

 バランスを崩した足首めがけて、低い軌道のフックキックを叩き込んだ。


「いっ……!」

 足を払われた女が前のめりに崩れ、

 その背中を盾にするように、煙はさらに半歩下がる。

 もう一人のフックが、仲間の背中にめり込んだ。

「っだぁ!?」

 悲鳴と共に、二人まとめて膝をつく。



 そこでようやく、夏菜が柱の影から弾け出た。

「甘ぇんだよ、隊列任せの殴り合いは!」


 手近な軽自動車のボンネットに片足を乗せ、体重を預けて跳ぶ。

 上がった視点から、一番後ろにいる号令役の女を視界で捉えた。

 空中で体をひねる。

 遠心力を乗せたローリングソバットが、号令役の顔面を正面から捕らえた。


「ぐはっ――!」

 女の体が仰向けに倒れ、その向こうの照明スタンドにぶつかる。

 ライトがぐらぐらと揺れ、画面の画角が一瞬ぶれる。



 別の方向では、薫子のヨーヨーが、金属音を立てていた。

 細い糸が、三人一組の最後尾の足首に絡みつく。

 薫子は半歩引きながら、手首を返す。


 糸が締まり、足を払われたように三人が同時に転ぶ。

 そこへさらにヨーヨー本体を振り抜き、こめかみと肩口に当てていく。

「順番にお休みなさいなっ」


「おい、あれ玩具じゃねぇぞ……」

 観客のざわめきと、コメント欄の文字が重なる。

《狂犬の突撃エグい》

《虎閃マジで空飛んでて草》

《あのヨーヨー、絶対特別製だろ》



 スロープ側からも新手が駆け上がってくる。

 夏菜はスロープの縁まで走り、コンクリの段差に足を掛ける。


 身体を横に寝かせるようにしながら、

 下から上がってくる先頭の顔面めがけて、かかと落とし。

 硬い音と共に、女の首がのけぞる。

 そのまま転がり落ち、後続の足を絡めていった。


「はいよっと」

 夏菜は手すりに片手をついて体勢を立て直し、すぐさま上から飛び込んでくるパンチを、前腕で外へ払う。


 横目で見ると、煙も別方向の三人組と組み合っていた。

 ひとりのフックを前腕で受け、肩で押し返しながら、

 もうひとりのボディブローを肘でブロック。

 受けるたび、膝をわずかに曲げて衝撃を逃がしている。


 薫子のヨーヨーは、今度は天井の配管に引っかかり、そこを支点に弧を描く。

 振り子の頂点で、ヨーヨーが一人の側頭部を叩き、帰りにもう一人のこめかみをかすめる。

「ふふ、頭数が多いほど打ちやすいですわね」



 夜猫衆の列が、波打つように崩れていく。

 その光景を、修羅鬼・嶋岡綾羅は黙って見ていた。

 腕を組んだまま、隊列の一番奥で。

 それでも、目はひとりひとりを正確に追っている。


(虎閃、狂犬、元修羅鬼――)

 思考の中で、それぞれにラベルを貼る。

(どれも厄介だが、やってる事は単純だ。

 列を潰して、個の殴り合いに持ち込んでるだけ)


 その“単純さ”が、軍命魔流にとって一番の毒だった。

 フォーメーションを組むには、最低限の頭数と、号令役が要る。

 その号令役を、あの三人は執拗に狙い続けている。


 さらに視線を奥へ送る。

 戦場の後ろ。

 鉄柵の手前で帽子を目深にかぶり、わずかに膝を緩めて構えている影。


(……鷹津沙夜)

 三中の乱戦が、記憶の底からよみがえる。

 あの時は、陣形の端から突っ込んできた小娘を、まともに組む前に流して終わり。

 それきり、印象に残るほどでもなかった。


 だが今は――

(“温存”してる)

 前線で暴れる三人と違い、彼女はまだまともに踏み込んでこない。

 フォーメーションが崩れかけた瞬間だけ、一歩だけ出て、味方の隙を埋める。

 そのくせ、決して無理はしない。


(あれが“切り札”のつもりか)

 綾羅は鼻で笑いかけて、やめた。

 笑うには、配下の倒れる音が多すぎたからだ。


 柱に叩きつけられる音。

 ボンネットに転がる音。

 うめき声と、コンクリートを靴がこする音。


(このまま削り合えば――こっちが先に形を失う)

 軍命魔流は、数で相手を制する流派だ。

 だが“数”にも限りがある。


 この場に用意できる頭数。

 そのうち、まともに動ける“兵隊”の割合。

 虎閃たちに削られていく速度。

 脳裏で、冷静に計算していく。



(“流れ”を変える)

 綾羅は一つ息を吐き、前に出た。

 最前列まで歩いていき、肩の力だけで「引け」と合図を送る。

 暗猫衆が、本能的に一歩下がる。

 乱戦だった空間が、ゆるく輪のように開いた。


「お、なんだ?」

 夏菜が足を止める。

「隊長が出るってことだろ」

 煙が、肩で息をしながら呟いた。


 輪の中心に、修羅鬼が立つ。

 面頬越しの声が、よく通る。

「……予定変更だ」

 綾羅は、ゆっくりと腕をほどいた。


「そこの」

 顎をしゃくって、後方の沙夜を指す。

「んな“雑魚”温存しやがって

 ——先に折ってやるよ」


 ざわ、と観客が揺れた。

《修羅鬼、自分からタイマン行くのかよ》

《あいつ、そんなヤベぇの?》

《さっきまでほぼ動いてなかったやつだろ》


「……アンタが、あたしを?」

 沙夜が一歩、輪の中に入る。

 帽子のつばを指で持ち上げ、真正面から修羅鬼を見た。

「他の連中は?」


「こいつらは“見せ物”を続ける」

 綾羅は輪の外に視線を流す。

「虎閃と狂犬とお嬢様――

 その三人で、うちの隊列を何人止めていられるか、試させてもらう」


 そして、再び沙夜へ。

「お前をさっさと片づけりゃ、後は崩すだけだ。

 雑魚がどれだけ粘れるか――試してやるよ」


「……へぇ」

 沙夜の口角が、少しだけ上がる。

「アンタ、あたしのこと“雑魚”だなんて、まだ優しく見てくれてたんだ」



「悪いけど」

 沙夜は、足幅を広げて構えた。

「配信の前座で終わる気は、さらさらないんでね」


 夜の立体駐車場。

 海風と照明の熱が交わる輪の中心で、

 軍命魔流の修羅鬼と、血祓戯流の末妹が、ようやく正面から向き合った。

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