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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第6章 血祓戯流、夜を越えて
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第104話 危険配信ジャック① 雷門の番格

 河川敷の廃グラウンドは、夜の湿気と土埃の匂いでむっとしていた。

 照明代わりの投光器が四隅から白い光を浴びせ、

 そのど真ん中で、一人の少女が立っていた。


 雷門中番格——山吹イミナ。

 短めのジャージにスパッツ、髪は高い位置でざっくり結んでいる。

 肩で息をしながらも、まだ目は死んでいない。


 その周りを、“軍隊ごっこ”じみた迷彩パーカーの連中が円を描いて取り囲んでいた。

 夜猫衆——修羅鬼が率いる配信ユニット。



「……おいおい、番格が意外とタフじゃねーか」

 迷彩の一人が笑う。

 イミナは返事代わりに踏み込んだ。

 右足を一歩大きく出す。右ストレートが、正面の女の頬を捉えた。


「ごっ!」

 殴られた女の頭が横に弾け飛び、そのまま横に倒れる。

 イミナはすぐさま左足で地面を蹴り、体の向きを変える。

 背後から組みつこうとしていた別の女の腹に、前蹴りを突き刺した。

 つま先じゃない。足裏全体で、へそ下を押し上げるように蹴る。


「ぐふっ!」

 息が抜けたところへ、イミナは右肘を振り下ろす。

 背中に肘がめり込み、二人目も膝から崩れた。


「……番格なめんなよ、コラァ!」

 荒い息の中で、イミナが吠える。


《雷門の番格つえーな》

《2人瞬殺www》

《山吹イミナってこんな強かったんか》

 画面のコメント欄が沸き立つ。



 その声を、グラウンドの端から見ている影があった。

「さっすが雷門の番格だな」

 夏菜が鉄柵越しにニッと笑う。


 その隣で、一琉はスマホを構え、別カメラの映像を確認していた。

 少し離れた高台には、梨々花と薫子が配信用の三脚をセットしている。

 煙と鷹津は、いつでも飛び出せるようにフェンス際で身を潜めていた。


「配信、向こうももう回してるわね」

 薫子がイヤホン越しに言う。

「コメントの流れ、チェックしてらっしゃいな」


 梨々花のタブレットには、夜猫衆の危険配信サイトが映っていた。

《番格思ったより強くね?》《はよ落とせよ》《雷門中ざまぁ配信待ってた》


「……ムカつくコメントばっかりね」

 梨々花が唇を噛む。

「こっちの配信も、もうすぐオンにするわよ。一琉?」


「うん。タイミングは——イミナさんが“本当にヤバくなった瞬間”」

 一琉はグラウンドを見つめながら答える。

「ヒーローは遅れて登場、演出させてもらう」


「ダチのケンカに遅れるのは本当は嫌なんだけどな」

 夏菜が苦笑してから、真顔に戻った。

「……でも、今日は“見せ場”も仕事だ。

 雷門と暗夜會、どっちに筋通すか、街中に叩き込んでやらなきゃな」



 グラウンドの中央では、状況がじわじわ変わりつつあった。

 夜猫衆の女たちが、散発的にかかっていくのをやめ、三人一組で動き始めたのだ。


 一人が前に出てフェイント混じりのジャブを振るう。

 もう一人が斜め横からローキックとタックルのフェイント。

 最後の一人が、完全に背後を狙う位置取り。


「——軍命魔流、ってやつね」

 フェンスに寄り掛かりながら、鷹津が低く言う。

「一人が“盾”、一人が“槍”、一人が“拘束”。三人で一人を刻むスタイル」


 イミナは最初の一組には対応した。

 前に出てきた“盾”役のジャブを、前腕で受け流す。

 受けた手をそのまま掴み、引き寄せる。

 バランスを崩した相手に、頭突きを叩き込む。


「がっ!」

 距離が潰れたところへ、イミナは膝を一発、みぞおちに突き上げた。

 だが、その瞬間にはもう、横からローが飛んできていた。

 右太ももの外側。筋肉の上からでも、骨に響くような重い蹴り。


「っ……!」

 イミナの膝が一瞬カクンと落ちる。

 後ろから回り込んだ三人目が、腰に腕を回し、上半身を固めようとする。

 ベアハッグに近い形だ。


 イミナはすぐさま肘を引き、脇を締めることでスペースを確保する。

 背中を丸め、顎を引き、完全な拘束を避ける。

 それでも、足はもう自由ではない。


「ほらよ、番格さまぁ」

 背後の女が耳元で笑う。

「正面塞いで、足止めて、じわじわ落とすのが軍命魔流だ」


 前に回り込んだ別の女が、ゆっくり拳を構えた。

 イミナは、歯を食いしばる。

 前にいる“槍”役の女の膝に、全体重をかけて踏み込む。

 つま先でなく、踵ごと押しつぶすように。


「ぎっ……!」

 バランスを崩した隙に、体を捻って背後の腕を振りほどこうとする。

 だが、すぐに別の組が横から入ってきた。

 右からのローキック。左からの前蹴り。上半身を殴るフェイント。


「足、死んでるじゃん。もう遊びも終わりだろ」

 イミナの太ももに、さらに一発ローが刺さる。

 今度は内側だ。筋肉が痙攣し、膝が折れかける。



 足が止まる——。

 その瞬間、「今だ」と一琉は呟いた。


「……夏菜」

「言われなくても」

 夏菜はフェンスを一気に乗り越えた。

 着地と同時に、土を蹴る。一直線にイミナたちの輪へ走り込む。


 前にいた夜猫衆の一人が、振り返って目を見開いた。

「あ? 誰——」

 言い終わる前に、夏菜の体がふっと軽く浮いた。


 左足を軸に地面を蹴り、右足を高く振り上げる。

 肩のラインと腰の回転を合わせ、真横に体を倒す。

 ——回転かかと落とし。

 宙を描いた右かかとが、相手の側頭部を正確に薙いだ。


「ぶへっ!?」

 一人目が、そのまま横倒しに崩れる。

 夏菜は着地の瞬間、そのまま前に滑り込む。

 イミナのすぐ前で止まるように、両足を踏ん張った。



「よぉ、雷門の番格」

 振り返らず、イミナにだけ聞こえる声量で言う。

「煙の件で抗争止めてくれた借り、ここで返すわ」

「……夏菜……?」

 イミナの声が、かすかに揺れた。


「ヒーロー役は慣れてねぇんだけどよ」

 夏菜はニヤリと笑い、まだ状況を飲み込めていない他の夜猫衆へと視線を向けた。

「——軍命魔だかなんだか知らねぇけど、三人まとめて相手してやるよ」


 グラウンドの端で、それを見ていた一琉が小さく頷く。

「配信、こっちもスタート」


 薫子の合図で、凪嵐側の配信もオンになった。

 二つの配信が、同じ夜の戦場を別々の角度から映し出す。

 その中央で、雷門の番格と桜坂の虎閃が、背中合わせに立った。


「イミナ、立てるか?」

「足は……イカれてねぇ。まだやれる」

「上等」

 夏菜は一歩前に出る。


 正面の三人組が、険しい表情で構え直した。

「凪嵐の虎閃……」

「ビビんな、囲めばどうしようもねえよ。

 おうこら、番格救出ヒーローごっこか? 配信のネタありがとよ」


 夏菜は肩をすくめた。

「ごっこ遊びしてんのはそっちだろ。

 ……本番の戦争は、まだこれからだぜ」


 その言葉が、夜猫衆の耳に届いたとき。

 グラウンドの外、暗闇の向こうから、ゆっくりとした足音が近づいてきていた。

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