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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン【中学生編完結済み】  作者: くにねむりと
序章 始まりの鬼哭冥夜《ナイトメア》
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第1話 仕事終わり

 中学一年の冬。


 ぼくはホテルのスイートルームの洗面台で、

 歯ブラシをくわえたまま鏡を見つめていた。


 そこに映る自分は、笑っていなかった。

 仕事で使う笑顔を作ってみる。

 まるで人形のようだとしか思えなかった。



 奥のベッドでは、地元警察の幹部をしている女が熟睡している。

 落ちかけた口紅、だらしなくはだけた胸元。

 シーツの中のその寝顔は、どこか溶けかけた人形のようだった。


 ぼくは息を吐き、歯ブラシを動かした。

 泡立つミントの味が、胸の奥まで苦く染みていく。



 デスクの上でノートPCが小さく音を立てた。

 情報の転送が完了した合図だ。


 これで、彼女の裏帳簿も写真も、

 全部カルト宗教”八岐大樹やまたのたいじゅ”に送られた。


 この女は教団に便宜を図るか、破滅するか、

 どちらかを選ぶことになる。



 窓の外を見やる。

 夜景は眩しいほどに輝いているのに、どこか空虚だった。

 あの光のひとつひとつに誰かの生活があるはずなのに、

 そこには熱も、音も感じられない。


 ふとテレビが目に入る。

 夜明け前だというのに、

 生放送のニュースが続いていた。



『LIVE中継——

 現職の県議と伝説の女番長が、

 県庁舎屋上でタイマンか!』


 画面の中、スーツ姿の県議と、

 白い特攻服の女が拳を交えていた。


 観衆がざわめき、報道ヘリのライトが二人を照らす。

 やがて番長が一撃を叩き込み、県議を地面に沈めた。



 夜明けのオレンジ色の中、

 血のついた拳でタバコに火をつける姿は——

 信じられないほど、まぶしかった。


 胸の奥がざらついた。

 息が詰まる。

 何かが、違う。



(……“この”世界は、どこかおかしい。)


 心の中でそう思った瞬間、背筋がぞくりとした。

 “この”——と言ったとき、

 自分でも知らないはずの“別の世界”を思い浮かべていた。


 記憶なんてない。

 でも、確かにあるのだ。

 どこか、ぼくが“知っていたはず”の世界。



 自覚をもってしまえば違和感はよりはっきりとうきあがってくる。

 男女比が1:50という極端な不均衡であること。

 女性が権力を握り、男性は黙って従うのが良しとされていること。


 …ぼくが教団の信仰対象——“虹星にじぼし”として、

 秘密裏に諜報員——男娼として使われていること。


 テレビに映っている番長のような”伝説”が数年ごとに現れ世間の話題となっていること。



 教団に育てられ、信仰の体で身体を売らされ、

 大人たちの欲望の中で“生かされている”自分が、ひどく惨めに思えた。



 ぼくは、鏡の中の自分を見た。

 無表情な少年の顔。


 けれどその瞳の奥に、言葉にならない焦燥と、

 理不尽に抗う決意が確かに宿っていた。



 歯ブラシを置き、水で口を濯ぐ。

 冷たい水が口の中を通るたびに、

 胸の奥の何かが研ぎ澄まされていく。


 鏡の中の自分が、ゆっくりと笑った。


「もう決めた。」


「ぼくの足で、自由になる。」


 窓の向こう——黒い空の端に、

 朝焼けの光が静かににじみ始めていた。

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