第十二章 捜索
「現場に残されていた死体についてですが――骨格の形状に、明確な異常が見られました」
会議室には、王子たちをはじめ、各方面へと捜索に向かっていた面々が揃っていた。円卓の上には報告書が無造作に置かれている。
その中から数枚の写真を選び取ると、シュナは全員の目が行き届くよう、卓上の中央へと置き直した。
「通常の人間のものではありません。不自然な歪み、骨密度……いずれも、先の北の砦に襲来した異形兵のものと一致するとのことです」
「……これで、襲撃犯はオルカで間違いないわけだな」
ぼそりと呟いたアルフォンスの言葉に、シュナはこくりと頷いた。
「現時点では、その可能性が最も高いと判断しています」
続いて、一歩前に出たのはランシーだった。
「野外訓練場に残された足跡ですが……隊列を組んで移動した痕跡は確認できました。ただ、隣接する森の中で突如として消えています。分岐も乱れもない。恐らく……ライヤンと同様の能力持ちかと」
「空間転移か……」
セオドアは低く唸った。
「厄介だな。効果範囲が分からない以上、捜索範囲を絞りようがない。……国境沿いはどうだ?」
視線を向けられ、シュアンランは隣に立つウィードと軽く目を合わせた。
「アドルフが周辺村落への聞き取り調査を続けています。フェルディナ側では不審な人物や集団の目撃情報はありませんでした」
「ですが――」
言葉を引き継いだのはウィードだった。
「オルカ側の国境沿いで一か所、廃村となっている集落が確認されています」
「廃村……?」
王子たちの視線が集まる中、二人は同時に頷いた。
「春先にフーリェンが偵察に訪れていた村です。特別小さいというわけではありませんでしたが……現在は完全に放棄されています」
「領主の館があった場所か」
「はい。報告にあった地下の実験場も確認しようとしましたが、既に潰されており、中へは入れませんでした」
「砦襲撃が失敗した際に、証拠隠滅のために潰した可能性が高いね……」
ルカはそう言って小さく息を吐いた。
「オルカ側の偵察は、そのまま梟隊に引き継ごう。ワンジー、君たちの方はどうだい?」
彼の呼びかけに、ワンジーは相変わらず感情の起伏を感じさせない声で報告を引き継いだ。
「梟隊による捜索は、本日で九日目になります」
その言葉に、ジンリェンの白い耳がぴくりと動いた。
「現時点で、有力な手掛かりは得られていません。オルカ中央部への潜入も試みましたが、特にこれといった情報はなく……国家規模での襲撃ではない可能性も考えられます」
「ますます分からなくなってきたな……」
「オルカではなく、一部の人間による犯行なのか……?」
「母上、オルカについて何かご存じないですか?」
アルフォンスの問いかけに、静かに報告を聞いていたヘラは卓上へと視線を落とした。
「オルカは独立国家だ。どの国の情勢にも加担せず、あくまで中立を謳ってきた。現統治者は……変わっていなければ、マルバスという男だ。その補佐を、弟のベリトが務めていたはずだが……」
そこまで言って、彼女は小さく首を傾げる。
「正直なところ、長年保ってきた国家間の距離をあの男が自ら崩すとは思えん」
「母上は統治者にお会いになったことが?」
「一度だけだ。アルベリヒの即位式の時にな。温厚な性格の男だったと記憶しているが……昔の話だ。お前たちは文書でやり取りしていたのだろう?」
「異形兵について探りを入れた程度です。書面では、はぐらかされました」
どれも決定打にはならない報告と情報ばかりだった。
第四軍が襲撃を受けてから、九日。
南との関連性は見えてきたものの、肝心の手掛かりは未だ何一つ掴めていない。
「国境沿いを中心に、捜索範囲を広げましょう」
沈黙を破るように落とされたワンジーの言葉に、王子たちはただ頷くことしかできなかった。




