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王宮の獣護  作者: 夜夢子
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序章 風に伏す影

【登場人物】

フーリェン…主人公。愛称はフー。狐獣人。ルカの直属護衛を務める。視認または記憶した獣人の身体的特徴を模倣することができる能力をもつ。

ルカ…フェルディナ王国第四王子。フーリェンの主。


【世界】

フェルディナ王国…5人の王子が統治する国家。物語の舞台。ヒューマンと獣人が共に暮らす。

アドラ王国…隣国。

獣人…獣の特徴を有した人類。ヒューマンとの大きな違いとして、「能力」を持つ個体がいる。

王宮の回廊をルカと共に静かに歩むフーリェンの足音は、薄紅色の絨毯に吸い込まれて消えていった。

白の髪が風に揺れるたび、朝の陽に溶けるように淡く光り、擦れ違う兵士たちが小さく礼をとる。

王宮の奥にあるルカの執務室に入ると、フーリェンは片膝をついて自身の主であるルカへと頭を垂れた。その姿に、ルカはかすかに目を細めた。


「そんなに堅くならなくていい。ここにいるのは、私とおまえだけだろう?」

「心得ております。しかし、―」

「……なら、せめて顔を上げてくれ。おまえの目が見えないと、私は落ち着かないんだ」


一瞬の沈黙のあと、フーリェンは静かに顔を上げた。

琥珀色の瞳が、まっすぐにルカを見つめる。


「報告します。隣国アドラの西辺境では、王国軍の動きは確認されませんでした。しかし――民間の集落に、武装した私兵のような者たちが集まり始めています。特定の紋章はありませんが、組織的に動いているようです」


ルカの表情から、微かに笑みが消える。


「……アドラはまだ表立った動きは見せないつもりか。それとも……獣人を使った戦争を始める気か」

「可能性はあります。数名の獣人も確認しました。戦闘は回避しましたが……」

「怪我は?」

「ありません。逃げ足には自信がありますので」


フーリェンの淡々とした言葉に、ルカはわずかに笑った。その穏やかな笑みに、ほんの一瞬だけ――フーリェンの頬が緩んだように見えた。


「ありがとう、フーリェン。おまえが戻ってきてくれて、本当によかった」


その言葉に、フーリェンはただ静かに頭を下げた。


王宮の奥では、今日も政が進められている。しかし、確かに風は変わり始めていた。隣国の陰、揺れる思惑、そして――静かに動き出す、かつての亡国の血。


フーリェンはただ、主の傍で武器を握る。

忠義の名のもとに。

家族と、愛する者と、そして自身を救ってくれた人々のために。

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― 新着の感想 ―
偵察任務を終えたフーリェンと彼を迎えるルカ皇子の静かなやり取りに緊張感と信頼関係が伝わってきました。隣国の不穏な動きやそれぞれの思惑が絡み合う宮廷の様子が示唆されていてこれからどんな物語が展開されるの…
想像が膨らむ。面白かった
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