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王宮の獣護  作者: 夜夢子
第10章
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第十章 フェルディナの氷狼

荒野の風が冷たく吹き抜ける中、シュアンランは凍てつく大剣をしっかりと握り締めた。彼の周囲には無数の土人形が這い出し、形を成してはじりじりと彼へと向かってくる。まるで無数の黒い砂が生き物のように動き回っているかのようだった。敵の数は絶えることなく増え、動きは鈍いながらも、確実に彼を取り囲もうとしていた。


深紅の目が冷たく光る。彼は周囲を一瞥し、呼吸を整えた。その刹那、足元から大地の冷気を引き寄せ、ゆっくりと広げていく。やがて、彼の周囲数メートルの地面が凍りつき、薄い氷の層が張り巡らされた。動きを封じられた土人形たちは一瞬怯んだが、すぐに凍りついた身体の中でもじもじと不気味に揺れる。


シュアンランは大剣を振り上げ、氷の刃が砕け散る音と共に土人形の一体を切り裂いた。その鋭い一撃で凍りついた人形はバラバラの破片となって崩れ落ちる。しかし、その破片も凍結したまま動き続けているのが不気味だった。だが、再結集はできない。シュアンランはその光景を冷静に見据え、次に備える。


敵の数は依然として多く、次々と足元から新たな土人形が出現する。だが、彼は一つ一つを無駄にしない。大剣を左右に振るいながら、地面を砕くように攻撃を繰り出す。そのたびに土人形は凍りつき、粉々に砕けていった。


何度も斬撃を浴びせるうち、シュアンランの息は静かに荒くなり、氷の大剣から放たれる冷気がより鮮明になっていく。彼の動きは止まることなく、荒野に氷の嵐を巻き起こした。舞い散る氷の粉が太陽の光を受けて煌めき、土人形の残骸はまるで凍った雨のように地面に降り積もった。


しかし、土人形の一つ一つの動きが鈍くなる代わりに、その数は増え続けていた。無限とも思える敵の出現に、シュアンランは冷静な頭脳で戦況を見定める。


この荒野にはシュアンラン一人。味方の援護もなく、全ての敵を相手にすることになる。


彼はにやりと笑みを浮かべた。


「これなら、全力を出せる……!」


力を込めた右手が大剣を強く握り直す。

じわじわと冷気が地面から湧き上がり、まるで生命を持ったかのように蠢き始める。その冷気は音もなく、静かに、しかし確実に荒野の土を凍らせていく。

亀裂を走らせながら地面が氷に覆われる様子は、まるで世界が凍りつくかのような迫力だ。


シュアンランの視線が鋭く、目の前の敵、数え切れぬ土人形たちの動きが次第に鈍くなっていく。凍りついた彼らの表面には薄い氷の結晶が幾重にも重なり、動きは完全に封じられる。


そしてゆっくりと大剣を振り上げる。

氷の刃が荒野の空気を切り裂き、放たれた一撃は凍りついた敵を一刀両断に砕き散らす。


その一振りは氷の嵐の始まり。地面から湧き上がる冷気が波紋のように広がり、視界の隅々まで一気に凍てつかせていく。荒野を覆うその氷の壁は圧倒的な力を持ち、敵の侵攻を押し返す盾となる。


シュアンランは冷たい風に乗せて低く呟いた。


「フェルディナの氷狼舐めんなよ」


凍てつく大地の中で、彼の冷徹な決意が荒野を震わせた。




**

砦の前で、双子は息を呑んでその光景を見つめていた。広大な荒野にぽつんと立つ狼男の姿。片手に氷の大剣を携え、静かに力を解き放つ彼は、いつもとはまるで別人に見えた。


一振りごとに荒野は冷気に包まれ、見る間に氷の大地へと変わっていく。大剣が放つ刃先から、無数の氷の結晶が舞い散り、広がっていく冷気の波は、一瞬にして地平線までの荒野を凍てつかせた。二人の胸に迫るのは、驚きと共に湧き上がる畏怖の念だった。


「シュアン……」


フーリェンが囁く。

ジンリェンもまた無言で頷き、その一面を初めて目の当たりにする衝撃に飲み込まれていた。荒野を覆う氷の世界。そこに立つ彼は、まさしく戦場の化身のように凛と輝いていた。


共に幾度となく戦場に立ち、何度も彼の能力が炸裂する姿を目にしてきた。


ジンリェンの胸に浮かぶのは、長年の親友として知る彼の姿。穏やかで、時に優しく、誰よりも誠実な顔。フーリェンの心に映るのは、自分だけに見せてくれた柔らかな微笑み。


しかし今、この広大な荒野で剣を振るい、氷の力を自在に操るシュアンランの瞳は、まるで獣のように輝き、どこか楽しげだった。冷徹な殺意と無垢な喜びが混じり合うその表情は、彼らが知る男とは違う、まさに氷狼の名に相応しい、一匹の獣のようであった。






**

冷たい風が荒野を吹き抜ける中、シュアンランは一人、広がる敵の土人形たちを見据えていた。

彼の肩には氷の大剣がずっしりと重くのしかかり、その冷気が手元から周囲へと波紋のように広がっていく。敵は無数。まるで地面から湧き出るように次々と現れ、じわりじわりと距離を詰めてくる。


だが、彼の動きは無駄がない。大剣を振るうたび、氷の刃が空気を切り裂き、土人形を粉砕しては霜となって消えていった。足元に力を込めれば地面が瞬く間に凍りつき、敵の足取りを封じる。氷の矢を放てば、遠くの敵が爆ぜ散る。切り裂き、凍らせ、砕く。


戦場はまるで凍りついた静寂の中での殺戮の舞踏会のようだった。彼の表情は硬い決意に満ち、どこか楽しげな笑みすら浮かんでいる。


敵がどれだけ現れても、決して怯まず、圧倒的な冷気の力で迎え撃つ。


どれだけ敵が現れようとも、援軍が来るまでは、俺がこの場所を死守する。その想いが、冷気となって彼の刃に宿り、荒野に凍てつく氷の嵐を呼び起こしていた。まるでシュアンラン自身の意志が刃となり、氷となって荒野を支配していくかのように、戦況はシュアンランを中心に動いていた。

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