表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮の獣護  作者: 夜夢子
第10章
194/250

第十章 土人形

地面が次々と波打ち、そこから人型が這い出してくる。

それらは粗く形作られた土の人形で、中にはジンリェンが先ほど焼き払ったはずの、フーリェンに酷似した姿のものまで混じっていた。


焼け焦げたはずの“影”が、崩れた土を再び寄せ集め、ゆっくりと立ち上がる。

その異様な光景を見て、ジンリェンの瞳が鋭く光る。


「……これか!」


その一言に、隣のシュアンランも短く頷いた。

倒しても立ち上がる正体不明の兵士――これこそが、砦を一瞬で壊滅させた原因に違いない。

フーリェンは即座に状況を飲み込み、新兵たちに声を張り上げる。


「全員、背中合わせだ! 一方向に気を取られるな!」


命令を受けた新兵たちは、恐怖を押し殺しながら背中を合わせ、じりじりと円陣を作る。

その横で、フーリェンは背中の槍を素早く引き抜き、迫りくる土人形の首を突き砕いた。

砕けた土が飛び散り、足元を汚す。だが次の瞬間、再び崩れた土が集まり、形を取り戻し始める。


嫌な手応えとともに、戦いが本格的に始まった。


それぞれが迫り来る土人形と必死に渡り合う中、ジンリェンは両腕を広げ、能力を解放した。

燃え盛る炎が轟音と共に一帯を包み込み、周囲の空気が熱で震える。赤橙の閃光が視界を切り裂き、複数体の土人形を一気に呑み込んだ。焼ける匂いと、崩れるような音が耳を打つ――しかし、確かな手応えはなかった。


「……っ、やっぱりか」


ジンリェンは歯噛みし、わずかに後退した。

炎に包まれた土人形は黒く焦げ、いったんは崩れ落ちたものの、灰混じりの土塊がまるで意思を持つかのように再び集まり、形を取り戻していく。炎は彼らの動きを一瞬止めるだけで、決定打にはならない。


「相性、最悪だな…っ…」


低く吐き捨てるように呟いたその声を、シュアンランの耳は逃さなかった。


彼は視線を走らせ、戦況と仲間の位置を素早く確認すると、手にしていた氷の大剣を迷いなく地面に突き立てた。鋭い氷刃が一瞬で砕け、淡い霧となって消え去る。次の瞬間、彼は足元へと力を籠め、周囲の地面をきしませるほど踏み締めた。呼吸は深く、冷気を肺いっぱいに吸い込む。吐き出した息は白く、空気を刺すように冷やしていく。


「全員! 俺の背後に集まれ!」


響き渡る声は、戦場の喧騒さえ断ち切る鋭さだった。


フーリェンとジンリェンは即座に反応し、前線から後方へ滑るように下がった。

二人はシュアンランの意図を瞬時に悟り、その動きを邪魔しないよう新兵たちの動線を開ける。

ライヤンもすぐに気づき、転移の構えを解いて新兵たちを誘導する。新兵たちは迫り来る土人形を槍や剣で牽制しながら、半ば駆け込むようにシュアンランの背後へと集まった。


全員が集まったことを確かめたその刹那、シュアンランは両腕を大地へと押し付ける。凍える波が地面を這い、瞬く間に霜が走り、白い靄が濃く立ちこめる。氷結は生き物のように広がり、土人形たちの脚を一瞬で封じ込めた。動きが鈍り、やがて全身が氷に覆われ、無機質な氷像へと変わっていく。


シュアンランはその刹那を逃さない。

空中に新たな氷の大剣を形作ると、勢いよくそれを振り下ろした。

刃が振り抜かれると同時に、鋭い雹風が戦場を駆け抜け、氷結した土人形たちの身体を一気に粉砕する。


鈍い破砕音が連鎖し、氷と土が混じった破片が四方に飛び散った。砕かれた人形は、凍ったままの破片となって地面に散乱し、元の形に戻ることができない。ただ、凍りついた破片がその場で小刻みに蠢くだけ――新たに形をなすことも出来ない。


「取り敢えず、動きは抑えたが…」


シュアンランが低く呟く。

その声には、安堵ではなく次に備える緊張が張り詰めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ