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王宮の獣護  作者: 夜夢子
第8章
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第八章 双子の隊長

そんな夜の語らいから数週間が過ぎ、澄んだ朝の空気の中、第四軍は南門を抜けて広々とした野外訓練場へと足を運んでいた。フーリェンが隊列の先頭に立ち、周囲を見渡しながら歩いていくと、先に訓練を開始していた第一軍の隊列が目に入ってきた。最前列には堂々とした姿で兄ジンリェンが立ち、その周囲にはかつて第四軍に所属していた兵士たちの面影もちらほらと見え隠れしている。


白狐の双子が並んで訓練の指示を伝える光景は、多くの第四軍兵士の視線を一身に集めていた。主に全体への伝達役を務める兄ジンリェンの隣で、静かに補足を加える弟のフーリェン。中には展示演武を期に憧れを持ったという者もいて、その堂々とした姿に心からの敬意と憧憬の眼差しを向けていた。一方で、双子を比較する者も少なくはなく、兄のジンリェンと比べてフーリェンに未だに不満や疑念を抱く者もいる。


しかし、そんな複雑な思いを抱えつつも、多くの兵士たちは今日の訓練に強い期待を寄せていた。実際の動きを見て、自分たちの力量がどれほど伸びるのか、どんな成長が待っているのか――胸を高鳴らせながら目の前の双子の隊長の動きを追っていた。


第一軍の実践型訓練が始まると、兵士たちは互いに似通った能力を持つ者同士でペアを組み、鋭い動きの中で連携を試していた。炎や風、重力など多彩な力が交錯するその訓練は迫力満点で、間近で見学する第四軍の兵士たちの視線を一瞬たりとも逃さなかった。


「やっぱり第一軍の隊長の動きは別格だな」

「槍の使い方がまるで違う……太陽の光が槍に宿ってるみたいだ」


特に目を奪われるのは第一軍隊長ジンリェンの姿だった。彼は手に握った長槍を自在に操り、太陽の光を受けて槍身が鮮やかに輝いている。その熟練の技は炎の能力と見事に融合し、近づこうとする兵士を炎の弾幕で牽制しつつ冷静に間合いを詰めていく様子が、まるで戦場の舞踏のように美しく、圧倒的な威厳を放っていた。


そんな中、かつて第四軍に所属していた兵士数名と、新たに加わったばかりの新兵たちが、まだ動きのぎこちなさを見せながらも必死に食らいついていた。彼らの目には、ジンリェンの圧倒的な力と動きを見て奮い立つ気持ちと、同時に自らの未熟さを痛感する複雑な思いが映し出されていた。


訓練の熱気が辺りに満ちる中、隣にいたリオンがぽつりと小さな声でつぶやいた。


「僕、…あんな風に動けるようになるのかな……」


その呟きに気づいたフーリェンは、静かにリオンの肩に手を置き、柔らかく声をかけた。


「誰も最初から完璧に動ける者はいない。焦らず、一歩ずつだ」


そしてフーリェンは視線を周囲の第四軍の兵士たちに向ける。彼らの顔には期待と不安、様々な思いが混じっていた。フーリェンは少し間を置いてから、落ち着いた口調で続けた。


「目の前の彼らは、ほんのつい先日まで第四軍にいた者たちだ。必死に、毎日鍛錬を積み重ねて、今こうしてあの場に立っている」


その言葉を聞いたリオンの瞳が輝きを増し、周囲の兵士たちも次第にその声に引き込まれていく。誰もが希望の光を感じているかのようだった。


だが、その中で一部の兵士が小声でつぶやいた。


「鍛錬を積んでも、ずっとここ(第四軍)にいるのは、いったいどこの誰なんですかね……」


その言葉には明らかにフーリェンへの不満と挑発の意図が込められており、まるで彼の存在を否定するかのようだった。そんな声が届いても、彼は表情を変えず、まるで聞こえなかったかのように振る舞った。

しかし、彼の態度に不安げな表情を浮かべる他の兵士たちの様子を見て、フーリェンはしばらく沈黙した後、重く静かな口調で一言だけ口を挟んだ。


「もしそう思っているのなら、残念だけど僕には勝てないよ」


その言葉は冷たくも鋭い刃のように、挑発した者たちの心の奥に深く刺さった。だが同時に、その言葉には揺るがぬ覚悟と、自分の立場を受け入れた強さも感じられた。周囲は一瞬静まり返り、その場の空気が張り詰めた。フーリェンの言葉に、一瞬驚きの色を浮かべた兵士たちは気まずそうに視線を逸らし、口元を引き結んだ。その沈黙は、その場にいた誰もが感じ取れるほど重く、空気が一瞬だけ張り詰めた。


だがフーリェンはそんな空気に動じることなく、すぐに周囲の兵士たちに声をかけた。


「第一軍の訓練を間近で見る機会は滅多にない。今のうちにしっかり目に焼き付けておけ。」

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