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王宮の獣護  作者: 夜夢子
第8章
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第八章 語らい

夜の静けさが訓練兵舎を包む頃、シュナとリンリィは小さな部屋の中で顔を寄せ合っていた。昼間、フーリェンへと向けられた不満の声を話題に、二人は密やかに盛り上がる。


「やっぱり気になるよね……あんな言われ方されたらさ」


リンリィが眉をひそめる。


「まあまあ、でも隊長はああ見えて芯が強いし。言葉に惑わされず淡々としてるから、大丈夫なんじゃないかと思うよ」


シュナは明るい声でなだめるが、リンリィのむくれっ面はなかなか消えない。そんな時、部屋のドアに軽いノックが響いた。二人が顔を見合わせると、ドアが静かに開く。そこには、アンナと今しがた話題に上がっていたフーリェン本人が並んで立っていた。


「夜遅くにごめんね。今後の訓練内容について話し合いたくて、呼びに来たの」


アンナが申し訳なさそうに言う。


フーリェンはドア越しに二人の声が微かに聞こえていたのだろう。すっと眉をひそめているリンリィの顔を見て、半ば呆れたように問いかける。


「まだ気にしているのか」


リンリィは思わず顔をそむけて答える。


「だって……」

「申し訳ありません。この通り、むくれておりまして」


シュナが優しくリンリィの肩に手を置き、そう続けた。


部屋の明かりが柔らかく灯る中、フーリェン、アンナ、シュナ、リンリィの四人は円を描くように腰を落とし、明日からの訓練内容について話し合う。


「明日からは基礎体力の強化を中心にしつつ、各自の能力を活かした実践的な演習も増やそうと思う」


フーリェンが静かに言葉を切り出す。


「隊長、もし明日以降も苦言を漏らす兵士がいたら……」


リンリィが真剣な眼差しで続けた。


「今度こそ、絞めてやる」


その言葉にアンナとシュナも力強く頷く。


「やめろリンリィ」


フーリェンが制止の声を上げる。だがその声にはどこか余裕が感じられた。


「今回の新兵たちは、力もあるが癖も強い。慎重に接しなければなりませんね」


シュナが続けて言う。フーリェンは深く息をついてから、少し笑みを浮かべたように見えた。


「むしろ、…お前たちの代が素直すぎただけだ」


静かな声でそう漏らす。


「そうなんですかね……」


アンナが首を傾げて答えた。


「私は途中から第四軍に入ったから、前回の再編成の時のことは知らないんです」


彼女の言葉には純粋な好奇心が込められていた。

アンナがぽつりと口にした言葉に、三人はそれぞれの胸に去来する思いを言葉にし始める。


「僕は、ルカ殿下の直属護衛に就任すると同時に、第四軍の隊長になった。…お前たちが初めての代になるからな……」


その言葉には、静かな緊張感が漂っていた。


シュナとリンリィはお互いを見てから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「僕らは、かなり田舎の出身で、王国軍の内情は詳しく知らなかったんです」


リンリィが言い、シュナも頷く。


「だから、隊長に対して特別な感情はなかった。隊長ってそういうものだと、自然に受け入れていたんですよね」


シュナは少し考え込むように目を細めてから、懐かしむように続けた。


「確かに、初めの頃は近寄りがたかったかもしれない……でも、それは隊長の寡黙さから…ですかね」


リンリィも頷きながら付け加える。


「そうですね。何を考えているのか分からないところがあったけど、慣れてくると頼もしさも感じました」


それを聞いたアンナは、どこかほんわかとした表情で笑みを浮かべた。


「私はその寡黙さがいいと思うんですけどねぇ。あまりたくさん話す人より、よっぽど信頼できそう」


フーリェンはそんな三人の話を静かに聞きながら、正直なところ何が正解か分からずにいる自分を感じていた。ただ、こうして四人で話すうちに、自分が最年長であるものの歳が近いためか、案外話すと盛り上がることにも気づいていた。




夜の静けさの中、ゆるやかに、しかし確かに築かれていく第四軍の新たな絆がそこにあった。

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