第七章 秘匿
王宮の空気は、外界のざわめきとは一線を画す静寂を湛えていた。
第二王子セオドアとその直属隊長シュアンランは、静かに執務室の扉を開ける。
室内には、既アルフォンスとルカが揃っていた。
扉が閉まる音と同時に、会話が始まる。
「双子は同席させていない」
先に口を開いたのはアルフォンスだった。彼の目は資料に向けられたまま、だが声には明確な意思が宿っていた。
「詳細を知らせるには、まだ時期が早すぎる。今の彼らの精神の均衡を崩すような真実は――特に、ジンには」
セオドアが軽く頷く。
「……ああ。実験記録に記されていた“個体K”と“個体S”。一見、ただの符号に見えるが……俺たちが得た情報を照らせば、それが双子を指す可能性は高い」
「そして、そこに紐づけられていた名が“カイ”」
その名を口にしたとき、ルカのまなざしがほんのわずか揺れ、アルフォンスが視線を上げた。
「ならば尚のことだ。ジンには、まだ知らせるべきではない。あいつは、フェルディナにおいてもっとも鋭く、そしてもっとも脆い刃でもある」
「……その刃を、自らの手で折らせるわけにはいかない」
ルカも、深く頷く。
「フーもまた、記憶の一部を封じたままです。ですが、それが今の彼を守っていることもまた事実」
セオドアは、少しだけ視線を落とした。
「……だが、このまま“知らぬふり”を続けるか…?」
「ふりではない。情報が必要となるその時まで、預かる。それだけだ」
アルフォンスの言葉に、誰も異を唱えなかった。
静かに、報告は進んでいく。実験室で発見された文書の断片。獣人への採血記録、融合の記録、そして“混ざりもの”という言葉に潜む意味。
ルカはそのひとつひとつに耳を傾けながら、最後に小さく呟いた。
「……彼らは私にとって、ただの護衛ではありません。……家族のように、思っています」
その言葉に、アルフォンスがふと目を伏せ、呟くように応じた。
「私にとっても同じだ。だからこそあいつを――ジンを、傍に置いている」
双子の兄が持つ憎しみの深さを知っているからこそ。
弟の奥底に眠るものを揺らしたくないからこそ。
今は、語らぬ決断こそが、彼らを守る盾となる。