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王宮の獣護  作者: 夜夢子
第6章
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第六章 残党

第六章 リヴェラ交易編 完

重厚な扉を静かに開けると、柔らかな陽光が差し込む部屋の奥にルカの姿があった。書類の束に目を通していた彼は、フーリェンの気配にすぐ顔を上げ、優しい微笑みを浮かべる。


「おかえり、フー」

「ただいま戻りました、ルカ様。無事にリヴェラとの交易を終えました」


フーリェンはそのまま机の前へ進み、真っ直ぐに立つ。白狐の耳を揺らしながら丁寧に礼を取り、いつも通り淡々と、けれど要点を丁寧に伝える。


「予定していた品目はすべて受け取り、問題なく搬入も済ませています。リヴェラ側からも、持参薬に関しての説明がありました。その中に……少し気になる新薬がひとつありました」

「気になる?」

「筋力増強剤です。用途としては訓練時の補助を想定したものでしたが、濃度や効果次第では軍事運用も可能かと。リヴェラ側もそこは認識しており、慎重な姿勢でしたが――」


フーリェンの瞳が僅かに伏せられる。


「交易の道中、賊に襲撃されていたとのことです。更に……」


少しだけ息を吸う。


「取引後、夜に野営地近くで襲撃にあいました。標的は、試薬の残香を持っていた医務官のユキ……あるいは薬そのものである可能性が高いです」


それを聞いたルカの表情から、ふっと笑みが消える。


「なるほど、薬を狙ってか…」


ルカの視線が、フーリェンの背に向けられる。隊服の上から羽織られた外套――その下、破けた布地と包帯の存在を確かに捉えていた。


「……怪我をしたの?」

「少し、背をかすっただけです。刺さったのは模倣した翼ですから、身体は……」


フーリェンが静かに肩をすくめると、ルカは眉根を寄せながらも、それ以上は深く追及しなかった。ただ、椅子から立ち上がり、フーリェンのすぐ傍に来るとその目を覗き込む。


「今回は、無茶をしていないね…?」

「…言いつけは守りました。深追いも、していません」


少し目を伏せたフーリェンの言葉に、ルカは微笑を取り戻す。そして、小さく息をついたあと、話題を切り替えた。


「――第七地区の報告も届いているよ。セオドア兄上とシュアンランの隊が動いている」

「進展は?」

「どうやら、十二年前の残党が、再び集まり始めているらしい。第七隔離区域を知る者が、また動いている。……」


フーリェンの耳が、ぴくりと動いた。


「やはり、情報が……漏れている、ということですね」

「それだけじゃない。情報だけじゃ、あの区域に再び“集まる理由”にはならない。もっと何か…あるはずだ」


ルカは静かに語る。封じたはずの“過去”。

白狐の兄弟が囚われていた檻。そして王国がひた隠しにしてきた、忌まわしい記録。その言葉に、フーリェンは黙って頷いた。兄と自分の過去、そしてあの場所で交わされた約束が脳裏をよぎる。


「必要であれば、僕も第七地区へ」

「うん……でも、今はまだ動かなくていい。君には君の役割がある。兄上たちが戻り次第、あらためて判断しよう」


ルカの声は穏やかだった。けれどその奥には、皇子としての決意が確かにあった。


会話が終わる頃、窓の外では西の空に茜が滲んでいた。かつて封じた過去が、静かに牙を剥こうとしていた。

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