第6話 ジイさんを探せ!その2
店内は相変わらず酒屋のように賑わっていて、
老若男女問わず様々な人達が居た。
「いや〜相変わらず大盛況だね〜」
「ところで、店に入ったという事は何か奢って
くれるんですか?」
「え、買い食いしたのにまだ食べる気なの?」
「チーズハットグとソフトクリームと春限定の
いちごラテ…こんなので私達のお腹が膨れるわけ
ありませんからね」
「ちょっ、ちょっと待って暁楓ちゃん……!そもそも
24歳に3人分の高級寿司が奢れるようなお金が
あると思う?」
「はい、月に25万以上も貰っているんですから煙草
とか煙草とか煙草に使ってなければあるでしょう」
「えぇ…僕のイメージってそんなのなの?
っていうかそれだと煙草人間にならない?」
「ああ、それは違うぞ暁楓。コイツは煙草と煙草と
煙草とキャバクラと酒だろう」
「余計悪化してるよねそれ!?それだとただの
典型的な駄目人間だっての!」
「何だ、違うのか?」
「君は僕を何だと思ってるのさ……まぁ否定しない
けど」
それを聞いた途端、2人は道端のゴミを見るような
目で冬木を見た。
「……否定しないんですか」
「暁楓、これからは何かあったら俺を頼れ」
「はい、そうします」
「な、ちょっ…酒はやってないよ!?」
「酒は、でしょう」
「うっ……偶に痛いトコ突くよね君…」
「ーーおい」
「!」
厨房の方から威圧感のある低く、重厚感のある
声が響いた。
「他の客の邪魔だ、早く座れ」
70前後と思われる店員は暁楓達を見下すような目を
していた。
「は、はい!」
3人は慌ててカウンター席に座った。
「……注文は何だ」
「え!?あ、えーっと…店主のオススメで!
か、暁楓ちゃん達は……!?」
「そうですね、私も同じ物をお願いします」
「俺もそうしよう」
「………」
男は黙って厨房へ戻って行った。
「こ、怖〜っ…」
「……冬木さん、あの人です」
「え?何が?」
「あの人が私が違和感を感じた人です」
鎌鼬は鼬の姿に戻り、尻尾を立てた。
「…匂いや霊力は普通の人間だな」
「う〜ん…僕はあまり探知が得意じゃないからなぁ…
でもちょっと怖い普通の人だと思うよ?」
「………」
「実際に会ってみて何か妙な所はあるか?」
「…少し集中してみます」
彼女は周りの音を遮断し、先程の男に意識を集中
させた。
ーー魚を捌く音、動き、佇まい、気配……
「………これは」
「何か分かった?」
「分からない事が分かりました」
「そ、そっかぁ…」
「…何でしょう、あの人は何かベールのような物で
気配も何もかもが隠されていたんです。普通の人間
には無いんですが……」
そこで3人は一斉に気づいた。
「普通の人間には無い…!?って事はそれって… !」
「…成程、それが不自然な点、即ち違和感だな」
「ならあの人が……」
「ーーお前達だったのか」
男は3人前の寿司を置きながら言った。
「!!」
「さ、さっきの…」
「私の気配を探っていたのはお前か」
「…はい」
「……私の名は武甕槌。
この寿司屋の店主を務めている。気配を探るという
事は私に用があるという事か」
「や、やったー!」
「見つけましたね…」
「……何の話だ、何を喜んでいる」
彼は怪訝そうな顔で私達を見下ろした。
「えーっと、実は伊弉諾社長から烏天狗経由の命令で
貴方に会えという命令が下されたんです。それで
朝からずっと探してたんです」
「………」
彼は考え込むようにして、黙って3人を見下ろして
いた。
「ようやく解放された〜!いや〜長かった!」
「それで、どうやってこの事を烏天狗さんに伝えるん
ですか?」
「それなら任せてよ、僕があの子を探して適当に
言っておくから」
<ガタッ>
「え、今行くんですか?」
「…私の寿司を食わんのかお前は」
「冬木、それは食べてからでも……」
「いや、早めに言っといた方が良いでしょ。報連相
って大事じゃない?僕の寿司は2人で食べてくれて
構わないからさ、代金も此処に置いておくよ」
「は、はあ…」
(何の為に寿司を頼んだんだアイツは……)
「じゃ、食べ終わったら解散してて構わないからさ。
帰り道は気をつけてね」
彼は武甕槌に軽くお辞儀すると、店から出て行った。
「ふ〜…まずは一服っと」
彼は煙草を咥えて火を付けると、大きく息を吐いた。
「……此処からは大人の時間ってね」
冬木隆之介……彼は元黄泉ノ桃源の暗殺者で汚れ
仕事をしていた。地獄に情報を流していた妖、悪事を働く妖と繋がっている祓志士などなど…彼は何百人と葬ってきた。
しかし、ある人物との出会いで彼は普通の祓志士に
なったというがその真相は不明である。
彼は烏天狗の霊力を探って東京郊外の人気の無い
森林へ来ていた。
「あ、居た居た。え〜っと…金、きん……まぁいいや
烏天狗君!」
どうやら烏天狗は森の中で懸命に妖に聞き込みをしていたらしかった。冬木は彼に武甕槌が見つかった事を話した。
「そっかー、良かった〜ボクの方は進展無しでさ…
わざわざありがとうね、兄ちゃん」
「良いって良いって、ご苦労様」
「うん、それじゃあまた何処かでーー」
<ガチャ>
ふと背後で銃を構える音がした。
「…!」
烏天狗がゆっくり後ろを振り向こうとすると冬木は
いつもより静かで冷たく、冷静に言い放った。
「………烏天狗の…誰だっけか?」
「き、金太郎だよ!それよりその銃は何なの!
冗談にも程が….」
「ーーあぁ、金太郎ね。忘れてたよ」
「っ…それ、早く下ろしてよ」
「……おかしいと思ったんだよね、伊弉諾社長が
僕達にわざわざ使いを寄越すなんてさ。基本的に
あの人、電話で言う人だからさ」
「!」
「君、精神操作系の能力が使えるんでしょ?
それで僕の上司を操って伊弉諾社長から君経由で
任務が来るって事にしたんでしょ?」
烏天狗は黙って真っ直ぐ正面を向いていた。
「何故そんな事をしたのか……暫く考えてたよ。で、
その答えは寿司屋に行く途中で気づいた。僕さぁ、
わざと道に迷ったフリして色々な場所を歩いたん
だよ。そうしたら、所々の路地裏に現世と地獄を
繋ぐ穴…あぁ、蜘蛛の穴って言うんだっけか?
それが何個もあってさ……この意味分かる?」
「……」
「君、最初何て言ってたか覚えてる?迷ったって
言ってたんだよ。でもそれは嘘で、本当は迷った
フリして蜘蛛の穴を設置してたんでしょ。違う?
地獄の使いさん?」
「ーーフッ、フフフフフ……なかなか鋭い人間だ」
「ビンゴってとこかな。でも1つだけ分からない事が
ある。わざわざ嘘の任務なんて僕達に言う必要
なんて無かったんじゃない?黙って君1人でやれば
僕にバレなかったと思うよ。どうしてこんな
よく分からない事をしたのさ」
「それが彼の方の命令だっただけだ」
「…彼の方?」
「ああ、そうだ。ワタシ達を蘇らせてくれた
偉大な方……閻魔天様だ」
「!閻魔天って確か2000年前に八岐さん達と戦って
敗れたっていう地獄の王か…!」
「そうだとも!彼の方が何を考えているかは分から
ないが、ワタシは彼の方の為なら捨て駒にも奴隷
にもなろう!それがワタシの彼の方に対する忠誠心
と誠意なのだから!」
「……捨て駒になる、ね。最初から閻魔天は君を
捨て駒としか見てなかったと思うよ」
「何…?」
「考えてみなよ、蜘蛛の穴なんて設置してるのが
バレたら即、祓志士に殺される……そういう
仕事には別に死んでもいいような捨て駒を使う
でしょ?」
「フッ、フッフッフッフッ…」
「今から死ぬってのに何笑ってんのさ」
「捨て駒で結構、ワタシが少しでも閻魔天様の
お役に立てたのなら万々歳だ!!」
「……さっき「達」って言ってたから仲間が居るん
でしょ。教えてよ」
「キサマのような者に教えると思うか?キサマは
情報の得られない捨て駒をただ無意味に殺す
だけだ!クハハハハハハ!ハハハハハハハ!!」
「ーーウザいんだよ、君」
<ドンっ!>
耳をつんざくような発砲音と共に弾丸は烏天狗の頭を貫通し、彼は膝から崩れ落ちた。倒れた所には大きな血溜まりができた。
……辺りからは虫の鳴き声も、動物の鳴き声も聞こえなくなってしまった。聞こえるのは風で微かに揺れる草木の擦れる音だけになった。
「有力な情報は無し、か…まあでも、閻魔天が何か
しようとしてる事は分かったかな。支部長と
八岐さんに連絡しとこっと」
彼が携帯を取り出し、メールを開いた瞬間だった。
<ピッ>
「あ……充電切れた」
一方その頃、暁楓達はまだ武甕槌が営む寿司屋に居た
時刻は8時30分を過ぎようとしていた。
「…遅いですね」
「ああ、連絡が繋がらないとなれば何かあったのかも
しれない」
「充電が切れた、なんて馬鹿げた事は無いと思い
ますが……心配ですね」
「まぁ、あの男の事だ。また明日何処かでふらっと
会うだろう」
「…そうですね、今日の所はあの人も帰って良いと
言っていたので彼を信じて帰りましょう」
「ああ、だが念の為八岐には連絡しておけ」
「はい」
<ピッ>
「ーーあ、充電切れました」
「…何?」