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第5話 ジイさんを探せ!その1


今朝は太陽の光が人影に遮られていた。

しかし、私の部屋には私以外に人間は居ない。

…まさか敵襲だろうか?私は警戒しつつ目を開けた。


「ーーおはよう」


ぬっと見慣れた顔が私の顔を覗きこんだ。

…そうだ、人間は居なくても妖が1匹居るんだった。


「…鎌鼬さんだったんですか。今朝は人間の姿

 なんですね」


「ああ、朝日を描く為に一時的に変身した」


「朝日を描く…ですか」


「風景画を描くのが趣味でな、見るか?」


「良いんですか?」


「ああ」


彼はそう言うとスケッチブックを開いて彼女に

見せた。スケッチブックには既に何枚も絵が描かれていて、色鉛筆で丁寧に塗られていた。


「綺麗……ですね」


「この辺はビルばかりで描ける物が少なくてな。

 何処か良い場所は無いか?」


「…そうですね、この辺だとゲートブリッジとか

 どうですか」


「ゲートブリッジ?」


「あそこにある大きな橋です、夜にはライトアップ

 されてとても綺麗なんですよ。良かったら今度

 一緒に行きませんか」


「そうだな…この絵を描き終えたら、な」


「何か描き途中のものがあるんですか?」


「そうだな、完成すればお前達にも見せるつもりだ。

 だが、どうもこの先が思いつかなくてな……」


<ピリリリリリ!>


突然、鎌鼬の話を遮るようにして黄泉ノ桃源から

支給された携帯電話が鳴り響いた。


「はい」


「あ、出た出た。おはよう暁楓ちゃん、どうせ鎌鼬君

 も居るんでしょ?」


「朝からお前の腑抜けた声を聞くのはあまり嬉しく

 ないな」


「……やっぱり君、僕の事嫌いだよね?まぁいいや、

 2人とも任務だよ任務。詳しい事は食堂で話すから

 来て」


「分かりました」


「じゃ」


そこで電話は切れた。2人は素早く支度をして彼の

待っている食堂へ向かった。


「あ、来たね。こっちこっち〜」


「おはようございます」


「おはよ。鎌鼬君、今日はその姿なんだね」


「ああ」


「先に朝ご飯食べなよ。待ってるからさ」


2人は昨日と同じ物を注文し、食べ終わると彼に

尋ねた。


「それで、任務というのは…」


烏天狗(からすてんぐ)って知ってる?」


「烏天狗…確か烏の嘴のような顔を持っていて空を

 飛んだり、心を読んだりする事の出来る位の高い妖

 だと聞いた事がありますが……」


「うん。実は数日前、伊弉諾(イザナギ)さんって

 いう黄泉ノ桃源の社長さんから烏天狗経由で僕達に

 直々の指令が来る予定だったんだ。でも、その

 烏天狗が東京に着いた途端に行方不明に

 なっちゃったって上の人が言っててさ……」


「探せ、という事か?」


「そういう事」


「猫の捜索依頼みたいですね」


「あはは、言えてる。ちなみにその烏天狗の特徴は

 青い髪で錫杖を持った子供の姿なんだってさ」


「…子供、か。」


「それぐらい特徴があれば探しやすいですね」


「…変な事にならないと良いんだがな」



早速、暁楓達はビルを出て店が多くて人通りの多い

場所へと向かった。


「しかし、こんな大勢の人の中で本当に見つけ

 られるんですか」


「見つけるしかないでしょ。だって社長からの直々の

 任務を持ってるんだよ?やるしかないよ」


すると何処からともなく元気な子供の声が聞こえて

きた。


「あー!」


「ん?」


「タピオカミルクティーがあるー!」


青い髪の少年は周りをキョロキョロしながら嬉しそう

に走り回っていた。だが、どうやら見渡す限りでは

彼が視えている人は居ないらしかった。


「…冬木さん、あれ…絶対あの人が烏天狗さんです

 よね?」


「あははは、やだなぁ暁楓ちゃん。烏天狗は高名な

 偉い天狗なんだよ?そんな人がタピオカ見て

 あんなに喜ぶわけないじゃない」


「でも特徴と一致しますよ」


「何にせよ、人間に視えないという事は妖なの

 だろう。話しかけてみるか」


<ザッザッザッ>


「おい」


「ん?何?」


「この辺で烏天狗を見かけなかったか」


「はは!とっぽい(あん)ちゃん達、ひょっと

 してそれがトウキョウジョークっていうヤツ?」


「……何?」


「もしかして貴方が烏天狗さんですか?」


「ああ!生まれは大阪、育ちは京都!それがボク、

 烏天狗の金太郎ッ!!どう?驚いたでしょ〜?

 実は、黄泉ノ桃源の社長さんからトウキョウに居る

 祓志士の3人組に指令を伝えろっていう伝書鳩

 みたいな役割を請け負ったんだけど、道中道に

 迷ってさ〜」


「このテンション苦手だなぁ…」


「そういえば(あん)ちゃん達、ボクの事が

 視えるみたいだけど、ひょっとして祓志士なの?」


「僕達が君の言ってた3人組だけど?」


「ははは!大人をからかったら駄目だよー?

 あ、(あん)ちゃんも大人か。いい?

 ボクが言われた特徴はまず赤目で白髪の子供。

 それにやる気のない顔でスーツを着た猫背の男と

 鎌鼬。(あん)ちゃん達なわけがない…」


「……」


「めっちゃ(あん)ちゃん達じゃん!!そうなら

 そうと先に言ってくれればいいのに…トウキョウの

 人は冷たいなあ」


「で?その指令って言うのは何なのさ」


「確か『連絡が届いて24時間以内に武甕槌に会え』

 だったかな」


「た、武甕槌(タケミカヅチ)…!?」


「?誰ですか?」


「知らないの…!?黄泉ノ桃源の副社長だよ……!

 でも、いつも本部に居なくてこの辺で仕事してる

 らしいから会っててもおかしくないみたいな人

 なんだけど…」


「霊力で妖かどうか分かりそうだがな」


「それがね、武甕槌副社長は妖じゃなくて神なんだ。

 神は人間や妖よりも高度な存在だから人間にも

 妖にもなれるんだよ。つまり、霊力の無い普通の

 一般人として暮らす事も可能って事」


「…成程、詰んでますね」


「え?」


「考えてみな、もしその人が普通の人間として

 暮らしているなら日本の人口1億人の中から探さない

 といけない。そんな事出来る?100%無理だよ」


「た、確かに…」


「いや、俺は匂いを追う事が出来る。何か彼の匂いが

 ついた物があれば追えるだろう」


「匂いがついた物ですか…長い事一緒に居る人や

 よく知る人が何か持っているかもしれませんね」


「武甕槌さんをよく知る人?うーん、やっぱり

 位の高い人じゃないと知らないだろうね」


「そうか、じゃあボクは妖達に聞いてみる」


「ありがとうございます、じゃあ私達は黄泉ノ桃源

 での地位が高い職員を当たってみます」


「ああ、何かあったら神通力で連絡するから

 そのつもりでよろしく」


「はい」


3人は烏天狗と別れ、1度黄泉ノ桃源へ戻って八岐に

聞いてみる事にした。

 

「ーーほぉ?何でぇ、武甕槌のジイさんを探してん

 のか」


「はい、心当たりはありませんか」


「そうだなァ…最後に会ったのはかなり前だから

 詳しい事は分かんねえがあの人はいつも真面目で

 曲がった事が嫌いだったし頭が固かったなァ……

 まぁ今時の若い奴が行くような華やかで楽しげな

 所は行かねぇだろうぜぃ」


「そっスか、ありがとうございます。あとなんか

 武甕槌さんの私物とか持ってたりしないっスか?」


「私物?持ってねぇなァ、アイツは人に私物をあげる

 ような人じゃねぇからよ」


「そうなんですか…そうだ、他に武甕槌さんと親交の

 ある人の心当たりはありませんか」


「あー…そうさなぁ、支部長の麒麟に聞いてみたら

 どうだぃ?」


「そうか……!支部長なら副社長と多少関わりがある

 かもしれないっスね…!暁楓ちゃん、鎌鼬君、

 行ってみよう!」


「はい」


3人は職員に許可を得て、支部長室までやって来た。


<トントン、ガチャ>


「失礼します」


彼らが入ると、麒麟は丁度スナック菓子を食べていた


「あ、良い所に来てくれたね〜お菓子あるけど

 食べる?」


「えーっと…今日は遠慮しておきます」


「ちぇっ、良いもん別に…ぼく1人で食べるから。

 それでどうしたの?」


「実はーー」


暁楓は麒麟に経緯を話した。


「……うん、大体分かったよ。その烏天狗には色々

 ツッコミたい所があるけどまぁいっか。もぐもぐ…

 武甕槌さんに関わるような物は持ってないけど、

 彼についてなら色々話せるよ。もぐもぐ……

 手がかりになるかは分からないけど聞くかい?」


「お願いします」


「うーん、そうだなぁ……もぐもぐ。彼は副社長

 だからぼく自身あまり関わった事は無いんだけど…

 …そうだね、皆んな言ってるけど凄ーく生真面目で

 気難しい人だよ。あと、人と関わるのが苦手

 っぽくていつも遠くから観察してたかな?」


「人が嫌いというわけではないんですね」


「ああ、ただ関わるのが苦手(・・・・・・・)

 っていうだけだと思う。もし本当に人が嫌いなら

 わざわざ人間社会に溶け込んで暮らそうなんて

 思わないからね」


「うーん、難しいなぁ…じゃあ普段は直接人と

 関わらない仕事でもしてるのかなぁ….暁楓ちゃん、

 何か思いつかない?」


「………」


「あ、暁楓ちゃんがパンクしてる。おーい、戻って

 来て〜」


「…この前行った寿司屋の店主」


「え?」


「この前行った祓志士の行きつけの寿司屋の店主……

 正確には店主っぽい人ですが、その人が何となく

 妙だったなと」


「妙とはどういう事だ暁楓」


「あの時は篁さんが居てそれどころでは無かったん

 ですが、あの人……人間にしては何か違ったん

 です」


「何かって…具体的にはどんな所なの?」


「分かりません、ですが……」


「成程、女の勘か…」


「まあ此処で黙ってるよりは行動した方が良いと

 思うよ、もぐもぐもぐ…」


「そうっスね、他に行く場所思いつかないし行って

 みよっか」


「え…もう少しじっくり考えた方が……」


「いいのいいの、少しでも違和感があったなら探って

 みた方が良いでしょ?それに、気配に敏感な

 暁楓ちゃんが言うんなら尚更行った方が良いと

 思ったらさ」


冬木の嘘偽りのない言葉と笑顔に暁楓は思わず目を

逸らした。


恐らく彼女は初めて自分の意見を反映されて、自分が

認められたような気がして嬉しかったのだろう。


(……ああ、この人は私を見てくれるのか)


「暁楓ちゃん?」


「…いえ、何でもありません」


「へえ〜君達、良い感じだね」


「?」


「真面目でしっかり者の暁楓君とちょっと抜けてる

 けど気の遣える冬木君、そして淡々としてるけど

 そんな2人を優しく見守る鎌鼬君……バランスが

 取れてて凄く良いよ。これからも頑張ってね、

 期待してるから。もぐもぐもぐ…あ、当たり出た」


「…最後ので台無しなんだが」


3人は軽く麒麟にお礼を言うと、ビルから出て昨日の寿司屋へ向かう事にした。


「冬木さん、1つ聞いてもいいですか」


「ん?どうしたの?」


「烏天狗さんは何か分かったら神通力で連絡して

 くれると言っていましたが、私達から彼に連絡する

 時はどうするんですか?」


「……あ」


彼は彼女の一言で固まってしまった。


「えーっと…鎌鼬君、携帯に化けられる?」


「さすがに機械には化けられないぞ、俺の体には

 電気は通っていないからな」


それを聞いた途端、冬木の顔色がみるみるうちに

悪くなっていった。


「ど、どうしよう暁楓ちゃん…」


「……私に言われても困るんですが」


「そもそも烏天狗は高い位の妖だ、霊力もかなり

 強かった。それを探れば見つけられるだろう」


「あ〜成程!さっすが鎌鼬君、頼りになる〜」


「お前に褒められても嬉しくないが」


「…あのさぁ、せっかく人が褒めてるんだから

 ありがとうぐらい言った方が良いよ?じゃないと

 社会でやっていけないよ〜?」


「社会だと?俺はお前の何倍も何十倍も妖社会で

 生きているがな」


「妖社会と人間社会は違うっての、今の君は人間

 社会に居るんだからこっちのルールに従うべき

 だよ?」


「……何だと?俺がこうなったのも元はと言えば…」



ふと鎌鼬は今まで隣に居た暁楓が居ない事に

気づいた。


「…彼女は何処だ?」


「え?暁楓ちゃんならさっきまでそこに…

 あれ?居ない……暁楓ちゃーん!」


「何ですか」


「か、暁楓ちゃん…!?さっきの数分間何処行ってた

 のさ!」


「何か暇だったのでチーズハットグ買ってました」


「ひ、暇って君ねぇ…!って、まだ給料貰ってない

 よね?何処から出したの?」


「…忘れたんですか?この前冬木さんがお小遣い

 としてくれた5000円の中から出しましたよ」


「あー、何だそうだったんだ。てっきり僕は

 盗んだのかと…」


「………この人にはチーズハットグは無しですね、

 2人で食べましょう鎌鼬さん」


「そうだな、ありがとう暁楓」


「な、何でそうなるのさ〜!」


結局、日が暮れるまで冬木の金で買い食いした。

しかも、ナビを冬木に任せたせいで散々迷った結果

寿司屋に着いたのは夜の8時になってしまった。

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