第3話 レッツ健康診断!そして…
ドンドンドン!
…こんな朝っぱらから一体何だろうか?
すると昨日一緒に寝た鎌鼬が毛布からひょっこり
顔を出して言った。
「…この匂いは八岐だ、出た方が良い」
彼女は眠い目を擦り、扉を開けた。するとそこには
着物を着た黒髪の大柄な男…八岐大蛇が居た。
「よぉ、良い朝だなァ暁楓」
「……おはようございます、ドアが壊れるので
優しく叩いて下さい」
「何でぇ、起きたばっかりか。まぁ無理もねぇか、
昨日は初任務だったからなァ」
「……もしかして任務ですか?」
「いや、今日は訓練だ」
「訓練…?」
「おう、とりあえず準備しろ」
2人はよく分からないまま支度をして、八岐と一緒に地下2階にある食堂へ降りていった。
「あ、おはよう〜」
「ああ」
「おはようございます」
「体調は大丈夫?」
「はい、特に問題ないです。冬木さんこそ大丈夫
ですか」
「あはは、見ての通り元気だよ」
「…八岐、さっき訓練と言ったな。今日は任務は
無いのか?」
「あァ、そうだ。今日は朝から動くから飯はありっ
たけ食っときな」
「戦闘訓練…か」
「そうだ、暁楓ちゃん何食べる?色々あるよ」
冬木はそう言って食堂に飾られてあるメニューを
指差した。
「パスタにカレーにナポリタン….…凄い種類ですね」
「まぁ朝だから軽食でも良いと思うよ、サンドイッチ
とかどうかな?」
「サンドイッチですか、良いですね。じゃあ飲み物は
ココアにします」
「俺はスクランブルエッグとコーンスープだ」
「分かった、じゃあ頼んで来る」
冬木は席を立って食券を買いに行った。
「…ほぉ?」
「何ですか?」
「いいや、何でもねぇ。暁楓、まずお前
には戦闘訓練の前に健康診断をやってもらう」
「俺はやらなくてもいいのか」
「あァ、そもそも変身能力のあるやつを測って
どうする」
「それもそうだな」
「ああ、此処の地下の病院でやるんスか?」
「そこ以外に何処があるってんだ」
「……しかし、体調が悪くないのに何故健康診断
なんてするんですか?」
「健康診断つってもただの健康診断じゃねぇ、
そいつに合った武器を探す為に重要なんだ。それに
暁楓の場合は本当の父親を探すって意味もある」
(私の本当の父親…)
「安心しろ、胡散臭いが腕の良い医者だ」
少しして冬木が朝食を持ってくると4人で食卓を囲み
今後について軽く話しながら食べ終えた。
食器を片付ける途中、暁楓は視線を感じて横を見た。
「冬木さん…?」
「ん?どうしたの暁楓ちゃん?」
「…いえ、何でもありません」
八岐と暁楓は冬木達と食堂で別れると地下の病院に
行く為にエレベーターに乗った。少ししてドアが
開くと、消毒液の鋭さと、漢方薬の苦さが交じり
合うような匂いが鼻についた。
「…何となくこの匂い、苦手です」
「まぁキツイからなァ……慣れろ。匂いに敏感な
鎌鼬は此処には来れないかもしれねぇなァ」
すると廊下の奥の方から赤髪の白衣の男が歩いて来た
「ーー君が暁楓奏君かい?」
「!は、はい」
「おう、待ってたのか朱雀」
「ああ、初めまして奏君、私の名は朱雀
此処の専属医だ、これからよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
「早速だが健康診断を始めようか。八岐君には悪いが
此処で待っていてもらう」
「おうよ」
「協力感謝するよ。では最初は身体測定だ、ついて
来なさい」
朱雀はそう言って軽く微笑むと奥の部屋へ行き、
彼女も彼に続いた。
「ーーふむ、身長は158cm、体重は……」
「…その、測らないんですか?」
「ん?あぁすまない、説明不足だったね。私の能力は
見ただけで相手の身長・体重やどんな病気や怪我
なのか分かるんだ。それに、原理が分かるものなら
一瞬で治す事が可能なんだよ」
「へえ、医師に最適の能力ですね」
「そうだね……だけど裏を返せばその人があと
どれぐらいで亡くなるか分かってしまう。それに、
触れればその人の人生そのものが分かる。よく
笑っている人でも過去は壮絶なものだったりする」
「それは…辛いですか」
「そうだね、見るのが辛い時はある。でもそれが私の
仕事……私のやるべき事だ」
「やるべき事……」
「君にもやるべき事はあるだろう?それと同じだ。
さて、次は少し過去を見させてもらうよ」
「分かりました」
彼は軽く彼女の頭に触れると呟くように言った。
「これは………大変だったね」
「……」
「君は…うん、そうか……そうだったのか」
「?」
「奏君、君の親は生きてるよ」
「…!分かるんですか」
「勿論、だが母親は君を産んですぐに亡くなっている 会える可能性があるのは父親だけだ」
(生きている…私の本当の父親は生きている……!)
だが、私は喜びと同時にどんな人物だったのか疑問が出てきた。私は10歳になる前に義母に引き取られて
いる…つまり、私の親は私を置いて何処かへ行って
しまった。端的に言うなら「捨てた」という事に
なるが………
「……奏君、私は君の父親を知っているが今は
教えられない」
「え…?父は朱雀さんの知り合いなんですか?
それに教えられないって……」
「ああ、正確には今は教えられないだね」
「…分かりました、では1つだけ教えていただけ
ませんか」
「答えられる範囲なら答えよう」
「もしかして、父も此処の関係者だったんですか?」
「いや、むしろ敵対する事が殆どだったよ」
「敵対、ですか…」
「ただあの時だけは仕方なく協力してくれたな。
日本…いや、世界を守る為に」
「……え?」
「ふふっ、何でもないよ。後は武器の適性検査だけだ
実際に触れてみて、合うのを選ぶといい」
「はい」
暁楓は用意された武器をよく見ると刀、銃、鎌……
数え切れない程の種類があった。
(凄い種類だ…)
「何か気になる物はあったかね」
「そうですね.」
彼女は全体を見渡した。その中で1番長い時間見ていたのは刀だった。
「刀が気になるのかい?」
「…これ、触っても良いんですか」
「勿論」
彼女は軽く頭を下げて、刀を取った。
ああ…しっくりくる。この質感、重さ……
「朱雀さん、これにします」
「刀か、私はてっきり銃かと思ったんだが……
予想は外れてしまったか。では、これで検査は
終わりだ。あとは帰ってくれて構わないよ、検査の
結果は後日配送しよう」
「ありがとうございました」
「何かあったら訪ねるといい、ではまた」
<バタン>
「ーーよぉ、早かったな。異常無しか?」
「結果は後日配送してくれるようです。体調は特に
異常は無かったと思います」
「そうかぃ、それは何よりだ。ちなみに、最初冬木が
来た時は体重が軽くてもっと食えってアドバイス
されたんだぜ〜」
「ああ…言われてみれば細いですね、あれって大丈夫
なんですか?」
「あれだけ動けてるんだから大丈夫だろ、本人も何も
言わねえしなァ……それじゃあお待ちかねの戦闘
訓練だ。喜べ暁楓、俺が直々に教えてやらァ」
「…お手柔らかにお願いします」
2人は地下5階にある個別トレーニングルームへ
向かった。
「戻ったぜぇ〜」
「早かったな」
「暁楓ちゃん、武器は何選んだの?」
「刀です」
「ふははははは!何でぇ、俺と同じじゃねえか!
同士が居るってのは嬉しいねえ〜」
「刀かぁ…」
「どうした、何を悲しんでいる」
「…別に悲しんでないけど?」
「刀なら俺の専売特許だ、これを持て」
<パシッ>
(木刀…いや、ただの木の棒か)
「俺はこの新聞紙の刀だ」
「いくら何でもすぐに折れますよ」
「ぷはぁっ!言うねえ〜言っとくが俺がお前と同じ物
持ったらお前は骨折どころか一生車椅子
だぜぃ?下手すりゃ死ぬかもなァ…」
「…分かりました」
「さぁて、どっからでもかかって来い」
(成程、構えに隙が無い……恐らく正面から行けば
終わる。ならーー)
<タッ!>
「ん?おぉ、良い足捌きじゃねぇかぃ。それに危険を
感じて真っ正面から来なかった事は褒めてやらァ。
……だが駄目だ」
<キィン!>
(弾かれた…!?)
彼は歯を見せて嬉しそうに笑うとそのまま柄を
振り下ろした。背中からドンッという低く、鈍い音がして彼女は地面に叩きつけられた。
「ぐ…!ぐっ……」
「甘い甘い、そんなんで倒せると思ったか?まだまだ
青いガキだねぇ〜」
「っ…」
その光景を見ていた鎌鼬は呟くように言った。
「……恐らくあれでは暫く立つ事は難しいだろう」
「けど、あんなんで戦う意思が無くなるなら祓志士
には向いてないよ」
「随分と現実的な事を言うんだな」
「当たり前でしょ、あの子には死なないで欲しい
からさ。八岐さんのあれだってそういう事だと思う
けどね」
当の彼女は彼らの会話が聞こえない程、必死に考えて
いた。
刀を握った事も無い人間があの人にどうやって勝つ?
……不可能だ、恐らく今ある知識全てを使っても勝つ事は出来ないだろう。ならせめて引き分け程度に……
「おい、まさか引き分ければいいなんて考えてねぇ
だろうな?」
「…!」
「そんなもん最初から存在しねぇ。武器を取った以上
殺すか殺されるしかねぇんだ、甘い考えは捨てろ」
「……」
「これが模擬戦で良かったなァ暁楓、実戦だったら
死んでたぜ?」
(…どうする、どうすればあの人から一本取れる?
自分より30cm以上身長がある男相手にどうする?)
『答えは1つ、がむしゃら』
自分がどうなってもいいから勝つという覚悟が必要だ
それが出来なければやられる……やるしかない。
(この人を憎い敵だと思え…仲間を殺した敵だと
思え!)
「…ようやく良い目になって来たじゃねぇかぃ」
「………」
「ぷはっ!さあ、どんな芸を見せてくれる?」
暁楓は姿勢を低くして、八岐の視界から外れると彼の
後ろへ回り込んだ。その時の彼女は彼が気づかない程全く気配が無かった。
そう、まるで別人のようにーーー
「…!」
彼女は一瞬にして八岐の持っている新聞紙の刀を
斬っていた。
「…お前、やるじゃねぇか」
「今の…見えた……?」
「…いや、俺にはただ急にあの新聞紙が斬れたように
見えたが」
「ふっ、ははははははは!!そうか、そうなのか
暁楓!コイツぁ驚いた!」
「八岐さんすっごい楽しそう……」
「……だが、彼女は全く動かないが大丈夫なのか?」
「暁楓ェ、戻って来い。ゆっくりでいい、あの速さを
叩き出した後だ、体への負担は尋常じゃねえだろう
からよ」
<ドクン!>
ふと彼女は鋭い痛みで我に返って咽せた。
「!?ぐっ…ゲホッゲホッ!ゴホッ!」
「暁楓ちゃん!」
(何だ今の感覚は…?さっきの数秒間の記憶が無い……)
「暁楓」
「今、何があったんですか…?」
「ああ、やっぱ覚えてねぇのかぃ。説明してやる。
あれは過集中だ」
「過集中……?」
「おうよ。偶にあるだろ?時間を忘れて何かしたり、
周囲の声に気づかなかったりする事がよ。さっきの
お前はそれの酷い状態だった。あれは
確かに爆発的な力を出せるがその分負担が大きい…
恐らく今のお前は立てないはずだ」
「…っ、そうみたいですね……」
「だが、そいつを使いこなせれば俺を超えられるかも
しれねぇぜぃ?」
「そんなに凄い力なんですか…?」
「まぁな、けど使い過ぎればその分大きな反動が来る
諸刃の剣みてぇなもんだがよ。ま、使いこなせれば
反動は無くなるかもしれねぇが」
「どうやったら鍛えられますか」
「そうさなぁ、恐らく今みてぇな命懸けの戦いじゃ
ねえと発揮出来ねぇだろうからなァ…ま、気向い
たら鍛えてやらァ。その中で持続時間は伸ばせる
はずだぜ」
「!ありがとうございます…!」
「構わねえよ、近頃はやる事が無くて暇してたから
よぉ。今日の所は終わりだ、昼飯食って寝てろ」
「はい、っと…」
彼女は立とうとしたが、過集中の反動で立てなかった
「ふはは!悪ぃ悪ぃ、動けないんだったな。部屋まで
運んでやるからじっとしてろ」
彼は軽々と暁楓を持ち上げて部屋まで運んでくれた。
<ガチャ>
「おー、なかなか綺麗じゃねえか」
「まぁ此処に来て2日程度しか経ってませんからね」
「良いなァ、此処に住みてぇぜ……」
「駄目です、もう鎌鼬さん居るんですから」
「ふはっ!それもそうだな、諦めてやらァ」
「そうだ、運んでくれてありがとうございました」
「動けねぇ奴が居るなら運んでやるのが常識だぜ?
礼を言われる事はしてねぇよ。まァ、どうしても
してくれるって言うんなら貰っとくけどよぉ……」
彼は真剣な顔で暁楓を見た。
「?」
「…やっぱ止めだ。ガキを抱く趣味は無ぇ、もっと
大きくなってからにしてやる」
「何の話ですか?」
「何でぇ、お前はそういう事に疎いのか。
もっと初な反応が楽しめるかと
思ったんだがよ……」
「??」
「覚えとけ、お前が最初に抱かれる
のは俺だって事をなァ…ふははははは!」
そう言うと彼は笑いながら部屋から出て行った。
「…分からない、何1つ意味が分からなかった」
一方その頃。人里離れた山奥にて、静かなる春が息づいていた。
「ーー見ろ、桜が満開だ」
淡い花びらが風に舞い、桃色の霞のように山の斜面を染めている。
「はい。最近は桜の開花が早まっております。
以前なら、この時期はまだ蕾のままでしたが……」
「ああ、地球温暖化とやらの影響かもしれないな」
シルクハットをかぶった赤い瞳の鬼が、キセルを
ふかせながら微笑した。
「酒呑童子様。彼方の谷間では、梅が見頃だそう
です」
「ほう? 偶には桜ではなく、梅を眺めながらの酒も
一興だ。青鬼よ、他の者共を連れてこい。宴の
支度だ。黒鬼、お前は酒樽を5個……いや、10個
準備しておけ」
「かしこまりました」
春風に乗って、花びらがふわりと舞い上がる。
酒呑童子はそれを見上げながら、懐かしむように
ぽつりと漏らす。
「ーーそういえば、アイツが生まれたのも……
こんな桜の綺麗な春だったな」
その横顔を、優しい風がそっと撫でていった。