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第16話 大江山


巨大な鳥の姿に変身した鎌鼬の背に乗って、暁楓達は

空を滑るように大江山を目指して進んでいた。


風が頬を打ち、眼下には濃い緑がどこまでも広がって

いた。鳥の背にしがみつきながら冬木が呟いた。


「…明日は給料日だってのに、此処で落ちて死んだら

 お金もらえないから安全運転よろしくね」


「……お前だけ振り落とされればいい」


「な、何でそうなるのさ!?」


「…はっきり言うと3人は重い、主に八岐が重い」


「ふはははっ!そいつぁ悪ぃなァ、俺ァ90kg近く

 あるからよぉ〜」


「僕は70kgなかったはず……あ、暁楓ちゃんは

 53kgだよね、覚えてるよ〜」


「…何で私の体重知ってるんですか?」


「え?ほら、武甕槌さんの寿司屋に行く前に

 八岐さんが君の健康診断の結果を見せてきてさ、

 その時に君が妖と人間のハーフって事と身長と

 体重、あとはスリーサイズを知れたんだよ。

 その証拠にじゃーん!メモってるんだ〜」


「成程…あの時ポストの中身が荒らされていたのは

 貴方達が見たからですか。しかも冬木さんに

 至ってはメモまで……」


「あ、もしかしてやばい事言っちゃったかな…?」


「…余計な事言いやがって」


「鎌鼬さん」


「ああ、このアホ2人だけ大江山まで歩かせた方が

 良さそうだな」


「ちょっ!待っ、待ってってば!誤解…じゃないけど

 待ってってば〜!」


彼は冬木の言葉を聞かずに急降下し、霧が微かに

立ち込めた山の麓にふわりと降り立った。鎌鼬は

変身を解いて、いつもの鼬の姿に戻った。


「ちょっと!本当に僕達を歩かせる気なの!?」


「…いや、どうやら着いたみてぇだぜ」


「え…?」


冬木がゆっくりと顔を上げると目の前には石畳の道、

しめ縄のように巻かれた木の根が絡みついた朱塗りの

大きな門があった。


「もしかして此処が酒呑童子の根城…?」


「おう、そうだぜぃ。この門を潜って30分ぐらい

 歩けば着くだろうよ。言っとくが、この山の連中は

 今まで俺達が見てきたような雑魚じゃねぇ。

 酒呑童子の直々の部下達だ、死ぬ覚悟はしとけ」


「覚悟なんて…祓志士になった時からしてます」


「…ふっ、はははは!そうだなァ、そりゃ当然かァ。

 それじゃあ入るぜ」


<ギィッ…>


門を開け、踏み越えた瞬間……


まるで空気そのものが変わったような気がした。

生暖かく湿った風が肌をなで、鼻の奥に血と土と

獣が混ざり合ったような臭気が入り込み、喉の奥を

ざらつかせた。そのせいで思わず八岐以外は臨戦態勢

に入ってしまった。


「……何か…色んな意味で進みたくないっスね…」


「まぁなァ、霊力の無い人間なら耐えられねぇと

 思うぜ。ま、だからこそ人里離れた所に根城を

 構えたんだろうけどよぉ」


「…!誰か来ます」


「…ん?この気配は……」


「そこのお前達!止まらんかーっ!」


声の主達は木の上から降りてきて、暁楓達の前に

現れた。


「舐めたらアカンで!赤鬼!」


「青信号でも周りを確認!青鬼!」


「太陽より眩しいぜ!黄鬼!」


「暗闇だと影が薄くなる!黒鬼!」


「森の中だとほぼ色が同化して分からない!緑鬼!」

 

「5人揃って…鬼レンジャー!!」


「…行きましょう」


「待て待て待てい!俺達を無視するんじゃなーい!」


「…え?ごめん、僕達急いでるからさ」


「あァ、どうしても何かあるってんなら刀で語り

 合おうぜぇ?」


「ま、待て待て待て待て!俺達は酒呑童子様に

 お前達の案内役を頼まれただけだ!」


「何…?」


「ほぉ、何でぇ…あの野郎はもう俺達に気づいて

 やがったのか。暁楓と同じで気配に敏感だなァ…」


「そうだ、アイツはお前(やー)と同じで気配に

 やたら敏感でなァ…幻覚も幻術もアイツの前では

 無意味だ」


「それって力押しでしか倒せないって事っスか?」


「それも無理だなァ、不老不死をどう倒すって

 言うつもりだぃ?」


「ふ、不老不死って…そんなの倒しようが無いじゃ

 ないっスか…!」


「ああ、そうだ。だから妖の王なんてやってるんだ」


「おーい、そろそろ酒呑童子様の所へ案内しても

 いいのかー?」


「おう、案内してくれ。何とかレンジャー」


「鬼レンジャーだ!」


暁楓達は鬼レンジャーへ連れられてどんどん山の奥へ

入って行った。しかし、山の空気は淀んでいて春だというのに冷たい風が木々の間を這い、枝葉を鳴らしている。


一歩、また一歩と進むたびに、森の奥から微かな

視線の圧が降り注ぐ…誰の姿も視えないというのに、

確かにこちらを見ている何かが居た。


「ミヤマが本当に僕達に妖の気配と匂いをつけて

 くれたのか不安になってきたんだけど…」


「…俺の嗅覚を疑っているのか?」


「いや、そもそも歓迎されてねぇような気がする

 ぜぇ」


すると、鬼レンジャーの赤鬼は突然振り返って

言った。


「その通り!お前達は誰1人として歓迎されていない。

 だから…此処で死ぬのだ」


気がつくと、山の中とは思えないほど開けた平原に

出ていた。


「おいおい…そういう事かぃ」


至る所から妖が現れ、今にも暁楓達に襲い掛かり

そうだった。


「…鎌鼬さん、お願いします」


「分かった」


鎌鼬は軽く頷くと刀に変身した。


お前ら(やったー)、俺らの前に現れるって事ァ…

 分かってんだろうなァ?死にてえ奴からかかって

 来やがれ、ライオンに狩られる草食動物みてぇに

 殺してやるからよぉ…さあ、最初に俺に喰われる

 のは何処のどいつだ?」


八岐が狂気に満ちた笑みでそう言うと、得体の

知れない妖達は一斉に彼らに襲い掛かった。


「ふはははは!良いね良いねぇ!俺ァこういう乱戦は

 好きだぜぃ!」


「あ〜もう!楽しいのは八岐さんだけっスからね!

 …ま、久しぶりに暁楓ちゃんにカッコいい所

 見せられるから良いけどさ」


「口より手を動かして下さい」


「おっと、そうだね。じゃ、弾丸も使い切ったし

 スーパーカッコいい所見せちゃおうかな。

 死の直前に映る光景ってのはどんなのなのかな?

 行くよ、『弾導錯視(バレット・ファントム)』」


 

冬木はそう言って弾丸が入っていないはずの銃の

引き金を引くと見えない弾丸が発射されたのか、

次々に妖達が倒れていった。そして気がつくと辺り

から妖の気配が消えていた。


「…ま、ざっとこんなもんでしょ」


「ーー冬木」


「ん?何スか?」


「俺の愉しみを邪魔すんじゃねぇ」


「あ…はい、すみませんでしたっス」


「…で、後はお前ら(やったー)鬼レンジャー

 だけかぃ」


「ま、待ってくれ!これも酒呑童子様に頼まれた

 事で…」


「…何言ってんの、信用出来るわけないじゃない」


「待って下さい、もしかしたら本当にこの人達は…」


「ーー喧しいぞ」


「!」


「あ、貴方様は…!」

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