第13話 狸オヤジを探せ その3
試合は順調に進み、いよいよ次の試合が冬木達の
チームになった。
「はぁ〜…緊張してきた〜……」
「気楽に行こうぜぇ、気楽だけど本気で…な?」
「…勝つぞ」
「あれ?珍しくやる気じゃない鎌鼬君」
「仲間が攫われてやる気にならない方がおかしい
だろう」
「…うん、それもそうだね」
「1試合目とはいえ、油断するんじゃねぇぜぃ?」
「エントリーNo.8番!3馬鹿トリオ!!」
「おう、今行くぜぇ」
「な、何スかそのネーミングセンス!」
3人は大きな茶色の扉を開けた。その瞬間、闘技場は
凄まじい歓声に包まれた。
「うわっ…うるさっ……」
「冬木ィ!先鋒だ、行って来い!」
「え!?ちょっ、待って下さいっスよ…!まだ
心の準備が…」
「……冬木」
「っ…分かりました、行って来ます」
「八岐、次は俺が…」
「いいや、俺が出る。お前は温存しといて
くれねぇか?」
「……分かった、そうしよう」
「ありがとよ、悪ぃな鎌鼬」
その頃冬木は…
「あら…可愛い坊や、あなたが私の対戦相手なの?」
「え?はぁ、まあそうだけど…」
「私はろくろ首…見て分かる通り戦闘は苦手なの。
だからこれで勝負しない?」
「?トランプ…?」
「そう、ルールは簡単。ハート、ダイヤ、スペード
クラブの4すくみで戦うの」
「えーっと…もっと詳しく説明してくれない?」
「さっき言ったマークのトランプを1人1枚ずつ、
計4枚配るの。それで、私より貴方が強ければ勝ち
4すくみの表はこれを見て」
「うーん…?」
彼女が出した紙にはこう書かれていた。
スペードはクラブに強いがダイヤに弱い。
クラブはハートに強いがスペードに弱い。
ハートはダイヤに強いがクラブに弱い。
「これ、強い方が勝てるって事だよね?じゃあさ、
ハートとスペードみたいな組み合わせだと
どうなるの?」
「そういう場合は引き分けよ、負けた事にも勝った事
にもならない。もう1つルールがあるわ。それは、
一度使ったマークのトランプは使えないって事」
「じゃあ1回目でスペードを出したら2、3回目では
出せないって事?」
「そういう事。勝負は3回…2回勝った方が勝ちよ。
2回引き分けの場合は決着がつくまで続ける」
「成程…いいね、僕も戦いは好きじゃないから
やるよ」
「じゃあ始めましょう。そこに座って」
「では、これより先鋒対決を始めます!
レディー…ゴーーッ!!」
「やれー!勝てー!」
「人間に負けるなー!」
2人にトランプが配られ、試合は始まった。
(さーて…最初はどれを出そうかなぁ……っていうか
これってジャンケンと同じようなものだから運要素もあるって事になるけど…)
「坊や」
「ん?」
「あなた、何の為にこの闘技場に来たの?」
「何の為って…えーっと……景品目当てかな…?」
「あら、お金に興味無いのね。此処に来る人の大抵は
お金が目当てなのよ」
「…お金、ね。確かにお金があれば殆どの事が上手く
いくかもしれない。けど…心はお金で買えないよ」
「……意外だったわ」
「何がさ」
「あなたって見た目よりずっと賢いのね」
「別に賢くなんかないっての、さっきのはただの
一般論だしさ」
「ウフフ…それじゃあ私はこのカードを出すわ」
「…じゃ、僕はこれ」
「さ、それじゃあ…開けるわよ」
「カードオープン」
結果は…ろくろ首がハート、冬木がスペードだった。
「引き分け…だね」
「そうみたいね」
「…じゃ、次。僕はこれね」
「本当にそれで良いの?」
「うん」
「良いわ、じゃあ私はこれ」
「行くよ…カードオープン」
2回目、結果は…ろくろ首がスペード、冬木がクラブ。
冬木の負けだった。
「………」
「あら、ポーカーフェイスなのね。もっと驚くかと
思ったんけど…」
すると冬木はおもむろに銃を取り出し、空に向けて
2発撃った。今まで騒がしかった闘技場は彼の突然の
行動に驚いたのか、静まり返ってしまった。
(…僕の残りのカードはハートとダイヤ、そして彼女の
残りのカードはクラブとダイヤ…僕が勝てるのは
僕がハートで彼女がダイヤの時。でも彼女には
クラブがあるからわざわざ負けに行くような事は
しないだろう…となれば)
『僕は確実に引き分けになるダイヤしか出せない』
「……ダイヤで引き分けって所でしょうね」
「ん…」
「でもあなたはハートで勝つチャンスを逃す事になる
わよ?」
「まさか、僕に勝たせる理由が無いでしょ?だから
君がダイヤで僕がハートなんてシチュエーションは
有り得ないよ」
「そう…それじゃあカードオープンね」
3回目、ろくろ首がクラブで冬木がダイヤだった。
つまり…引き分けという事だ。
「…!」
冬木はふと何かに気付いたように顔を上げた。
「これで必然的に4回目はあなたがハートで私が
ダイヤ…あなたの勝ちになるわね」
「何で…何で今クラブを使ったのさ」
「何か不満?」
「ああ、不満だね。さっきの勝負、君はダイヤで
引き分けにして、4回目でクラブを使えばハート
しか出せない僕に勝っていた……にも関わらず何で
こんな事をしたのさ」
「…だって、この勝負を終わらせたくなかったもの」
「何…だって…?」
「……トランプでの戦いは引き分けね、それじゃあ
次の戦いをしましょう」
そう言って彼女が椅子から立ち上がろうとすると
冬木はゆっくりと拳銃を構えた。
「…!」
「ーー今から6年前、僕はとある村で暴れている妖の
情報を聞いてそこに行ったんだ」
その妖は霊力の少ない人間にも見えるらしくてさ、
小屋に閉じ込められてて数えきれないぐらいの包丁や
鍬で傷つけられた痕があって血だらけでボロボロ
だった。その村の人にやられたんだろうね、かなり
弱ってたよ。
「……」
「…で、敵意も無かったし放置してても死ぬから
良いかなーって思ってたらさ…その村人達が殺せ
って言ってきたんだよ。あんまり殺せ殺せって
うるさいからさぁ…殺したよ、そこの村人全員ね」
あとは村ごと焼いて証拠隠滅。ま、後で色々怒られた
けどね。それで、残った妖に薬あげたり包帯巻いて
あげたりして解放してあげたんだけど…
「…まさかこんな所で会えるなんて思わなかったよ、
ろくろ首」
「てっきり私の事覚えてないのかと思ったけど…
ちゃんと覚えてたのね」
「え、あー…さっきまで忘れてたけどね。まぁいいや
僕は2回も同じ妖を見逃す主義は無いからさ…此処で
君を殺す」
「……」
ろくろ首が黙って目を閉じると観客席から様々な
声が聞こえてきた。
「殺せ!早く殺せ!」
「殺せーっ!俺達に血飛沫を見せろー!!」
「…どうしたの?殺すんでしょ?」
「……君、とっておきの遺言とか無いの?」
「無いわ、そんなもの。命の恩人に殺されるなら本望
だもの」
「ああそう…じゃ、地獄で会おう」
彼は呟くようにそう言うと引き金を引いた。
…が、何故か弾は出なかった。
「あー…残念、弾切れだってさ」
「…どういう事?」
「ん?女の人を殺す主義は無いって事」
彼はそう言うと銃を下ろした。
「ふっ……変わった人ね、良いわ。私の負けよ」
「…え?な、何でそうなるのさ…!僕は…」
「勝者、三馬鹿トリオ冬木隆之介!!」
審判がそう告げた途端、観客席の妖達は一斉に歓声を上げた。冬木は少し納得しない表情のまま戻ってきた
「よぉ、お疲れさん」
「あ…見ててくれたんスね」
「まずは1勝か」
「うん」
「ところでお前、あのコントをする為に
2発無駄撃ちしたのかぃ?」
「やだなぁ八岐さん、あれはやられたーっていう
気持ちの2発っスよ〜」
「…冬木、お前は暁楓が攫われた時に3発、さっきので
2発…計5発で弾を使い切った。だが試合前に
暁楓の時に撃った分の3発を補充していなかった……
それは何故だ?」
「ん〜…それは秘密かなぁ」
「…そうか」
「それじゃあ行ってくらァ」
「八岐さん」
「ん?何でぇ」
「くれぐれも…殺さない程度でお願いしますっス」
「…さぁなァ、それは相手の丈夫さ次第だぜ」
八岐は酒瓶を飲み干すと、刀の鍔に手をかけて
行ってしまった。