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第10話 生まれ


……桜が満開で風が心地いい春の事だった。

俺ァ古くからの友人の酒呑童子に子供ができたって

聞いて京都にある奴の根城を訪れた。


「よぉ、相変わらず暇そうじゃねぇかぃ」


「お前程じゃないさ、八岐大蛇」

 

「で、ガキは何処だぃ?」


「あぁ…此処に居る」


アイツはそう言って抱えていた暁楓を見せてきた。


「…ほぉ?何でぇ、全然お前(やー)に似てねぇ

 じゃねぇかぃ」


「……あぁ、私とは目の色しか似ていないな」


「ところでコイツの母親はどうした?」


酒呑童子は少し俯いて寂しそうに言った。


「ーーもう居ない」


「そりゃぁどういう意味だ?」


「千歳は……妻は…もう居ない」


「…だからどういう事だって聞いてんだろうが」


頭では分かってた、分かっていたんだ。『居ない』

という事が死を表している事に……だが俺は信じたく

なかった。


少し前までは元気だったのに、ほんの数ヶ月顔を

見ない間に永遠の別れになっちまった。その事を俺は今でも悔いている。死ぬって分かってんならもっと

接したかった…側に居てやりたかったってなァ……


「…おい、酒呑童子」


「何だ」


「そいつ…名は何だ」


「苗字は暁に楓と書いて読み方は『かぜ』だ。そして

 名前は奏と書いて『かなで』」


「ふはっ!何でぇそりゃぁ!奏は分かるが、暁に楓で

 『かぜ』とは当て字どころか読めねぇじゃねぇ

 かぃ!」


「…文句は彼女に言え。私かて最初は反対した。

 だが彼女なりに一生懸命考えた名前だ。無下には

 出来なかった」




「ーー俺ァそれ以来アイツとは会ってねえ」


「…八岐さん」


「ん?何でぇ、暁楓」


「あの日…貴方と初めて会った日、あれは貴方が

 私を酒呑童子の娘だと知っていて意図的に話し

 かけたんですか」


「…さぁなァ?そうかもしれねぇし、そうじゃねぇ

 かもしれねぇ」


「えー、気になるっスよ〜」


「……ま、もっと詳しく聞きたければ本人に聞くんだ

 なァ。俺ァ自分の体験しか話せねぇ、アイツが何を

 想っているかはアイツしか分からねえからよぉ」


「うーん、でも僕達人間が簡単に会える人じゃない

 っスよね…」


「そうさなぁ、仮に暁楓が酒呑童子の子供つったって

 気配は殆ど人間だから疑われるしなァ…」


「八岐、お前の紹介で行けばどうだ?」


「紹介か…だがいくら俺の知り合いだからって人間を

 易々と入れるとは考えにくいぜぇ」


「…そうか」


「と、いうわけで方法は1つしか無ぇ」


「え?」


「変装だ」


「いや、すぐバレると思うが…」


「俺の知り合いに変装の名人が居てよぉ…そいつに

 頼む」


「へぇ…変装の名人ですか。しかし、ただの変装では

 人間だとバレる気がしますが…」


「ふははっ!ただの変装じゃねぇよ、人間らしさを

 完全に消せる完璧な変装だ。匂いも姿も全く違う

 ものになれる」


「凄いっスね…そんな妖も居るんスね」


「おう、アイツは金さえ貰えれば何だってしてくれる

 からなァ」


「何処に居るんスかその妖」


「あー…まぁその辺に居るだろ」


「えぇ…もしかして武甕槌さんの時みたいに

 探すんスか…?」


「当たり(めぇ)だ、探偵みてぇに聞き込みする

 のが俺達だからなァ」


「こう…すぐ居場所が分かる!…みたいな事って

 出来ないんスかね……」


「霊力で探知しろってんだ」


「そうですね」


「そんな事も分からないのか冬木」


「え、何か責められてない僕…?」


「よし、まずはアイツが行きそうな所でも考えるか。

 1つ目は玉藻前(たまものまえ)の森、2つ目は

 キャバクラ、3つ目は酒場、4つ目はラブホ」


「2つ目からその人の性格が滲み出てますよ」


「ま、俺と似たような奴って事だなァ」


「女好きで酒好きね…身体的な特徴は無いんスか」


「あるぜぇ、50前後のおっさんで茶髪、目つきが

 悪いのを気にして伊達メガネをしてる。身長は

 俺より少し小さいぐらいだったなァ…ちなみに

 今で言う所のイケオジだぜ?中身は究極のダメ

 オヤジだがよ」


「……ん?」


ふと暁楓はその特徴に思い当たる人物が思い浮かんだ

 

(確かさっき冬木さんに化けていたあの妖…ミヤマさん

だったか。あの人がそんな感じの見た目だった

ような……)


「どうしたの暁楓ちゃん?」


「…八岐さん、その人の名前は何ですか」


「ん?ミヤマだがそれがどうかしたのかぃ?」


「あぁ…やっぱりあの人ですか…」


「あァ、そうか。お前(やー)はさっき会ったばかり

 だったなァ」


「…え?さっき会ったばかりってどういう事?」


「よし、じゃぁ出発するかァ」


「ああ」


「分かりました」


「じみーに無視されてない僕?ねぇ、暁楓ちゃん?」


「あ、鎌鼬さん。傘に変身してくれませんか」


「分かった」


「冬木さん、そんな所でぼーっとしてないで行き

 ますよ」


「え…あ、うん…もういいや…」


「暁楓、お前(やー)は冬木の傘に入れ。俺だと

 身長差があり過ぎるからなァ」


「はい」


(…暁楓ちゃんと相合傘……か、雨の日も悪くないね)


「じゃァ行くかァ」


「はい」


4人は黄泉ノ桃源を出て、雨模様の空の下を歩き

出した。

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