リーナ
ここアストリア王国は300年から500年に一度魔物が大発生する。
大発生する周期は不明だが、大発生の年の前後はおびただしい数の魔物が出現する。
それが終わると、騎士団が常駐する程度で魔物を制圧出来るのだ。
発生する場所は北の大地の広大な深い森、通称、絶望の森と呼ばれる一帯だ。
魔物との戦闘において、王国の切り札となるのは、もちろん、騎士団だが、それと同等に、いや、それ以上かもしれない貢献を果たすのが癒しの魔法の力を持つ聖女だ。
魔物の大発生が無い通常の聖女の仕事は祈りと、王国の威信を見せつける為に行われるパレードや、大神殿で簡単な癒しの魔法を発現するだけで、王国民の尊敬と畏怖を抱かせるのに十分だった。
それもあって、聖女は貴族の令嬢がなっていた。
聖女が生まれない時期も多いのだが、魔物が大発生しない時代なら、何の問題も無かった。
聖女を出した貴族は称えられ、聖女自身も聖女を辞職後は、あまたの高位貴族との縁談が待っていた。
王族との結婚も過去にはあった。
聖女は乙女の時にしか、その能力が現れないとされていた。
5歳になると、神殿で水晶玉のような見た目の宝玉である、真実の目によって聖女判定が行われる。
王国民の全てがその判定を受けるのだが、殆どは形骸化されていて、貴族令嬢の為にあると言われてる。
事実、平民で聖女になった者はこれまで皆無だった。
そんな時に平民で、しかも孤児のリーナが恐ろしいほどの癒しの力を発現させて、神殿だけでなく、王家をも驚愕させた。
リーナは何度も真実の目に手をかざして、その力を証明した。
そこで、問題になったのは、平民であり孤児でもあるリーナの出自だった。
出自もあやしいリーナが貴族、ましてや王族との婚姻の可能性もある事は、卑しい血筋が入ることを恐れた貴族や王族とって頭の痛い問題だった。
また、裕福な商人との婚姻も王家を脅かす一因である為、結果的にリーナの事は内密にすることに決められた。
幸いに事実を知る者は、神殿の上位神官、王家、そして、宰相や一部の高位貴族のみだったから、リーナの事は秘匿され続けた。
それから、10年してがリーナが15歳になった時に、魔物の大発生が起きた。
前回の発生から800年程過ぎていた事もあり、王国では、魔物の大発生が忘れ去られていたこともあって右往左往する事態となった。