初恋
「ねえ、忘れないでね」
涙声の彼女の声。だけど懸命に笑おうとしている表情を見て、思わずこっちが泣きそうになった。
「バカ、忘れるわけないじゃん」
私はそっと、彼女の華奢な肩に手を回して、引き寄せた。一人にしたくない。一人になりたくない。だけど私たちはまだ子どもで。どうしようもなく無力で。
「ね、電話するから」
手紙だって書くし、メールだって迷惑メールと数張れるくらい送るし、頼まれてもないモーニングコールもする。だから、忘れないで。こっちの台詞だ。
「離れたって、友だちでいてね」
呼吸が止まる。わかってる。ちゃんと頷け、って自分に言い聞かせているのに私の頭は素直に縦に揺れてくれない。
「鈴音?」
ほら、彼女が不安そうな瞳でこっちを見ている。ただ頷けば良いだけじゃないか。ただ自分と彼女はお友達、大親友。その関係を肯定すれば良いだけじゃないか。なのに、強情だ。いつのまに、こんなにもワガママになったのだろう、私は。
「……っ」
彼女を強く抱擁した。お願い、嫌いにならないで。
「ありがとう」
彼女がそれをどう受け取ったのか、わからなかったが綺麗な泣き顔で彼女は笑った。
「ばいばい」
ジリリリ、と出発を告げる電車のベルを合図に彼女の背中が遠ざかる。
いま、終わりを告げたのか。
私の、絶対に叶わない初恋は。
「……愛子」
もう、届くことがないと知りながらも、私は彼女の名を幾度となく呼んだ。
駅のホームは、多くのひとで溢れていたけれど、私が求めているたった一人はもういないと思うと、泣けてきた。
「ばいばい」
さよなら、私の大好きなひと。
さよなら、私の初めてのこい。
背を向けた駅の方から、高々に出発の合図を知らせるベルが鳴った。