キャンメロの日常 6
「このくらいのサイズで良い?」
わたしは15分の1くらいのサイズになる。慣れた20分の1サイズではドール人形用の服は大きすぎる。
「上出来だね」とマイラが喜んだ。
「さ、早く着て」
マイラはわたしの前に重たそうな服を置いた。
素材の重さは等倍の人間向けに作られているから、多分軽そうな薄い素材に反して、実際は鎧みたいに重たいのだろう。わたしが体と一緒に小さくなった学校指定の制服の上から着ようとしたら、マイラが「ちょっと」と静止してくる。
「どうしたの?」
「なんで制服の上から着ようとしてるのよ?」
「だって、着替えるには脱がないといけないじゃん」
「脱いだら良いじゃない?」
簡単に言ってくれるけどさ……。わたしは小さくため息をついた。この現象、よく知ってる。自分よりも圧倒的に小さな相手のことは可愛らしいドール人形に見えてしまって、多少の無理強いならしたくなっちゃうんだ。
まるで、自分が小さな相手の飼い主にでもなったかのような気分になって、大胆なことでも言ってしまうのだ。わたしが通常サイズの時には、気軽に脱げなんて言ってこなかったわけだし。わたしだって幼少期に小さなカロリーナお嬢様のことをドール人形みたいに可愛らしいな、と思って見たり、気軽に触ったりしていたからよくわかる。
「脱いでもいいけど、何か試着スペース作ってよ。人に見られたくないし」
「えー、別に誰かが見ているわけでもないんだし、良いでしょ?」
「嫌だよ。マイラちゃんが見てる時点で恥ずかしいもん」
「って言ってもねえ……」
マイラがキョロキョロと机上を見回していた。そして少し悩んでから、「ま、いっか」と言ってわたしの胴を掴んだ。あまり縮小した人間を掴み慣れていない、乱雑な持ち方。もう慣れたけれど、お腹が圧迫される感じがして、この持ち方は好きじゃないんだよね……。
一体どこでわたしのことを着替えさせるつもりだろうかと思っていると、運ばれた先はなぜかマイラのスカートの中だった。
「な……、何のつもり!?」
「ここなら安全でしょ?」
布の上から声が聞こえてきた。わたしを挟んでいる両太ももは華奢なマイラらしからぬ丈夫さだった。多分、普段からメイドとして鍛えているのだと思う。スカート越しから見える部分は華奢な子だったから、かなり意外だった。
とりあえず、丈夫そうな右太ももに衣装を掛けさせてもらって、着替えを始める。簡単な構造だから、実際のドレスよりもはずっと着やすかった。
「着替え終わったよ」
わたしが声をかけると、スカートの下からヌッと手が出てくる。暗闇に現れた巨大な手がわたしを掴んで行こうとする様子は、ちょっと怖い。
ギュッと掴まれて、机の上に置かれた。マイラが興奮した様子でグッと顔を近づけてくるから、呼吸でドレススカートが揺れていた。
「かっわいい〜」
目を輝かせて喜んでくれているから、良かったのだろうか。とりあえず、満足したなら早く解放してほしかった。
「満足した?」
「まだ!」
「他に何するつもり?」
「これもつけてちょうだい!」
「これって……」
高級なケースの中から取り出したのは、エメラルドが施された、ドール人形サイズのティアラだった。