キャンメロの日常 4
窓の外を眺めると、メロディが楽しそうに執事見習いの男子たちに混ざってサッカーボールを蹴っていた。こうやってみると、普通の子どもたちだけれど、彼らもわたしたちと同じように仕えているお屋敷に戻ったら、きっと別人みたいに上品になるのだろう。
ボールを蹴っている男子たちはほとんどの子が成長期を迎えて背が高いけれど、そんな彼らの3倍以上の背丈でボールを蹴っているメロディがいる。一人だけ、建物が動いているみたいに大きい。迂闊にボールを取りに近づくと、大きくなったメロディに吹っ飛ばされるから近づくに近づけなくて困っているらしい。
「なあ、メロディさすがに5メートルはずるいって!」
男子の一人が呆れたように大きな声で抗議しているけれど、そんな男子の前で、メロディは腰に手を当てて自慢気に胸を張っている。
「元々わたしの方が小さくて、力も弱いんだから、このくらいのハンデあってもいいでしょ? 立派な執事なら、悪い魔女から主人を守らないといけないこともあるのに、ちょっと大きな女の子一人倒せないんだったら、怖い魔女には一捻りにされちゃうよ? うちの先輩メイドのベイリーさんなんて、なろうと思ったらあの山を片足で踏んづけちゃえるくらい大きくなれるんだから。もっと強くならないと、ご主人を守れないよ?」
メロディの話を聞いて、男子たちが震え上がっていた。今の話がベイリーの耳に入ったら、メロディの方が震え上がるくらい冷たい視線でベイリーに睨まれそうだ。
もちろん、ベイリーは山みたいにおおきくなったことはないから、実際に山より大きくなれるかなんて不明だったし、できたとしても、絶対にそんな各所に迷惑がかかるようなことはしないと思う。そもそも、どんだけ強くなってもそんな数千メートルのサイズの魔女に勝てるわけないし……。
けれど、そんな、ツッコミどころ満載の理屈で男子たちを無理やり納得させてしまった。実際のところ、男子から人気のあるメロディが拗ねてサッカーをやめてしまったら困るのは男子たちだろうから、多少のわがままなら聞いてあげているのだと思う。
メロディたちは、またサッカーを再開していた。わたしが見ていることに気づいたメロディは、わたしの方に向かって手を振ってくる。視点が高いから、わたしのことも見つけやすいらしい。遠いから分かりにくいけれど、メロディは多分視点の高さは3階にいるわたしと変わらないだろうし。
わたしは手を振り返すと、またメロディは足元を見つめた。メロディの周りに男子が集まっているけれど大きな体で器用にボールを蹴って、男子からの攻撃を交わしていた。
青いショートカットの可愛らしい少女が男子よりもずっと大きな背丈でボールを蹴っている姿はなんだかカッコいい。メロディがカッコよくなっているのは、大人になってさらにカッコよくなったリオナの影響なのだろうか。ショートカットも相まって、メロディはわたしとは一卵性の双子のはずなのに、わたしの妹というよりも、リオナの妹のようにも見える。
わたしの脳裏には真っ赤なショートカットでスラリと背の高いリオナの姿が浮かんでいた(もちろん、リオナは背が高いと言っても170センチくらいで、今の巨大化能力使用中のメロディよりもはずっと小さいけれど )。




