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キャンメロの日常 3

困ったように首を傾げるメロディに、わたしはもう一度言う。

「メロの口の中に入って骨を取るの!」

「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫だよ!」


メロディは心配そうに見下ろしてくるけれど、メロディが痛そうにしてるのは見てられない。とはいえ、いくら可愛い妹でも、口の中に入るのは正直怖い。


メロディの指先から振り落とされないように移動させてもらい、やってきたメロディの口の前は、思ったよりも迫力のある場所だった。普段可愛いメロディが、怪獣みたいに見える。大きな歯が噛み合うだけで、わたしは潰されてしまうのだ。


一瞬足がすくんだけれど、痛そうなメロディのことを思って、わたしは勢いよく指先から唇に飛び移った。柔らかいメロディの唇にしがみつく。ふにゃふにゃしていて、しがみつきづらいけれど、なんとかよじ登り、口の中に入る。


「思ったより蒸し暑いな……」

食事中のメロディの口は唾液がたっぷり分泌されていて、かなり湿っぽくなっている。深めの水たまりみたいに大きなメロディの口を歩く。


「キャン、大丈夫?」

メロディが喋ってしまったから、舌が上顎にあたり、わたしはメロディの上顎に叩きつけられた。

「や、やめて、メロ! 喋らないで!」

「あ、ごめんね」

今度は前歯に叩きつけられる。今のわたしはメロディが喋るだけで大変な目に遭っちゃうのだ。


「痛いよ! メロ、本当に喋らないでよぉ!」

地面が大きく上下したから、多分メロディが黙ったまま頷いたのだと思う。


とりあえず、静かになってくれたみたいだから、奥に進む。奥に進むにつれて傾斜がキツくなってくる。迂闊に奥に行ったら落ちそうで怖かった。これ以上奥に行けないかもと思ったところに、今のわたしの背丈くらいの大きな骨が見つかった。


「あれだ!」

その瞬間、メロディの舌が大きく動いた。多分、喜んでテンションが上がって、何かを話しかけようとした瞬間に、思い止まったのだと思う。けれど、話しかけて舌が動いたせいで、わたしの体は滑り落ちてしまう。


「落ちちゃう!」

喉から滑り落ちて、食道に連れていかれそうなときに、なんとかしがみつけたのが骨だった。


「た、助かった……。これを抜いたらメロに助けてもらわないと……」

まだ子どもだったわたしは、ツメがあまかったのと、一刻も早くメロの体内から出たかったのとで、順番を誤ってしまった。必死にメロディの喉に刺さった骨を抜いたのは良かったのだけれど、唯一の足場を失ったわたしは一気に食道を落下してしまう。


「助けて、メロ!!」

「キャン、どうしたの!?」

どんどんメロディの声が遠くなっていく。そして、わたしの体はメロディの食道の動きにより、少しずつ胃に向かって運ばれていく。今のわたしは完全にメロディの体に栄養分として認識されてしまっている。


「怖いよ、メロ……」

小さく呟いたわたしの声は、もう外には聞こえなくなっていた。


わたしの声が聞こえなくなったからだろう。メロディはさっきよりも激しく泣きながら、魔法を使える大先輩メイドのベイリーのところに向かったのだった。ここで最短距離でベイリーのところに向かったメロディは、自ら足場を失うような作業をしてしまっていたわたしよりもはずっと冷静だったと思う。もしここで判断を間違われていたら、わたしはメロディの胃液に飛び込む羽目になっていただろうから。


わたしは食道の動きに必死に抗うために踏ん張るも、簡単に奥に押し込まれていってしまう。今の体では無意識のメロディの体の動きにもまったく敵わないらしい。外からはメロディとベイリーの話が聞こえてきていた。


(ベイリーさん、助けてぇ!!)

(どうしたのよ)

(キャンのこと飲み込んじゃんったぁ)

(えぇっ!? キャンディちゃんが小さくなってメロディちゃんの体に入ったってことかしら!?)

(うん……。どうしよう。キャンを助けてぇ!)

(まだ飲み込んでからは時間は経ってないのね?)

(うん)

(間に合うかしら……)

(ベイリーさんも小さくなってる!)

(とりあえず、これでいいわ。口開けて!)

(パスタ……?)


そこで会話が止まった。パスタとは何のことだろうか。疑問に思っている間も無く、ベイリーはすぐにわたしの元へとやってきてくれた。空を飛ぶために箒の代わりに跨っているパスタがさっき聞こえていたパスタという言葉だったんだろう。食道をスムーズに動くために、わたしよりもさらに小さなサイズになっていた。


「もうっ、キャンディちゃん、メロディちゃんの口に入るなんて危ないことしちゃダメ!」

「メロの口に骨が引っかかったから……」

「骨をとってあげるのはいいけれど、キャンディちゃんに何かあったら、メロディちゃんが困っちゃうでしょ? 無茶なことしちゃダメ!」

「はぁい……」


「とりあえず、その大きさだとうまく上に上がれないから、もっと小さくなれるかしら?」

「なれるよ」

わたしは頷いてから、極小サイズのベイリーさんと同じくらいのサイズになる。


わたしたちはメロディに食べ物として認識されないくらいの小さなサイズになって浮上する。メロディの口の中まで浮上した時に、メロディの口の中が街のように広かった。唾液は海みたいだし、歯に挟まっても小すぎて噛み潰されなさそう。メロディの口から出た時には、小すぎて危うく呼吸で遠くに吹き飛ばされそうになった。


「早く戻るわよ!」

先にベイリーが元に戻ってから、慌ててわたしも元に戻って、事なきを得たのだった。もう絶対に人の口の中には入りたくないと思ったし、小さくなることの危険性についても改めて認識したのだった。

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