キャンメロの日常 2
縮小魔法でのトラブルはいくつか経験していた。そのうちの一つが、まだ縮小化魔法が使えるようになったばかりの頃。多分、カロリーナお嬢様が実家に帰ってしまってから、2年くらい経った時だったと思う。
その日の晩御飯は、メイドには賄いで魚が出されていたのだった。本格的にメイド仕事をするようになってからは、ドールハウスのお屋敷に住んでいる時とは違って、みんなで一緒にご飯を食べるということは少なくなってきたのだけれど、わたしとメロディはまだ一緒に行動することが多かったから、一緒にご飯を食べられていた。
わたしたちは2人で並んでご飯を食べていたのだけれど、楽しく食事をしていたメロディが突然大きな声で泣き出したのだった。
「え〜ん、痛いよ〜」
「メロ、どうしたの!?」
横で泣いているメロディの方を慌てて見た。
「キャン、痛いよぉ」
「どうしたの? 虫歯か何か?」
わたしは横に座っているメロディの顔を覗き込む。
「骨が刺さっちゃったよぉ」
「えぇっ!?」
「とりあえずご飯飲み込んでみて!」
メロディが泣きながらご飯を飲み込んでいるけれど、なかなかうまくはいかないみたいだ。
「取れないよぉ。もうご飯食べられないよぉ。お腹いっぱいだよぉ!」
「どうしよう……、ちょっと見せて」
メロディの顔をこちらに向けさせる。
「口開けて!」
メロディが口を大きく開ける。
「よく見えないな……」
わたしがメロディの口の中を奥まで覗いても、喉の奥は暗くて口蓋垂くらいまでしか見えない。
「ベイリーさんもソフィアさんも忙しそうだし……」
わたしは少し躊躇したけれど、机の上に乗る。躊躇した、というのは机に乗ることに対してもだけれど、それ以上に、その後にわたしがしようとしている行為に対して。けれど、涙を流しているメロディのことは放っておけなかった。
「キャン、お行儀悪いよ?」
鼻を啜りながら、わたしに注意をしてくるメロディ。
「メロのためにやってるんだから、ソフィアさんに言いつけちゃダメだよ?」
メロディはわたしが何をやるかわかっていないようだけれど、頷いてくれた。わたしは集中する。まだあんまり使ったことのない縮小魔法。周囲の大きさがどんどん変わっていく。わたしは今までなったことのない、40分の1サイズにまで小さくなった。たったの3センチ。メロディのことが58メートルというとんでもない大きさに見えてしまう大きさ。
「キャン可愛い! ……痛っ」
「あんまり喋らない方がいいよ。静かにしとかないと痛くなっちゃう」
メロディが頷いて、黙りつつも涙目で、ちょっと楽しそうにわたしのことを見下ろしていた。今のメロディは、感情がいろいろ混ざっていそうだ。
「さ、キャンディのこと指先に乗せて!」
メロディが頷いて、わたしのことを摘み上げようとしたけれど、メロディの指の力が思ったよりも強かった。
「ま、待って! ダメ、メロ! 痛いよ!」
今まで20分の1サイズのときよりもさらに力がかかるわけで、同じように持たれたら、耐えられないような大きな痛みに襲われてしまう。転げ回っているわたしを、メロディが心配そうに見下ろしていた。
「だ、大丈夫……?」
「ひ、人差し指出して……。キャンディがそこに登るから」
メロディが頷いた。わたしは痛みを堪えながら、メロディの指先に登る。
メロディは、まだわたしが何がしたいのかわからないみたいで、指先に乗っても何も反応してくれなかった。ただ黙ってわたしを見下ろしている。
「メロ、わたしのことを口の中に入れて!」
「え?」
メロディが驚いたまま指先にいるわたしのことを、大きな瞳で見つめていた。