キャンメロの日常 1
講義室で真面目に座学を聞いているわたしと違って、双子の妹のメロディは楽しそうに窓の外を眺めていた。メロディは実技の授業(というか体育の授業)は大好きだけれど、座学にはまったく興味がない。基本的にはテスト前にはわたしが勉強を教えてなんとか単位をとっている。
アリシアお嬢様たちと一緒に生活するようになってから7年の時が経ち、わたしとメロディは15歳になっていた。すでにメイドとして本格的にお屋敷で仕事はしていたけれど、優しいアリシアお嬢様は「同年代の子たちと触れ合うことも大切ですの」と言って、わたしとメロディのことをメイド学校に連れて行ってくれたのだ。
実際、ずっとアリシアお嬢様の家で面倒を見てもらっているから、年上の人たちとはかなり触れ合う機会が多かったけれど、同じくらいの年齢の人と触れ合う機会がずっとなかった。このメイドや執事向けの学校に来て、初めて同じくらいの歳の子たちと触れ合うことができて、楽しんでいる。
……まあ、7歳年上のカッコいい女性であるリオナに片想い中のわたしにとって、同じくらいの歳の子たちはなんだか子どもに思えてしまうけれど。
「ねえ、キャンもサッカーしに行こうよ!」
お昼休みになって、メロディが声をかけてくる。昔から妹のメロディは、わたしのキャンディという名前を略してキャンと呼んでいる。そして、わたしもメロディのことをメロと呼んでいる。
「サッカーって、周り男子ばっかりじゃないの?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
平然とメロディが尋ねてくるけれど、わたしはただでさえ運動音痴なのだから、男子と一緒にスポーツをするなんて、絶対に無理だ。
「じゃあ、わたしはやめておくわ」
「えー、キャンも一緒が良い!」
メロディがわたしの手をギュッと握ってくるけれど、わたしはため息をつく。
「あのね……。大きくなれるメロとわたしは違うのよ」
メロディは、本来の大きさはわたしと同じ150センチ。けれど、この子は自分の体をどこまでも大きくする魔法が使える。
お屋敷で仕える先輩メイドで魔女のベイリーが言うには、わたしたちは幼い頃にサイズを変える魔法を長期間使用されたせいで、サイズを変える魔法が体に残ってしまったかもしれないらしい。そして、メイド長で魔法学に詳しいソフィアも、実際に幼い頃に魔法を使われた影響で、魔法が使えるようになった例はあると言っていた。
ただ、そういうケースでは、慣れるまではいくつかの魔法トラブルもあるらしい。実際、魔法が使えるようになったばかりの頃は暴発して、無意識のうちに発動してしまうこともあった。
例えば、メロディは大きくなれるようになったばかりの頃は、怖い夢を見たときに何度も寝ている間に巨大化して、ベッドを壊してしまっていた。その度に、一緒に寝ていたわたしは倍以上に大きくなったメロディのズッシリとした体に潰されそうになって起きるのだった。
ただ、メロディの場合はまだ大きくなる方だからトラブルがあっても自分の身は安全だから良い。小さくなる魔法が使えるようになってしまったわたしに比べたら……。
わたしなんて、メロディのお腹で消化されそうになったり、見知らぬ幼女にドール人形と間違えて持ち帰られたりしたことがあるのだから……。