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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

これは現代版婚約破棄といえるのか?!

作者: 優輝

これまでは自分の書きたいものを書いて投稿してきましたが、

なろう要素や流行要素がなかったためか思ったよりも読んでもらえませんでした。


なので自分もそれらの要素を含んだ物語を書き投稿してみようと思い立ち、

まずはランキング上位の短編をいくつか読んで研究しようと考えました。


読んでみていざ自分で書いてみようとしましたが、これまで純文学系やネット小説ではない

一般大衆向けエンタメ作品に慣れ親しんでいた上、ネット小説は普段読み慣れていないし

作り慣れていないためか、創作できず行き詰まってしまいました。


そこでいくつか婚約破棄作品を読んだ時、過去に某脚本スクールに通った時に課題で書いた作品が

現代版の婚約破棄に当てはまるのではないか?と思い当たりました。


その脚本作品を小説の形に修正したら使えるかも、と思い完成させたのが今回の作品になります。


婚約破棄する場面が出てくるので、婚約破棄作品とは言えると思いますが、

なろう要素、流行要素が効果的に取り入れられているのか正直自信がありません。


ですので、「これはなろう系ではないんじゃないか?」「ちょっと違うかも」

などのご指摘意見などがあれば勉強になり励みになりますので宜しくお願い致します。


なお、今回物語のラストは2パターン思いつき、どちらにすべきか迷ったんですが

2つとも書いた方がそれぞれ読んだ時に感じる印象ががらりと変わり面白いのではないかと考え

あえて2パターン書いた次第であります。そのあたりも注目していただけると幸いです。


日曜日の昼下がり。都内から少し離れた場所に建つ山の上教会。

ステンドグラスからは陽光が差し込み、白を基調にした式場を照らしてる。


祭壇に立つ神父の前に俺、片岡淳かたおかあつしは最愛のフィアンセ秋田玲実あきたれみと向かい合っていた。

タキシードに身を包む俺は純白のウェデイングドレス姿の玲実を、眩しいものを見るように目を細める。


出会ってから交際を始め今日まで5年。

重ねてきた日々のことが思い起こされる。色々なことがあった。

時には些細なことで喧嘩をし仲直りもしながらも

ついにこうして結ばれる日を迎えることできた。


俺はこれからもそんなかけがえのない思い出を作る日々が

夫婦となっても続いていくことを信じて疑わなかった。



「秋川玲実、妻として夫片岡淳を愛し敬い慈しむことを誓いますか?」

神父の言葉に玲実は俯き沈黙する。


俺を含め参列者は見守っていた。

だが数秒、1分と沈黙が続き、教会内がひそひとそざわつき始める。


「玲実・・・?どうした」

たまらず俺は距離を保ったまま、小声で玲実の表情を伺う。

様子がおかしい。


玲実はうつむいたまま両方の手を握りしめると、意を決したかのように顔を上げ俺を見た。

その目には涙が滲んでいる。


「淳くん、ごめんなさいっ!私やっぱりあなたとは結婚できないっ」

「え?」


何を言われたのか瞬時に理解できず、口をぽかんと開け立ち尽くす俺に

「さよなら」と言い残し玲実はドレスの裾を翻して参列者の視線を集める中、

バージンロードをかけていき扉を開け出ていってしまった。


ドアが閉まると教会内は異様な静寂の雰囲気に包まれた。







俺が勤める食品会社の玄関、タイムカードを打刻する。

配属されている商品企画課の部署までやって来ると部屋の中から声が聞こえてきて立ち止まった。


「片岡さん、気の毒だよな。結婚直前に花嫁に逃げられてさ」

後輩の山本の声。


「嫁さん、数年前から二股してたって話だ」

「もう片方の男の方にいったわけか」


俺は奥歯をギリッと噛み締めた後、入室した。

後輩達は不味い場面が見つかってしまった、というような顔になったが、

取り繕うように挨拶してきた。


それぞれ気まずそうにしながら自席に戻っていく。


俺は顔がこわばるのを感じながらも、彼らに何か言うでもなく黙って席についた。

眼の前、向かい合わせに置かれた机は無人。


数日までは仕事のファイルや電話などがあったが綺麗に取り除かれている。

婚約者であり同僚だった玲実の席だ。



俺たちは職場結婚だった。否、結婚するはずだった。

同期で新人として共にこの部署に配属された。


同期ということもあり仕事で協力するため話をすることも多く、

時には上司には言えない悩み事や愚痴なども言い合う仲になった。


自然とその流れで互いに惹かれるようになり交際に至ったのだ。

会社では社内恋愛を特に禁止してはおらず、俺達は周囲から公認のカップルとして認知されていた。


交際開始からの関係性を知ってるだけに、

無様に捨てられた俺に同情の目が向けられるのも仕方のないことかもしれない。

しかしだからといって当然快く受け入れられるはずもなく不愉快だと思わずにはいられなかった。


玲実が結婚破棄をしなければ今頃はハワイにハネムーンに行き幸せを満喫しているはずだったのに・・・・

現実にはこうして仕事をしている自分が惨めでならなかった。







マンションのリビング。ローテーブルの上は酒の空き缶が散乱している。

床に座る俺は手に持った缶ビールの残りをあおり一気に喉に流し込んだ。


大きく下品な息を吐き出し、殻になった缶をぐしゃと握り潰す。

「くそっ!どういつもこいつも俺を腫れ物扱いしやがってっ。

内心では俺のこと笑ってんだろ!」


缶を壁に投げつける。跳ね返りカランと床に虚しい音が響く。


玲実がいなくなってから俺は現実を受け入れることができず、

逃げるように毎日酒を浴びる日々を送っていた。

食欲は湧かず時々ツマミを口にするだけ。


マグカップやお箸、歯ブラシ・・・


部屋のあちこちには玲実の使っていた私物がある。

逃げられる直前までこの家に同棲していたからだ。


玲実への怒りからそれらを処分することもできたが、傷心で気力も湧かなかったし、

もしかしたら今にでも玲実が俺の元に戻ってきてくれるのではないかと

いちるの望みを捨てられずにいたからというのも否定できない。


浮気されて許せるのかという問題もあるが、先に好意を持ち告白したのは俺の方。

惚れた弱みというべきか。

もし戻ってきたら許してしまうかもしれないほどに、俺は玲実のことを愛していた。


「なんでっなんで、行っちまったんだよおお」

怒り、悲しみ、惨めさ色んな感情がいっぺんに胸に溢れ

テーブルに拳を押し付けると目に涙がにじみ出てくる。


玲実が二股をしている事実には全く気が付かなかった。

俺が鈍かったのか玲実がバレないよう振る舞い続けたのが上手かったのかはわからない。

会社で噂話をしていた後輩達を思い出す。


なぜ彼らが玲実の二股を知っていたのかは、

俺と特に親しくない社員の中に玲実の秘密を知っていた連中がいたらしい。


結婚式までは内密にされていたが、破棄された今その必要もなくなり暴露されたといった所か。

この手の話は盛り上がりやすいこともあるためか、

噂は瞬く間に尾びれもついて社内を駆け巡ったのだった。





玲実がいなくなって半年が過ぎようようとしていた。

心を入れ替え彼女が戻ってきてくれるような展開は起こることもなく、

俺は傷ついた心を抱えながらも、ただ耐えるようにやり過ごすように日々を過ごしてきた。


当初多かった飲酒量も次第に減り始めた。

一時ろくに食事もせずげっそり痩せたが、人間の心というものは不思議なもので、

時間の経過が万能の薬であるとでもいう風に食欲も復活して食べれるようになった。



仕事の昼休憩で俺はオフィスの近くにある居酒屋兼食事処に職場の先輩である岡本一馬と来ていた。

昼はランチ、夜は居酒屋となり仕事終わりも時々一杯ひっかけるための度々利用することもあった。


「結婚式からもう半年か。玲実ちゃん金持ちの御曹司と結婚したんだってな」

BOX席の向かいに座る岡本がお冷を飲み言う。

玲実が別の男と結婚したことは知っている。


会社にいれば聞きたくなくても噂として俺の耳に入ってきたからだ。

その事実を知った時は復縁の可能性が完全にたたれショックを受けなかったいえば嘘になる。

希望は持っていたが心のどこかでもう無理だろうと諦めもしていたので、

結婚破棄ほどの衝撃はなかった。


とはいえ他人の口からその事実を言われて平静でいられるほどの状態でははない。


「先輩は俺に止めを刺したいんすか」

「あほ、逆だ」


ぶっきらぼうに言う俺に真顔になった岡本が身を乗り出し

頭を軽くはたいてきた。


「お前もいつまでも引きずっていじけてないで新しい出会い探せって言いたいの」

どうやら先輩はからかいたいのではなく本気で俺のことを心配してくれているらしい。


それ以外にも覇気のないしけた面で仕事をされたら

部署内でも雰囲気も良くないという理由もあるのだろうが。

こっちとしてそうするしかないのだから無理なお願いである。


「お待たせしました。ハンバーグ定食と、チキン南蛮定食です」

店員が、いつもと変わらぬ眩しい笑顔で食事を運んできた。


「おお、咲ちゃんありがとね」

俺と同様、岡本先輩もこの店の常連だ。この店の看板娘である夢野咲ゆめのさきと軽い雑談を交わす。


もう、岡本さんったらと口元に手を当てて咲が笑っている。

俺も仕事帰り夜居酒屋になってから寄って酒を飲みながら咲と雑談したりもする。

玲奈がまだ会社にいた時は二人で食事したこともあって関係は知れていた。



「ほら、例えば咲ちゃんどうよ、可愛くて良い娘だろ?」

咲が来てさっきの話は終わったのかと思いきや、続行するだけでなく無関係の咲まで絡めてきた。


「岡本とお似合いだと思うんだけどなぁ」

最初話題に自分を出されて、目をきょとんとしていた咲だったが

俺とひっつける恋愛話に巻き込まれたのを悟ったんだろう。

笑顔が引っ込む。


「冗談でもやめてください先輩。夢野さんが困るでしょう。ごめんね変な話しして」

店の常連とはいえ客と店員の関係に過ぎない、

突然脈絡もなくカップルにされそうになるのはいい迷惑な話だろう。


俺が謝ると咲は―ーーー

「えっと・・・・・」


お盆で口元を隠して言葉をつまらせる。

見えている顔の部分は見間違いか、紅潮しているようにも思われた。


「お、おおおお?これは満更でも・・・・・」

咲の反応に敏感に反応すると先輩は咲と俺を交互に見比べ始めた。

俺も彼女の反応にどうしていいのかわからず、固まってしまう。


店に通い詰める中で笑顔で言葉を交わしあっていたが、それはあくまで客と店員としてだと思っていた。

まさか咲が片岡にただの客以上の感情を抱いていた可能性があったというのか。


咲は俺と玲実が交際しているのも知っていたし、

恋心を密かに秘めていたのかもしれないと思うと動揺を禁じ得なかった。







婚約破棄から数年後。




俺は買い物カートにカゴを乗せて、手を繋いで前を歩く咲と

未来みくの後をついていく。


良く利用するスーパー内は夕方という時間帯もあり多くの客で混み合っていた。

「ママ、プ◯リキュアのお菓子買って!」

お菓子コーナーの棚に差し掛かると未来が、繋いだ手を振りその場でぴょんぴょんと飛び跳ね、

可愛らしく咲におねだりする。


「駄目よ、未来。こないだ買ったばかりでしょ?」

二人のやりとりから、俺が平日仕事の日にでも彼女らだけで買い物に来て

そのお菓子を未来に買ってやったらしい。


「でも、お菓子についてるおまけが、前買ったのと違うが欲しいんだもん。買ってよ」

未来はお菓子自体が欲しいのではなくそのおまけに興味があるらしい。

プ◯リキュアは国民的人気アニメ。


おまけはアニメに出てくるアイテムを模したモノのようで数種類あるらしい。

アニメが大好きな未来が全部集めたがる気持ちもわかる。

俺も子供の頃似たようなお菓子のおまけを集めていたからな。


「買いません」

しかしそんな未来の熱い希望とは裏腹に咲の方は、毎度まいどスーパーに来るたびに

子供の要望を聞きすぎるのもわがままな子に育つのを心配してか、

愛する娘が可愛いのを横において心を鬼にしている。


二人の買って、買いませんの押し問答をしばらく見守っていたが、

願いが聞き届けられないと悟ったのか未来が涙を浮かべだした。


「いいじゃないか。買ってやろう」

見ていられず俺はそう提案する。


「本当?!パパ大好き!」

俺の言葉に、すぐに涙を引っ込めると咲は嬉しそうに抱きついてきた。

切り替えの早さに現金に思いもしないわけではないが、娘が喜び好いてくれるのは悪い気がしない。

自然と俺の頬も緩み咲の頭を撫でる。


「もう!あなたは未来には甘々なんだから!」

当然咲が怒るのも無理はない。怖い顔で睨まれ後退りそうになる。

咲は大きなため息をつき「しょうがないわね」と折れると笑った。


「今回だけだからね」

しゃがみこんで未来に真顔を向けて確認している。

「ママありがとうっ」

笑顔をはじけさせると、目当ての商品を手に持ってきてつま先立ちしカゴの中に入れた。


お菓子を買ってあげるかどうか、こんな光景はどこの家族にもありふれたものなのだろうか。

極日常の一部だとしても当たり前にあるものなんかじゃないと、俺はこの幸せを噛み締めている。





数年前、店で咲に好意らしきもの示されてから互いに気まずい空気も流れたが

当時俺はお店通いを控えるようなことはしなかった。


そんなことをすれば露骨にこちらも咲のことを意識しているようで変だったし、

咲が俺に嫌われたのかも知れないなどの誤解を咲が持ってしまうのも俺の望む所ではなかったからだ。


また行きつけの店がなくなってしまうのも嫌だった部分もある。

そんなこんなで、それまで通り店に足を運ぶ内に、

互いに意識しあって減っていた口数も徐々に元の通りに戻っていった。


元の関係性に戻るだけかと思っていたが、変化したこともあった。

咲から遊びに誘われたのだ。

結婚破棄からまだ日が経っておらず傷心を抱えており、

咲が良い悪いという問題でなく、新たな異性と交流を始めるのにはまだ時期尚早と思っていたし、

世間的な目も宜しくないと考えたので丁重に誘いを断ったのだった。


咲が俺を誘うのをそれで脈なしと考え諦めてしまうかに思われたが、

意外なことに一ヶ月後、三ヶ月後とやや時間を開けて再度誘ってきたのだ。


正直まだ乗り気ではなかったが、断りを入れる度に罪悪感が募るのも手伝って俺は折れた。

数回目の誘いを受け映画を見て食事に行った。


それがきっかけとなったのか、これまでの遅れを取り戻すかのように、

自然と逢い引きを重ねるようになる。


咲は店に通っていて出会った頃から魅力的な女性であるとは思っていた。

明るく愛嬌もあるし、人の気持ちを察知して空気も読める。


自分のことばかりを話したがる女性が多い世の中では珍しく

男である俺の話、何気ないものから少々愚痴めいたことまで、

余計な助言みたいなものを挟んだり、自分の話にするかえるようなことはせず、

じっと耳を傾けて聞いてくれた。


元婚約者の玲実もそんな咲の人柄に惚れて仕事のこと、その他

色々なことを相談していたのも知っている。


そんな元々魅力的だった咲と二人きり、身近で触れ合う度に

もっと彼女の良さを実感するようになってどんどん惹かれていく俺がいた。


先に好意を持ってくれたのは咲の方だったが、

ある時を境にして想いを寄せる気持ちは逆転したのかもしれない。


咲のことが好きであるとはっきりと自覚してからは溢れる気持ちを抑えることはせず

俺から正式に付き合って欲しいと告白した。

その時の喜びをはじけさせた咲の顔は今でも忘れられない。

結婚破棄から二年目、傷心はいつの間にかなりを潜めていた。


交際後もすれ違ったり破局危機に陥るようなこともなく順調に愛を育んだ。

二人の相性がよかったこともあるが、咲の人間性が本当に良かったのが一番の理由だろう。


幸せを積み重ねていく自然な流れに任せるように俺は咲にプロポーズし結婚した。

ほどなくして二人の愛の結晶である娘、未来も生まれた。



手を繋いで楽しそうに話しながら歩いている咲と未来の後を歩く俺は、

ふと鮮魚コーナーの方に目を向ける。そこで足を止めた。


商品を物色している客の中によく知っている人物を見つけたからだ。


「咲、ちょっといいか」

「どうしたの?」

先を歩いていた咲が不思議そうな顔で戻ってくる。


「悪いけど、買い物を済ませたら先に帰っててくれ」

「いいけど・・・」

何か言おうとした咲だったが、俺が見つめる視線の先に咲も知っている人物を見つけて言葉を止めた。

全てを察したようで頷く。


「わかった。未来と先に帰ってるね」

「パパ一緒に帰らないの?」

「悪いな、パパ少し用事ができたから。なるべく早く帰るから家でママと待っててくれるか?」

「うんっ」

俺が頭を撫でてやると未来は元気に頷いた。

先程の人物に視線を戻すと、

向こうも俺たちに気がついたようで立ち止まりこちらをじっと見ていた。


咲達と別れ俺はその人物の方に近づいていく。

彼女は逃げるそぶりはみせずその場から動かなかった。


髪は手入れがあまりされておらず痛んでように見える。

表情も暗く目はくぼみクマがあり、数年時ををえたとはいえ、

頬はやつれ式場で最期に見た記憶の中にある顔とは違っていた。


服装もお世辞にも品質がいいとは言えず所々ほつれが見られる。

手にしたかごの中には半額シールの貼られた惣菜などが数品入っていた。


「久しぶりだな。もう10年たつのか」

俺はかつて愛し結婚を破棄された婚約者、玲実に声をかけた。


「もう・・・そんなになるのね」

俺を見つめる玲実の瞳が揺れる。

発した声は覇気がなく掠れていた。





スーパーから徒歩数分の所にある公園。

太陽は西の空に沈みかけていて薄暗くなり始めている。園内の街灯が点っていた。

未来を連れて遊びに来ることもある公園だ。


俺と咲は結婚後、この街に住むことを二人で決め賃貸マンションに引っ越してきた。

将来子供ができることなども考慮して広い家を選んだ。


一人で暮らしていた場所からは遠距離ではなかったが、それなりに離れている。

玲実とこうして遭遇再会したのには驚いたが偶然だ。

どこかの街で暮らしているとは思っていたが、まさか同じ地域だっとはな。


「私が他の男の人と結婚したのは・・・知ってるわよね」

ベンチに腰掛けた玲実の言葉に、俺は彼女の前に立ったまま一つ頷いて見せる。


玲実も結婚破棄後に社内の噂を通じて俺がその事実を知っていることも承知しているのだろう。

またどのような相手なのかも。


「彼との結婚生活は本当に幸せだった」

遠い目をし懐かしむような顔で語る。


「欲しかったものは何でも買えたし、

行きたい場所に行けた。食べたいものを食べれた」


旦那は名の知れた企業の跡継ぎ息子。

そんな相手を射止めたのだから玲実が豪華絢爛な生活を送っていたことも想像に難くない。


「そんな幸せがずっと続くものだって信じて疑わなかったわ」

俯き顔に陰りがさす。

「会社の業績が急降下して・・・資金繰りが回らなくって、

社長になった夫は多額の不渡りを出してしまった」

「リーマンショックか」


玲実が語る当時は米国のリーマン・ブラザーズが破綻した。

その余波は米国にとどまらず世界中に飛び火した。日本もその例外ではなかった。


俺の勤める会社も新卒採用が控えられ、ボーナスもなくなり、

首切りもあったがなんとか耐え忍び乗り越えてきた。


「当然の結果かしら・・・会社は倒産してしまったわ」

世界恐慌と言っていい波に飲み込まれた、と玲実は言う。


あの頃は潰れていく企業が多かった。

玲実の夫の会社がいかに有名企業といえど倒産は不思議なことではないだろう。

華やかな生活から一転、奈落の底なのが現在の玲実。

どんな気持ちで日々を送っているのだろうか。

サラリーマンも大変だったといえ、その非ではないほどの苦労を重ねたはずだ。


屈辱、怒り、悲しみ、そんな感情を想像するしかできない俺をよそに玲実が話題を変える。

「淳くん、咲ちゃんと結婚したんだね・・・」

さきほどスーパーで咲の姿も目にしていたからな。


「子供さんもいるんだ」

弱々しい笑みを浮かべて言う。

未来もいたから俺たち三人を家族と結論つけるのも自然だろう。


「結婚してもう8年になるか」

玲実が大きく息をつく。

「淳くんは自分の幸せを掴み取ったんだね・・・こんなこと言う資格はないのはわかってるけど、

ずっと気にしてたから。よかった」


「お前に逃げられてからは散々だったけどな。地獄だったよ」

怒り、惨めさ、無気力感に苛まれていたのを思い返す俺の言葉に、びくりと体を震わせる玲実。

罪悪感を抱いているであろうからの反応か。俺は言葉を続ける。


「なあ、玲実。どうして俺を捨てて出ていったんだ?」

硬い表情のまま沈黙する玲実。言いたくないのか、打ち明けることをためらっているのか。


「今更な話かもしれないが、俺はお前の口から理由を聞きたいんだ」

結婚破棄の訳。一人残された俺は様々な理由を考えはしたが限界がある、

明確にこれが正解と出せるはずもなかった。

知りたければこうして本人に直接聞くしかない。


返答を待つようじっと見守っていると、目を閉じ数秒後に開き、

「そう。そうよね、何も言わないまま行ってしまったから当然よね」

玲実の中で何かを決意したのか一つ頷いて口を開く。


「淳くんと付き合ってた頃に、あの人にアプローチされたの」

あの人とはもちろん結婚した旦那のことだろう。


「最初はあなたもいたし、誘いを断ってたんだけど・・あまりにも熱烈で

彼の根気に負けてしまった」

俺の知らない所での逢い引きが始まったということか。


遠い過去に想いを馳せるように懺悔するように手の平を重ね合わせている。

「彼のことを知る内にどんどん惹かれていく自分がいた。

気づけば好きになってた・・・いけないこととはわかっていたんだけど

二股をしていたってことになるね」


女性はバレずに浮気するのが男性よりも巧みだと一般的に聞くが、

その例に漏れず俺もまったく察知することができなかった。

それだけ玲実は上手く立ち回っていたということだろう。

事実知ったのは逃げられてから、しかも人づてだからな。


「でもね、あなたのことも好きだったのよ。

彼を好きになったからあなたを嫌いになったわけじゃない」


「同時に二人の人間を好きになったのか」

「世間的に見たら節操のない酷い女だよね、私だって当事者になる前なら同じことを思ったでしょう。

でもまさか自分がそうなるなんて夢にも思わなかったのよ」


世の中には頭で理解するのと実際に経験してみるのでは

まったく異なることがあり、一理ある。世間的によく起こりうることなのかはわからないが

違う人間を同時に好意を寄せるのもその一つだろう。


身近な人間に起こりうる可能性もゼロではない。

不運にも俺はそのケースに当たったらしい。

玲実は理屈じゃない本能的な所で同時に好きになってしまい、

抗うことができなかったと訴える。


「あなたとの結婚の話が出て、進んでいくにつれ私は本気で、

それまで生きてきた中で真剣に悩んだわ」

当時の苦悩を思い出しているのか、顔を歪める。


「このまま淳くんと結婚してもいいのか、幸せになることができるのか、

後でもう一方の彼と結婚していればと後悔しないのかって・・・」


両方好きだからとどちらとも結婚することはできない。

日本では一夫多妻制や一妻多夫制ではないので

必然結婚するのであればどちらかを選ぶしかなくなる。


「あなたと彼、それぞれと結婚した後の生活を何度もイメージしたわ」

目を閉じそうつぶやく玲実。


「そうして一つの結論に至った。あなたになくて彼にあったもの。

品のない話だけれど彼には資産、経済力があった」


サラリーマンと経営者資産家、否定しようのない事実を包み隠すことなく告げる。

「交際中にも感じていたことだけど、

普通に生活していてはできない色んな体験が彼といればできたの」


お金がある分、俺にはしてやれなかったような経験をさせてもらえたであろうことは

想像に難くない。俺とひもじい交際をしていたわけではないが

資産家との逢い引きと比べればどうしても見劣りしてしまうだろう。


「彼と結婚すれば生涯ずっとそんな何不自由ない生活ができる、それに私だけじゃない。

子供が生まれたら自分が幼い頃にできなかったたくさんの経験もさせてあげることができる」


玲実は早くに両親の離婚で父親を失い母子家庭だった。

ぜいたくもできず苦労してきた生い立ちなので

資産家に惹かれるのも無理ないのかもしれない。


それに玲実だけでなく将来を見据えて我が子にまでも恩恵を与えられる、

辛い思いより良い思いをさせることができる、サラリーマンである俺との結婚生活よりも。


「だから俺との結婚を破棄したんだな」


玲実は何も言わなかったが、その沈黙が肯定を如実に表していた。

金がある男性を選んだ、ということ。そのことに嫌悪感を持つ人間も多いだろうが

生物学的に見ると女性は子孫を残すために強い男性を本能で選ぶ傾向にある。


現代で言えば強い男性=経済力のある男性と当てはめることもでき、

子供も安全に育てることができる。

その観点から言えば玲実の選択は正解の一つと言えるかも知れない。


「人生は一度きりだから・・・後悔する選択はしたくなかった。

彼もあなたも同じくらいに好き。

だったら経済力がある彼の方を選ぶのもおかしいことじゃないでしょう?」


結婚破棄当時同じことを玲実から言われていたら俺は納得しただろうか。

理屈では理解できても感情では受け入れられず怒りくるっていたか。


あるいははい、そうですかと信じられず、俺のことが好きだったが、

資産家をそれほど好きでなくても金に目がくらんでそちらに逃げたのではないかと疑念を持ったかもな。


今話を聞いてもまったく疑ってないとは言い切れない自分がいる。

そんな俺の考えを察したのか、玲実が言う。


「信じて貰えないと思うけど・・・彼のことが好きじゃなかったら、

あるいは彼より淳くんの方が好きだったら淳くんを選んでた」


真っ直ぐな瞳を向けてくる。愛の比重が勝っていればお金は選ばず結果は違っていたと。

彼女の言葉を信じることもできるし、疑うこともできる。

玲実の言うことが真実であれば俺と結婚していたかもしれないが・・・。


問題はそこではない気もする。

仮に俺のほうが好きだからと結婚していたとしても、経済力に憧れを持つ玲実は生活に満足せず、

俺を選んだことを後悔する日が来なかったとは言い切れない。

好きでなくても彼と結婚していればとなり、うまくいかなかったのではないか。

たらればの話ではあるが。


そう考えると結果的には結婚しなくてよかったのかもしれない。

玲実の方はわからないが、俺としては後悔が先に立ってくれた形だ。


「こんな悲惨なことになるなら・・・・最初からあなたと結婚していればよかった」

ぽつりと、そう漏らす。


「今更、勝手なこというなよ」

そうね、と玲実は自嘲気味に笑いうなだれた。


玲実の中で後悔するのは自由ではあるが、結婚を破棄して

俺を捨てる道を選んだのは玲実自身であり良かれと選んだ道が実は間違いでしたと

俺に対して話す資格はないしあまりにも身勝手ではないだろうか。


一方的に被害を被った側としては文句の一つも言ってもいいと思う。

その一方で数年の年月を得てきた中で、玲実に対して俺の中で新たな感情も生まれていた。


この機会を逃せばもうその気持を伝えるチャンスはない気がする。

だから俺は一歩玲実の方に踏み出し口を開いた。


「でも玲実にはずっと言いたかったことがある」

一つ呼吸して間をおいてから俺は告げた。

しっかりと玲実の目を見つめて。






「俺を捨てたこと、もう恨んでないから」






弾かれたように玲実が顔をあげる。

玲実に対する怒りや恨みはもう俺の中には一片も存在しない。

あるのは透き通るような屈託のない温かな感情。




「むしろ感謝してる」

微笑みを玲実に向けた。



「結婚を破棄されたことで、咲と結婚できた。未来にも、子供にも出会えたから」




玲実と結婚していたら巡り会えなかったであろう幸福。





愛する妻がいる、愛する子供がいる。自分の命よりも大切な存在ができた。

俺は世界で一番幸せ者だ。誇張しすぎだと言われるかもしれないが本気でそう思っている。



他にはもう何もいらないくらいにかけがえのないもので満たされている。

その溢れるような想いを玲実に伝えたくて、嘘偽りのない心からの感謝、お礼を告げる。




「ありがとう、玲実」




呆然と固まった表情のまま俺を見つけていたが、みるみる内にその顔が歪んでいく。

目には大粒の涙が浮かび、待つまもなく決壊した。



「ううぅうぅう・・・」

ボロボロと頬を大粒の涙が伝う。








「わあああああああああああああぁあーーーー」






顔を膝に埋めて玲実は怒号のような咆哮をあげて号泣する。

いつの間にか、完全に陽の沈んだ公園内に玲実の泣きじゃくる声だけが響く。



声をかけるでも、慰めるでもなくー




俺はじっとそんな玲実を見守ることしかできなかった。









時は遡る数年前。玲実が片岡との結婚を破棄する前の話。

居酒屋で一人カウンター席で酒を飲む玲実。


夜もふけ時刻は0時をとうに過ぎた閉店間際の時間。

まだ月曜日、平日の夜ということもあってか周囲に客は玲実以外にいなかった。


「そういう流れで・・・同時に二人の人を好きになっちゃたから迷ってるの」

玲実はグラスの中のハイボールを飲み干し、

カウンターの内側に立ち洗い終えたグラスを拭く咲に言った。


「そんな重大な話を私なんかにしていいんですか?」

穏やかな雰囲気を残しつつも咲は少し困惑を漏らす。


玲実はこの店の常連で来店の度に咲とは客と店員として他愛のない雑談をしてきたし、

会社での愚痴話なども聞かされたこともある。


玲実以外にも会社の客はよく来店し、その中に愚痴の対象になっている客もいたけど、

咲は客のプライバシーを守秘する義務があるため、バラすようなことはしなかった。


「こんな話、親友にも会社の同僚にも相談できないもの」

客と店員としてではあるが、咲は口が固くこれまで築いてきた信頼関係がある上、

問題の起きている人物たちと直接の関係を持たない第三者的な立場にある咲は、

玲実にとって相談できるうってつけの適合者であるといえた。


そのような経緯で今回玲実が打ち明けてきた話は

これまでで最も深刻で重い種類のものだった。


玲実がこの店のもう一人の常連である片岡淳と恋人同士であり、

近々結婚することも咲は聞いている。


今日咲は、片岡の他に現在交際している別の資産家の男性がおり、

片岡と結婚すべきか迷っていると玲実から相談を持ちかけられたのだ。


玲実と片岡が一緒に店に来ることも度々あり、

いつもラブラブな様子を見ていたから話を打ち明けられて正直衝撃を受けたのは事実だ。


「傍から見たら酷い女に見えるよね」

どう答えていいか戸惑っていると玲実は続ける。


「でも本気でどちらも好きになったから仕方ないのよ」

苦悶の表情を浮かべる様に、世間的に見て良いか悪いかは置いておくとして

玲実が真剣に悩んでいることだけは伝わってきた。


「もしものはなし、咲ちゃんが私の立場だったらどうする?」

そう問われて咲は考える。


同じくらい好きな男性がいて、それぞれサラリーマンと資産家。

サラリーマンの方との結婚話が進んでいる、そんな状況を想像してみるが・・・。


「考えてみたけど、わからないです。当事者になってないからかもだけど」

正直にそう答える。二人の人を好きになったこともないし婚約した経験もない。

状況を想像することはできても味わう感情まではイメージが困難だった。


「そう、そうよね。簡単に答えが出せるようならこんなに苦しまないものね」

重いため息をつく玲実。しばしの沈黙が流れた後咲は自分なりの考えを話すことにした。



「玲実さんの中で何が大事で、何が取るに足らないことなのか、

一度整理してみたらどうですか?」

咲が自己の棚卸しを提案する。


「生きる上での価値観を見直せってこと?」

「現在の玲実さんだけじゃなくって、幼い頃に持ってた願望とか、

将来こうなっていたいって願望とかも全部外に出して見るんです」


進むべき道を決める時、

過去や未来に目を向けてみることで答えのヒントになることもある。


「その上でどちらの男性と一緒になった方が玲実さんの願望を叶えてくれるのか

結論を出してみてもいいんじゃないかな」


咲の言葉に耳を傾け真剣に咀嚼しているように見えた。


目を閉じると再び沈黙が訪れる。

咲が言ったように自身の価値観の再確認、過去と未来の願望へ想いを馳せているんだろうか。

咲も余計なことは言わずただその様子を見守った。


空になったグラスの中の氷が解けて小さな音を立てる。

数分たった頃にようやく玲実はゆっくりと目を開いた。


「ありがとう、咲ちゃん。私の中で答えが出たわ」

「ホントですか?」


あれほど悩んでいた事にこれほど早く結論が出せるものなのか、と少々疑い聞いてしまったがー。

つい先程までの思い悩んでいた玲実が嘘に思えるほど、

立ち込めていた霧が晴れ渡ったかのような清々しい表情をしていた。


「うん、これは誰にも言わないでね」

と前置きしてから玲実は宣言するようにー。





「淳くんとは結婚しない」





そう言い切った。そこにはもう迷いや躊躇い、苦悩は見られない。

玲実の中で確実に決意がなされたようだ。


片岡と結婚しないということは

資産家の男性を選ぶということ。




「咲ちゃんのアドバイスのおかげで、私が一番幸せになれる道がわかったから」

「そうですか・・・・。選択がどうあれ、私は部外者だし玲実さんの人生だから何もいいません。

玲実さんの決めたこと、尊重します」






※ここから2つのルートに分岐します。





ーーーーー

ルート①

咲の言葉に玲実は満足そうに頷いた。









玲実も店を後にして客が誰もいなくなった店内。

最小限に絞った照明がカウンターの内側に一人立つ咲を照らしている。



「ふふふ・・・」




薄暗い無人の空間で、咲の漏らす笑い声だけが響いた。

その瞳は天井からの照明を受けて怪しい光を放っている。




普段の客に見せる笑顔とは程多い、不敵な笑み。




咲は込み上げてくる笑いを

抑えることができずにいた。






ーーーーー

ルート②


咲の言葉に玲実は満足そうに頷いた。

しかし一転してすぐに表情を曇らせる。


「決断できたのはいいけれど・・淳くんには申し訳ないことになるわね」

二重交際した上、結婚解消することに対する罪悪感からかそう漏らす。


裏切られ深い傷を負うことは確実であろう片岡を心配する玲実に、

咲はここまで黙ったまま秘密にしていたことを打ち明けるべきか悩んだが、

玲実が資産家を選ぶ決断をしたので問題はないと判断し口を開いた。




「玲実さんにこれまで秘密にしてたことがあります」




突然の改まった口調での咲の前置きに、玲実が不思議そうに見つめてきた。

一つ息を吐く。



「私、片岡さんのことが好きです」

「え?」



咲の告白に固まる玲実。思いもよらなかった事実に驚いているようだ。


「咲ちゃんが、淳くんを・・・?」

「お二人が結婚する可能性がなくなったから打ち明けることにしました」



咲は片岡を好きになった経緯を話す。最初は店に通っていた客の一人に過ぎなった。

だが片岡は基本誠実で紳士的にふるまうけど、真面目すぎるということもなく

冗談も言えるユーモアもあって咲は好印象を持った。


そんな片岡と何度も言葉を交わし接している内に素敵な人だな、

と惹かれ始めたのだと明かす。


「そうだったんだ・・全然気づかなかった」

「これでも一応お店の店員ですから。客と店員、公私混同はせず悟られないようには徹底してたので」

玲実が納得するように頷く。


「お二人は付き合ってたし婚約もされてから、私の入り込む余地なんてないなって・・。

この恋は諦めていました。実らない片思いとして一生胸の内に秘めておこうって」


「咲ちゃん・・・」

咲のせつない心情を慮ってか複雑な表情を浮かべている。


「でも玲実さんが片岡さんと結婚しないんですよね?

だったら私、片岡さんにアプローチしようと思います」


諦めていた恋、だが玲実が結婚を解消するのならその必要もなくなる。

だから咲ははっきりとそう宣言した。



「玲実さんは私の恋・・・応援してくれますか?」

静かにそう問いかける。


「うん・・・うん。良いと思う」

玲実は、ゆっくりと何度か頷いてみせた。


「淳くんを裏切る私が言う資格はないけれど・・・

咲ちゃんなら淳くんを安心して任せられるわ」


片岡だけでなく、玲実とも咲はこれまで良好な関係を築いてきた。

だからこそ咲の人間性に太鼓判を押す形で認めてもらえたようだった。


それに片岡の今後も心配していたようだが咲がいるなら、と安堵している。


「片岡さんのハートを射止めることができるかわからないけど、私頑張ってみます」

恋愛する挑戦権は得たけれども、

チャレンジして振り向いてもらえるとは限らない。


報われない結果になるかもしれない。

でも恋を諦めていた可能性ゼロの状態ではなくなったのだ。


試してみるだけの価値はあるのだ。


「だから玲実さんは安心してって言うのもおかしいけど・・・自分の幸せを追ってください」

「わかった、そうする」


咲の言葉に笑顔で頷く玲実。

「淳くんのこと、お願いね」



玲実が右手を差し出してきた。




その手を見つめた後、咲も笑顔で右手を差し出し握りしめた。




互いの利害が一致し、互いの未来に幸あれ、と健闘を祈り合う握手の瞬間だった。


最後までお読みいただきありがとうございました!

評価や感想などいただけると嬉しく幸いですので

どうぞ宜しくお願いたします(^o^)



※最後にこの物語の原案になった脚本を載せておきます。


人 物

 片岡淳24会社員

 秋田玲実23片岡のフィアンセ

 夢野咲22ウェイトレス店員                

 岡本三郎28片岡の会社の先輩

 片岡未来4片岡の娘


 山の上教会、結婚式場

   新郎の片岡淳24と花嫁の秋川玲実23が 

   祭壇の前で向き合っている。 

神父「秋川玲実、妻として愛し敬い慈しむこ 

 とを誓いますか?」 

   玲実は俯き答えず沈黙が続く。

片岡「玲実・・?どうした」

   客席がひそひそとざわつき出す。玲実 

   が弾かれたように顔を上げ、玲実「淳君、ごめん。やっぱりあなたとは結  

 婚できない。さよなら」 

   と言い残すと、ウェディングドレスの 

   裾を翻し出口へ走っていく。片岡は呆

   然と立ち尽くす。異様な雰囲気の教会

   

 中田食品株式会社、玄関前(朝)

   片岡が玄関を抜けてタイムカードを打

   刻する。所属部署前の扉まで来ると中

   から声が聞こえてくる。

後輩A「片岡さん、気の毒だよな。直前に花 

 嫁に逃げられてさ」

後輩B「女は数年前から二股してたって話だ

同僚A「もう片方の男の方に行ったわけね」

   片岡はドアノブを捻り入室する。後輩

   達がきまずそうに挨拶し仕事に戻る。


 虎風荘2階建てアパート1階102号室

   片岡が赤い顔で床に座り酒を煽る。机 

   には酒の空缶が散乱している。

片岡「くそがっ、どいつもこいつも俺を腫れ

 物扱いしやがって!内心では笑ってんだろ

   空き缶を握り潰し壁に投げつける。


 ファミリーレストラン坂の上店内(夜)

   片岡と岡本三郎28がBOX席に座っている。

岡本「結婚式からもう半年か。玲実ちゃん金 

 持ちの御曹司と結婚したんだと」

片岡「先輩は俺にとどめ刺したいんすか」

岡本「あほ、逆だ」

   と岡本が片岡の頭を軽くはたく。

岡本「お前もいつまでも引きずっていじけて 

 ないで新しい出会い探せって言いたいの」

   夢野咲22が皿を運びテーブルに置く。

咲 「お待たせ致しました。いつもありがと 

 うございます」

片岡「夢野さん、こんばんわ」   

岡本「ほら、例えば咲ちゃんどうよ。可愛く 

 て良い子だろ。片岡とお似合いじゃん?」

片岡「冗談でもやめてください先輩、夢野さ 

 んが困るでしょう、ごめんね」

咲 「えっと・・・」

   咲はトレイで紅潮した顔を隠している。岡本「お、おお?これは満更でも・・・」

   ニヤっと岡本が片岡と咲を交互に見る。         

 スーパーマーケット坂の上店、店内(夕) 

   片岡と咲が片岡未来4を連れ買い物し 

   ている。

未来「ママ、プ○キュアのお菓子買って!」

咲 「ダメよ、こないだ買ったばかりでしょ

   涙を浮かべる未来を片岡が撫でる

片岡「いいじゃないか。買ってやろう」

未来「パパ大好き!」

咲「もう!あなた未来には甘々なんだから!   

   咲は頬を膨らませてから笑う。片岡も 

   笑い鮮魚コーナーの方に目をやると、

   足を止める。玲実が買い物している。

   片岡は咲と未来を置き玲実に近づく。 

   玲実は驚いた顔で片岡を見つめる。

片岡「久しぶり。六年ぶりか」玲実「もうそんなになるのね」   

   玲実の髪はボサボサで服もよれ、カゴ 

   には半額シールの品が数品入っている。


 坂の上公園(夜)

   ベンチに玲実が座り前に片岡が立つ。玲実「旦那の会社が倒産してね。今は借金ま 

 みれの生活で火の車よ」 

   玲実が自嘲気味に笑う。玲実「こんなことなら淳君と結婚してればよ

 かったわ」

片岡「勝手なこと言うなよ」玲実「ごめんなさい。逃げた花嫁だものね」

   数秒の沈黙が流れる。玲実「さっきの奥さんと子供さん?」

片岡「ああ、結婚して五年になる」玲実「よかった。信じてもらえないけど淳君 

 の事気にしてたから」

片岡「玲実に逃げられてからの生活は散々 

 だったよ。毎日お前のことが憎くて仕方な 

 かった。どうして俺を捨てたんだって」

   玲実がビクッと肩を震わせる。

片岡「でも今は本当に感謝してる。俺を振っ 

 てくれなかったら咲と結婚してないし、未 

 来とも出会うことができなかったから。」

   悲壮な顔で片岡を見つめる玲実。

片岡「ありがとう。玲実」玲実「うぅうう、うわぁあああああああ」

   玲実は膝の上に顔を伏せて号泣する。

   いつまでもその声が公園に響いている。

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