誰からも愛されない女
短編ですが念の為、連載を選びました。
今の所続きの予定はありません。
妊娠した。
どっちの子か分からない。
二人の男はどう思うのだろう?
二人の男の反応を想像して、可笑しくて仕方なかった。
一年前、父の指示で夫と結婚させられた。
結婚式が初めての顔合わせで、印象は可もなく不可もない。だった。
私を映すその瞳には何の感情も現れていなかった。
夫となる人はリカルド・オルテス。私より十歳も年上だった。
それも再婚で、前の奥様は病気で亡くなっている。
とても愛していた奥様らしく、私が愛されることはないだろうと、父に言われた上での結婚だった。
この時、私はまだ十六歳だった。
結婚に希望を持てず、ウエディングドレスはまるで囚人服のようだと思った。
儀式としての結婚式を私も、私の夫になる男も淡々と終わらせた。
父以外誰も笑顔を浮かべない儀式だった。
初夜は慈しまれること無く、お座なりに終わり、朝を迎えること無くリカルドは去っていった。
心も体も満たされることが無いまま十七歳になり、初恋の人と再会した。
子供の頃の淡い初恋だった。ただ顔を見れるだけで嬉しい。そんな感情だったけど、出会った今はそれだけではすまなかった。
簡単に燃え上がり、そしてすぐに鎮火した。
そこから私が堕落するのは早かった。
目と目が合い、相手に肉欲があれば私は簡単に誘いに乗り、一度限りの安易な恋愛ごっこを楽しんだ。
夫は気づいているのか気づいていないのか知らないけれど、何も言われることも無く、外出を禁止することもなかった。
ただ定期的にやって来て体内にある溜まったものをトイレに吐き出すように私に吐き出し、去っていく。
食事も別々で、昼に顔を合わせることはなかった。
誰とでも寝る女。そんな風に貴族の中で噂になり、私から声を掛けなくても、男の方から声を掛けてくるようになった。
リカルド以外との情事は気持ちがよく、楽しかった。
リカルドは私が潤んでいなくても自分本位に果て、去っていく。
夫とした翌日は虚しくて余計に他の男を求めた。
ある日、一人の男に出会った。会話を楽しんでいると、リカルドの昔の友人だった男だと分かった。
私がリカルドの妻だと分かった上で私に誘いをかけ、私はその誘いに躊躇すること無く乗った。
私と寝ても、リカルドは何も思わないわよ、と話したが、自己満足だから気にするな、と逢瀬を重ねた。
この男は遊び馴れていて、女性を喜ばすことに長けていた。
ただベッドの上で楽しむだけでなく、色々なところに連れて行って私を楽しませた。
リカルドが定期的にやってくる夜以外は、外泊をするようになり、遊び歩いた。
リカルドの昔の友人が私を離さなかったので、ベッドを共にするのはリカルドとその男だけになっていた。
月のものが来なくなった。
二ヶ月、月のものがこなくて、妊娠したことが間違いないと確信した。
リカルドとリカルドの昔の友人のどちらの子か全く分からない。
二人の男がどんな反応をするのかと面白くなった。
リカルドと、リカルドの昔の友人に妊娠したことを伝えた。
二人の反応は正反対で、リカルドは何の感情も窺いしれない声と表情で、そうか、と一言言い、リカルドの昔の友人は、どちらの子か分かるのか?と楽しそうに聞き、分からないわ、と答えると生まれてくるのが楽しみだと私を抱きしめた。
リカルドは妊娠してからも定期的に通ってきて吐き出して去っていく。
お腹の子が、リカルドの子供かどうか分からない、と伝えても、そうか、としか答えなかった。
リカルドの昔の友人は妊娠中も会いたがり、私のお腹を慈しんだ。
本当に会うだけで私に無理はさせなかった。
どんどんお腹が大きくなり出歩く事が辛くなってきた頃、リカルドの昔の友人は家に訪ねて来て、まるでオルテス家の主人の様に口を出し、リカルドがするべき気遣いをしてくれた。
時が経ち、私は双子を産んだ。
全く似たところがない男の子を二人。
一人はリカルドによく似ていて、一人はリカルドの昔の友人に似ていた。
こんな事もあるのかと呆然としていた私に、リカルドの昔の友人は声を上げて喜び、私を褒めた。
リカルドの昔の友人がリカルドを呼び出し、一人は私の子だとリカルドに言った。
リカルドの昔の友人の名はハルテスという名だと、私はこの時初めて知った。
そして、リカルドの昔の友人ではなかったことも知らされた。
ハルテスは楽しそうに、リカルドは嫌そうに話をしていたが、私はどうでも良かった。
ハルテスにどんな企みがあろうと、私には関係ないことだったから。
ハルテスが自分に似た子を連れて帰ると言い出した時、誰も反対しなかった。
勿論私も。
二人の子に初乳を与えて、それ以外は乳母に子育てを頼んだ。
私に育てられたら子供が可哀そうだと思ったから。
私は十八歳になった。
医者から性交の許しが出た夜、リカルドは私の下にやって来た。
溜まっていたのか、私の中で二度果て、去っていった。
ハルテスが翌日やって来て、私を求め、リカルドとのベッドで私は応じた。
それに気を良くしたのか、ハルテスは昔の寝物語を話しだした。
学生の頃、ダリアンという女性がいてハルテスと結婚の約束をしていた。けれどそれは親が望む結婚ではなく、ダリアンは親の選んだリカルドと婚約した。
ハルテスはダリアンの初めてを半ば力ずくで奪い、リカルドと結婚するまでの間ダリアンを愛し続けた。
リカルドと結婚してからはダリアンはハルテスを受け入れることをしなかった。
リカルドと結婚するまでに妊娠させることができていればハルテスと結婚できたかもしれなかった、と今でも後悔しているとハルテスは私に言った。
リカルドとダリアンの間に生まれた子が三人いる。
どの子もリカルドとダリアンのいいところを受け継いだ美しい子だと誰もが言う。
リカルドはその三人の子をとても大事にしていて私には関わらせなかった。
その時に気が付いてしまった。
私は誰からも愛されていないことを。
そう、父からも。
その事を私は知っていた。知っていたけれど、実感はなかった。
けれど我が子を産んで実感してしまった。
私は可笑しくて一人で声を上げて笑った。
ハルテスが来て私を求めても応じなかった。
ハルテスは凄く残念がったが、ベッドを共にすると、虚しさが弥増していく事に気が付いたからだった。
ハルテスとリカルドを前にして、私はあなた達の復讐の道具でも、おもちゃでもないわと伝えた。
リカルドは何度か瞬きをして、ハルテスはそんなつもりはなかったと言って肩を落とした。
リカルドは相変わらず定期的にやってくる。
私の中に排出して、私の横で眠るようになった。
手元に残った我が子を見て、手元にいない我が子を思う。
ハルテスは友人として私の下にやってくる。
手放した我が子を連れて。
リカルドが私の横で眠るようになってから、私は外に男性を求めることはなくなった。
少しずつ互いを尊重するようにもなってきた。
また、妊娠したけれど、今度はリカルドの子だと胸を張って言える。
別の話の感想で女性も誰の子かわからないこともあると考え、この話が出来上がりました。
当初は複数の男性の誰の子か分からない話にしようと思っていたのですが、書き上がるとこんな話になっていました。
おかしい?!と首を傾げてしまいましたwww