1-5 引継ぎとこれからの為に
アイデアは思いつくのに書き方がわからない上に、間が空きすぎて書き方を忘れてしまう私
「さて、以上が引継ぎに最低限必要な知識となります。問題ないでしょうか」
「うん、まぁ……理解は出来た」
いや移動とか含めても1.2時間は経ってないと思うし呑み込める訳はないけど、受け入れるしかない。
「では、コア及びマスター権限を譲渡します。こちらのベッドに横になって下さい」
そう言いながら、ヒルドが席を立つ。
「お尋ねしたいのですが、痛みにはお強い方ですか?」
「え、あ、まぁ大きめの怪我とか経験してるし、一般的な人に比べれば…?」
「では申し訳ないのですが、少しの間耐えて下さい。マオ様の最も魔力が集まりやすい所に痛みが来ます」
そう言って同時に権限譲渡であろうタブをヒルドが操作し終えたと同時に
「ッダイ!!痛い痛イ痛イ痛イ痛イイ゛タ゛イ゛!!!!」
イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛!!!
右目が焼かれているのではないかと思う程、搔きむしって取り出したくなる程の激痛が襲ってきた。血管や魔力管を通して痛みが脳を始めとして全身に回っていく事に加え、異物が入り込んでくる感覚もして気持ち悪い。
体を動かしたくても動かせない、痛みを逃せない。
「『アクアヒール』。すみません、もう少しですから…」
数分が経った頃だろうか。右目周りをヒンヤリとした水に覆われ続け痛みも少しやわらいできた。引継ぎが終わったのか異物感が無くなっていき、痛みが引いた事で脳がスッキリしていく。
ヒルドは安心出来るように治癒系魔法を敢えて口に出してくれてたんだと思う。
感謝の意を伝えようと薄目でヒルドの方を見ると、顔が青白く浅い呼吸をしていた。
「ちょっと大丈夫!?」
急いで体を起こし、膝立ちで魔法をかけてくれていたヒルドを座らせる。
「すみません…。譲渡した事でマスターとして付与されていた耐性等が無くなったのと……魔力量の上限が一気に下がってしまった様でして……お恥ずかしい限りです…」
と言う事は疑似的な魔力切れ。取り敢えず試しも含めて魔力ポーションと食べやすい食料、布と水を生成。
「身体触るよ。鱗とか触れられたく無い所とか有ったら教えてね」
目の前に出てきたモノを栓と封を切り、介抱しながら口にして貰う。
その間に濡らした布で額や首周りの汗を拭きつつ、闇属性の治癒魔法を掛けておく。
「……!!お気遣いありがとう御座います。」
「気にしないで、取り敢えず座ったまま休んでていいから。」
暫く色々見ていて気になった事がまた出来た。
「幾つかの質問なんだだけどさ。
まず自分は逆召喚で此処に来たけど、ダンジョンの生成されている位置は元居た位置からどの位の距離にあるの?」
恐らく、現在位置の名前が情報として載っているものの、余り聞き覚えが無く。
自分が学生で広い範囲での受注、行動が出来なかったのもあるけど、隣国という近さではまず無い。
「そうですね、ダンジョンの魔力と私の魔力の減少具合的に元居た国から北に国が2、3つ間に入るぐらいでしょうか。…やはり、お戻りになられたいですか?」
「いやまぁ置いてきた友人は気になるし、お礼言い損ねたギルドの人とか居るけど、戻った所で色んな意味で元の生活には戻れなさそうだし。ただ、一応ギルドの仕事で殺しとかはした事有るけど、親しい間柄の人の殺しはやったこと無くてさ。来たら躊躇なく殺せるかと言われると…ってなって。」
「そう言う事でしたら、コア生成から移転することも可能ですよ。ダンジョンの大きさや所属滞在している者の数、移動先との距離に比例して消費ポイントが増えるので、移動するのであれば早い方が良いかと。」
ウインドウで移動先を適当に弄りながら確認してみると確かに最低値の数千ポイントを基準としてダンジョンの移動距離が伸びるほど増えていく。ただ、残りポイントが一定値になるとそれ以上は移動できなくなる。恐らく移動できる上限でポイントが無くって召喚も何も出来ない等の詰み防止策だろう。
「結構な距離移動できそうだな…。
ヒルドなら、どういった位置に移動する?個人的に侵入者が少なすぎても困るから聖国近くの近隣国との道から外れた位置辺り有りなのかなって思ったんだけど。」
「そうですね。私であればこの辺りを選びます。」
ウインドウを数秒操作しながら帝国からそこそこ離れた位置を指さす。
「理由を聞いても?」
「幾つかありますが、まず聖国は戦士等の前衛職に就く者は少ないですが聖職者や治癒師等の光や派生の魔法を使える者が多く、異常状態の解除に長けた者が多いです。加えて彼らの得意とする魔法は基本的にアンデット族に致命的なダメージを与える事が多いです。序盤上手くいけばいいですが、失敗した時再起不能に陥る可能性があります。
加えて税も他国と比べて軽く奴隷市なども国内に無い、助け合いの国柄の為、離れた村などにも巡回巡礼する者が居るので、私達にとっての``使えるモノ``が少なく異変に気付かれやすい。
反対に帝国は弱肉強食、強者こそが正義。強者、強者に媚びへつらう腐敗者、逆らわない様にと重税などで厳しい生活を強いられる弱者と分かれており、その関係で多くの奴隷市が点在します。
また、中心部である町は堅牢な作りとはなっていますが、其のシワ寄せとして力のない枯れた村が多く、そう言った所に住む貧困層は利用しやすいのです。
加えて、私が指さした方向は他国が無い土地で戦争等が起こっても巻き込まれる心配がありません。
分かりやすい話、恐怖による支配も懐柔による支配もしやす所がある点と、奴隷市等から素材や人手を確保しやすい国柄でこちら側が良いかと考えました。参考になれば。」
「なるほどねぇ……。なら此処にするか。」
そう言いながら帝国に属する小さな村の近くをマークしておく。
「従属させるおつもりで?」
「んー、まぁ従属か?うん、従属。
何回かこの規模の村に寄った事あるんだけどさー、こう言う所って町に行く余裕すらないのよ。お金が無いから行商人とかの荷台に乗せてもらう事が出来ない、馬が居たとしても農業や日々の暮らしに利用するから使えない。暮らしに関する魔法は使えるけど、戦闘に関する魔法や武器の扱いを知らないから安全に移動が出来ない。そしてそもそも食糧不足が祟って女子供は体力が無い。
だから、何かしらの理由を付け利用する。同情を引き街まで同行させたり、女を宛がって村に留まらせて食料調達や防衛をさせたりする。
逆に両者が得する様な提案をされたら幾ら怪しくても基本受け入れるしかないし、色々付け入る隙が多い。
例えば、行商人や宗教の信者として行けば近くに現れる事が無いガーゴイルの石像を『魔除けの石像』とでも言って安値で渡せば何時でも殺せる状態にできる。
旅人や冒険者と偽って、今寝泊まりしてる所に来て食事をしないかとダンジョンと言う事を伏せて誘えば、質素では無い料理が食べれるかも、運が良ければ付いて行って村を出れるかもと考えて付いてくる。結果侵入でのポイントが稼げる。
両者が得をする提案なら、そうだなぁ。食料や金を対価として渡す代わりにダンジョンに冒険者を案内しろとか、ダンジョンの一区画で行う農業酪農とかをやらせてもいい。
だから村の規模が小さくて、少しの距離で着ける位置の方が望ましい。」
「本当に人間界にいらっしゃいました…?既に何処かしらで支配をされていたり……」
「失礼な!」
バリバリ人間界在住の無害な存在だったわ。
「取り敢えず、そこへ移動するとして。移動分を引いて残ったポイントでどうしようかな。」
「従属の方針でダンジョンと知らせないのでしたら、魔物は少なめで施設等を優先ですかね。」
「となると召喚できるのも、無害、人間と共存している魔物…スライム、下級サキュバス。泥棒とか侵入者に刺さるミミックぐらいか。施設は畑と酪農と自室…は此処で良いか、ヒルドの部「マオ様と一緒で大丈夫ですよ!」ヒルドの「節約の為に一緒で良いですよ!」…。サキュバス達の普通の部屋。召喚部屋も作るか。
あとは、1階層部分の所に偽装用の何もない部屋の低品質…。これ洞窟っぽく見える?」
「ッシャ!あ、はい見えますよ。最低品質にすれば、スペースは狭くなりますがもう少し角とかが綺麗でない窪みになりますよ。」
一緒で良いのか…?とは思いつつも、サポート出来る者が側にいるのは助かるから受け入れる。
1階層の方はアドバイス通りにすると確かに自然的な窪みになった。
なら、あとは道具系統。野菜の種と苗。鍬、鋤、スコップ、バケツ。水はヒルドに暫く頼ろう。
酪農は…今は部屋作成だけでいいか。
自室には、自分用のベッドと日持ちする食料追加。1階層には焚火と薪木を追加しておく。
「大体5000ポイント位消費するけど大丈夫?」
「えぇ、移動で更に消費した後でも、慎ましく生活するのであれば少なくとも50日程は持ちますので。
案内の時には申し上げなかったのですが自然にダンジョンの魔力、ポイントは極わずかですが溜まります。移動先の土地が此処より魔力の溜まりやすい土壌で有れば、土壌にすればプラスマイナスゼロで済むと思いますよ。」
前者は霊脈の事、後者は霊脈の流れを意図的にダンジョンに向けたり、土地に住む精霊種等の加護の事だと思う。属性的に森に住まうモノ達との相性は良いけど、ダンジョンに来た者次第になってしまう気がする。
要はその土地に害をなす者を殺せば敵の敵は味方で感謝され加護をもらえるし、どういう形であれ土地に利益をもたらしている者を殺せば加護はもらえない。
「それは運だし当てにしないでおくよ。あ、この部屋には食料とベッド出すからね。」
「えっ一緒に」
「寝ません。一緒の部屋受け入れたんだから。」
なんで、そこまでして?
用語解説
【魔力管】
体内の魔力が通る血管的なもの。
【水魔法:アクアヒール】
水魔法の治癒魔法。傷口などが有れば水を出して浄化、体内の痛みには水を出さず患部に直接触れる事で症状を和らげる、2種の魔法の総称。
【聖国】
宗教国家。国民の多くが僧侶や神官、シスターなどであり、国柄から治癒魔法、光魔法を扱うものが多い。
ダンジョン【神塔】は神が課したモノであり、多くの者がこれを踏破し神に相見える事を目的する為、対人間の戦争は嫌うが、対魔物は浄化という名目で行っている。
【帝国】
戦争国家であり聖国の様な弱者を救う国は嫌いではあるが、ダンジョン踏破の財や名誉を自国の物としたいので、ダンジョンから旨味が消えない限りは攻め込まない事にしている。
【霊脈】
この世界では、魔力が多く流れている(湧き出ている)土地の事を指す。
流れている土地は土壌に多く魔力を含むため、作物が育ちやすかったり質が良かったり、希少な鉱石が生成されたり精霊などが住み着いたりする。
活火山、森の湖、花畑などが分かりやすい例