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50Gのブロードソード(後編)

「ねぇ、モーイさんだっけ? なんで50Gの剣に100G払うんだい?」


「……? なんででしょうね! 日頃の感謝でしょうか! チップッッッッ!」


 案の定である。


「そいつに聞いても分からんよ。言ったろ、馬鹿だって。本人もわかってないんだ」


「な、なんだそりゃ……ちょっと剣見せてくれ」


 モーイは素直にレックスに剣を渡す。しげしげと眺めるも、レックスにはそれが安物の剣としかわからなかったが……


「……工房エルアンジュによる帝国歴77年作のブロードソード。エルアンジュは老舗の工房だ。それゆえ最低限の質は保障されているものの、いわゆる数打であり、コレクターズアイテムとしても実用品としても、さほど価値はない」


 アリサの解説にレックスは考え込む。もしやアリサはこの剣の価値を誤っているのではないだろうか?


「モーイさんは優れた鑑定眼を持っているんすよね? もしかしてこの剣は50Gを超える価値があるんじゃ……モーイさんはどうも人が良さそうだから、相応の金を出したとか」


「おい、聞き捨てならねぇな。私が鑑定を誤ったと? それはねぇよ。誓って言う。この剣は50Gの価値しかない」


「じゃあ、うーん、この前の俺と一緒? 金貨が呪われていて全て手放したい、だから余分に出した!」


「まぁ財宝は武器防具と並んで呪われやすい代物だが……それなら100Gの剣や品物を買えばいいだろうよ。50Gの剣を選ぶ必要性がない」


「むぅぅぅ……そうだ! こういうのはどうっすか!? さっきの人が好さそうっていう予想からは外れますが、もしや、店の物を盗もうとしているんだ!」


「うん? なんで店の物を盗むのに50G余分に払うんだよ」


「こうやって俺達、考え込んで、話し込んでいるじゃないっすか! この隙を突いて、本人か仲間が高価な代物を盗み出そうとしているのでは? 隙を作り出すために、奇怪な行動をわざととっているんだ!」


「考え込んでいるのはお前一人だけだけどな。ただそれならモーイはすぐに店を離れた方が良いんじゃないか? 今も店内にいるけど」


 話に飽きたらしいモーイは、陳列されているポーションを物色していた。

 見ている棚に置かれている物は安かろう悪かろうを体現する低品質なもので、高価とは一番遠い商品である。


「ああ、うーん……」


「ただまぁ、今までで一番面白い視点ではあったぜ」


「そ、そうっすかね?」


「一番見当違いな答えでもあったけどな」


「ぐ、ぐう……じゃ、じゃあ、なんで結局50Gの剣に100Gを払う必要があるんすか!」


「もう降参か? 答えは簡単だよ。お前が話した中で一番近いのは剣の価値を見誤っている、かな。それの逆だ」


「逆?」


「剣に100Gの価値があるんじゃない。100Gに50Gの価値しかないんだ」


「…………ハァ?」


「つまりだな……」


 アリサはカウンターの上に置いてある秤の上に、モーイが払った10G硬貨と、懐から取り出した自前の10G硬貨を置いた。

 本来釣り合うはずの秤は、片側に傾いている。


「重さが違う……! これ、まさか!」


「そう、偽造金貨だ」


 レックスは後方のモーイへと振り返る。今はアミュレットのコーナーに興味が惹かれているようだった。


「本人は気付いていないな。いや、違うか。正確にはその鑑定眼から今持っている100Gに100Gの価値がない事に気付いている。ただ、それが何故なのか理解できてないんだ」


「う、うむむむむ」


「10G金貨は金とジュラル鉄の合金だ。そしてこれは偽造とはいえ、金が用いられている」


「悪貨ってやつっすか。最も価値の高い金の配合が少なくなっている……」


「ああ、少ないとはいえ金が用いられている以上、ある程度の価値はある。モーイはそれがわかっていたんだ」


「だから50Gに100Gを出した。10枚出さないと剣と価値が釣り合わないから」


「おい、モーイ」


「なんでしょうかぁぁぁぁぁぁ!?」


「金ないって言ってたな。10G金貨は何枚持ってる」


「今持っているので全部です!」


「そんな事、人に教えるもんじゃないよ……」


「どれ、見せてみな」


「はい!」


「そんな物、他人にホイと渡すもんじゃ……ああ、もうどうでもいいや」


 頭を抱えるレックスを横目に、モーイは何を疑うでもなく、素直に財布をアリサに寄越した。


「うわ、ダセェ財布」


「ひどいです店長さん! お母さんが夜なべして作ってくれたのに!」


「う、ああ、そうかそりゃ悪い。返す」


「ありがとうございます!」


「これからダンジョンか?」


「はい! この剣でお母さんの薬代、稼いできますよぉぉぉぉぉぉぉ!」


 モーイは意気揚々と店を出て行った。

 しばらくして、耳鳴りが治まったらしいレックスが心配気にアリサに声をかける。


「大丈夫っすかねぇ……」


「言ったろ。ああ見えて腕は立つ。モンスターにモーイはどうこうできんよ」


「モンスターにはっすか。じゃあ、人間には?」


「……」


「ありゃあ、おバカなだけじゃなく、人も良さそうだ。俺は心配ですよ」


「そうだな。金貨の事も、どっかで騙されたんだろうな。だが所詮他人の人生だ。私にはどうでもできん」


「またまたぁ」


「あん?」


「見てましたよ。財布の中身、多分偽の10G金貨を全部、懐の――本物の10G金貨とすり替えたでしょう?」


「そんな事する義理はねぇよ」


 と言いつつも、少しバツが悪そうにアリサは目を逸らした。見えないようにやったつもりだったが、レックスもそれなり目を持つレベルの冒険者という事か。


「この後は、モーイさんを騙した悪徳贋金作りの組織を潰すため、上へ下への大バトルっすね!」


「そんな事する義理は――っていうかお前、本当にリサイクルショップの店員を何だと思ってるんだ……」


 レックスの、少年の様に輝く瞳に、今度はアリサが頭を抱える番だった。

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