8話「両親とまた会えた」
「あっ……だがとか使って、すみません……つい、交ざってしまい」
「いえいえ」
「そ、それで……本気、ですか……?」
マオンはちらちらこちらを見てくる。
少し期待しているような目つきで。
「本気です」
私ははっきりとそう答えた。
ぺパスに絡まれるというまずい状況から助け出してくれたのはマオンだ、彼と共に生きることになったとしても嫌ではない。
「そ、そうですか!」
「はい」
「え、えと、では、その……」
マオンは少しあわあわしてから。
「ぜ、ぜひ! 妻となってほしいのです!」
そう言ってきた。
言われて思い出す。そうか、まだ候補だったか、と。私はもうここでの暮らしに慣れつつあるのでつい忘れつつあった。
マオンのことは嫌いでない。
でも本当に結婚するとなると不安もある。
「マオン様は私で良いのですか? 私はただの人間です、それに、魔法も使えませんし魔王たる貴方と共に戦うこともできません。それでも良いのでしょうか」
不安ごと伝えると。
「気にしないでください! そういう心配は不要です!」
思った以上の勢いで返された。
「ロレーニアさんが、嫌でないなら……どうか、妻となってください」
「……はい。もちろんです。分かりました」
妻となる、なんて、簡単なことではないし人生を決める重要なこと。さくりと答えて済むようなものではない。けれども彼が相手なら、自然と、共に行けるような気がしてくる。当然現実的な悩みとなる点はあるわけだけれど。しかし、それを乗り越えても彼と生きてゆこうと、そう思う部分もあるのだ。
「ただ、一つ、相談させていただいてもよろしいでしょうか」
「ロレーニアさん?」
「両親のことです」
「両親? 親御さんのことですか?」
きょとんとした顔をするマオン。
「はい。両親はまだあちらの国にいます。私は二人にもここへ来てほしいのです。永遠に離れたまま、というのは、辛く悲しいのです」
ヴァッファリーナは両手を腹の前で重ねて真っ直ぐに立ったままじっとしている。
「マオン様、どうか、両親をここへ招いてはくださいませんか?」
そう頼んでみると。
「そうですね。一人きりは辛いですよね。分かりました、では、ロレーニアさんのご両親を探しここへ連れてくるようにします」
「ありがとうございます……!」
話はまとまった。
これが上手くいけば、きっと、両親にまた会えるだろう。
その後、マオンは、話の通り私の両親に連絡を取ろうとしてくれたようだ。で、しばらくして、無事連絡が取れたようで。あちらの国はかなり酷い状態になっているようだが、幸い私の親は生き延びていたようだった。で、やがて、両親がここへ送られてくる予定の日が来る。
「ローレニア! 生きていたのか!」
「ローレニア! 無事だったのね!」
父と母は私を見るや否や駆け寄ってきた。
そして私の身を抱き締める。
無理もないか……私は急に魔王のところへ送られたから、親なら心配もするものだろう。
「魔王に酷いことされていないか!?」
父は私の顔を両手の手のひらで包むようにして触ってくる。
「大丈夫、むしろ彼はとても優しいの、素敵な人よ」
魔王、と聞けば、恐ろしいと思う者も少なくはないだろう。いかにも禍々しそうな呼び名だから無理もない。けれども事実は異なっていて。魔王は魔王でも、彼は禍々しくはないし酷くはないのだ。私から見れば、むしろ、人間の方が黒くて恐ろしい。
「洗脳されているわけではないだろうな!?」
「心配症ね、お父様」