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2話「私はどこへ行くのか」

 馬車に乗り込むと、向かいには姿見が貼り付けられていたので自分の姿が見えた。


 銀の長い髪に青みを帯びたグレーの瞳、そして、紺のドレスをまとっている……そんな女性が目に入る。


 確かに私だ。

 これまでにずっと見てきた私の姿そのもの。


 不思議なもので、今、私が私でなくなったような感覚に見舞われている。なぜだろうか、分からないけれど。想定外の出来事に巻き込まれてしまっているからだろうか。いや、理由は考えてみても思いつかない。が、私が私でなくなったような感覚があるがゆえに、鏡に映るこれまでと同じ姿を目にすると少しだけ落ち着けるような気がする。


 それから、長い時間、私は揺られ続けた。


 ここには私一人しかいない。家族も、友人も、国に置いてきた形だ。だから私は一人。味方と思える者はどこにもおらず。そのため、誰かと共にあって安心する、というようなことは不可能だ。


 窓を割って脱走する?


 一度はそれも考えたが、普通の女でしかない私には無理そうなのでやめた。


 ぺパスとネネは今頃仲良く楽しく暮らしているのだろう……そう思うともやもやしたが、瞼を閉じて振り払う。


 考えるのはやめよう。

 己にそう言い聞かせた。




 長い時間が経ち、やがて、馬車の扉が開いた。

 扉を丁寧に開けてくれたのはあのうさぎを想わせるような者だ。


「どうぞ」

「……ありがとうございます」


 辺りを見回してみたが、人が暮らす地域と特に大きな違いはなかった。空の色、気温、湿度など、生まれ育ったあの国に似ている。


 目の前には大きな城のような建物があるが、もしかして、魔王の城だろうか?


 とはいえ、見た感じ、魔王と呼ばれるような者がいそうな禍々しさなんてものは特には感じられない。


 人間が建てたありふれた城のような感じがするのだが、どうなのだろう?


「ではこちらへどうぞ」

「はい」


 うさぎを想わせる容姿の者に案内され、城のような建物の内部へと進んでゆく。




 やはりそこは魔王の城だった。魔王の姿はまだ見ていない。が、そう説明を受けたので、そうなのだろう。この状況で敢えて嘘の説明をすることはないと思われるので、多分ではあるけれど、説明内容に関しては信じて良さそうだ。

 怪しい持ち物がないかを確認された後、私は、牛柄のメイド服を着用した侍女によって魔王のもとへと導かれることとなる。


「失礼いたします」


 人の背の二倍はありそうな高さの大きな扉をノックする侍女。


「先日の件、ローレニア様をお連れしました」


 侍女が述べると、扉が勝手に開く。

 思わず「扉が勝手に……!?」とこぼしてしまい、侍女にふふと軽く笑われてしまった。


「こちらへ。ついてお入りください」

「は、はい」


 牛柄のメイド服の侍女について室内へと足を進める。

 するとそこには長髪の男が佇んでいた。

 いかにも豪華そうな椅子に腰を下ろす黒い長髪の男、彼は冷ややかな目つきのままこちらをじっと見つめている。


 き、気まずい……。

 何を話せば良いものか……。


「ヴッファリーナ、そちらの女性がローレニアか?」


 やがて、男は口を開いた。


「はい」


 ヴッファリーナと呼ばれたのは私をここまで案内した侍女である。


「そうか」


 短く言って、男は立ち上がる。


 彼は思いの外軽い足取りですたすたとこちらへ迫ってきた。身長は私より遥かに高いので自然と圧倒されてしまう。が、心でだけは負けてはならないと思い、彼の顔へ視線を向けてやった。


 彼はこちらをじっと見つめている。


 悪意は特には感じないが……ここまで長く見つめられるというのは一体何なのだろう?

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