魔人ベルゼブブ再び
ケンタウロスの街を出て二時間、人間界での行動に比べて二倍は疲労が溜まった。特にアマリアさんとユリナさんの息が上がってきている。
「少し休んでいこう」
「大丈夫よ、急ぎましょう」
ユリナさんを励ましながら後方を歩くアマリアさんが、気丈に振舞っている。
「主よ、お二人は僕の背中に乗せて行きましょうか?」
「アマリアにユリナ、サスケに乗って下さい。体力を温存しておかないと、いつ襲われるか分かりませんから」
足手纏いになりたくないと意地を張っていた二人も、流石に音を上げ始めていた。
「どうしてこんなに体が重いのかしら?」
勇者の鎧を身に着けているカズラさんも呼吸を荒くしている。
「大気中の魔力が濃くなっているのです」
「何故?」
マンデルさんの言葉に首を傾げた。
「霊峰魔津岳は魔族界の中心で、魔力を放出し続けているのです。さらに近づけば人間では耐えられなくなるかもしれません」
「ディフラント神様に頂いた装備を着けていてもダメなのか」
「ジュンイチ様は平気なのですか?」
「大丈夫だね」
濃厚な魔力の中で平然としているので、マンデルさんに不思議がられた。
「ご主人様」
「どうした、エイアイ?」
「勇者様がこの様な状態で、どう戦うつもりですか?」
「ハーモニカも力を発揮しそうにないし、ガイア達に頼るしかないだろうな」
「今の三兄弟では魔人ベルゼブブには勝てないと、ディフラント神様が仰っていましたよね」
「そうだな」
エイアイの言葉に考え込んでしまった。
「もうひとつ気掛かりな事があります」
「何だ」
「魔石融合装置が魔族界の魔力を吸収し続けて、暴走しないかと言う事です」
「北の大地の惨劇がここでも起きると言うのか?」
「可能性はあります。その時、ご主人様の体がどうなるか分かりません」
「そうか、ありがとう」
エイアイは淡々と話しているが、僕を心配していてくれるようだ。普段は質問をしなければ話しかけてこないのだから、かなり危険な状況なのだろう。
岩に腰を下ろして頭を抱えた。
体内にある魔石融合装置だが、自分ではどうする事も出来ない存在だし、その全貌は全く分かっていなかった。
「どうしたの?」
仲間三人が心配そうに集まってきた。
「北の大地の気候変動が、魔力の暴走が原因だったのは知っているよね。セキハラ草原での戦争で使われた魔力を吸収したのが魔石融合装置だったのだが、今はその装置が僕の体内にあるんだ」
「どう言う事?」
「北の大地の地中に埋まっていた魔石融合装置を停止させようと触れた時、装置が体の中に入ってしまったんだ」
気候変動が収まった時の事を三人に話した。
「それでリーダーから膨大な魔力が感じられるようになったのね」
ユリナさんが納得したように頷いている。
「それが何か問題なの?」
「エイアイが言うには、大量の魔力を吸収すると魔石融合装置が再び暴走する可能性があるらしいんだ」
「ちょっと待ってよ。そうなったら貴方はどうなるの?」
アマリアさんが慌てている。
「それに、暴走した装置を誰が止めるのよ」
ユリナさんも真っ蒼になっている。
「良く分からいけど、リーダーがいなくなったら魔人を倒せなくなるわ」
カズラさんは勇者らしい発言だが、僕を心配していてくれるようだ。
「まだ暴走すると決まった訳じゃないから」
三人の取り乱しように僕の方が慌てた。
「一度人間界に戻ってディフラント神様と相談をしましょう」
アマリアさんが皆を纏めるように声を張った。
「ご主人様、その時間はありません」
水色のロングコートのような服を着こなしているポセイドンが指差す方角から、以前見た疑似魔族が飛来してきていた。
翼のある黒い塊が、真っ直ぐ向かってきている。
「ガイア、フェニック、ポセイドン、頼んだぞ」
「お任せを!」
ドラゴンの姿になった三兄弟が、黒い塊に向かって飛びたった。
三対一の空中戦は直ぐに決着がつくかと思ったが、黒い塊の動きが速く三兄弟の決定的な攻めが決まらないまま時間が過ぎて、黒い塊が大きくなっていっている。
「リーダー、このままでは大変なことになるわ」
「分かっている」
アマリアさんに急かされるが、魔族界で僕の魔力を放出して効果があるのか迷った。
「やってみるしかないと思うわよ」
ユリナさんが声を掛けてくれる。
「そうだな」
『主は僕が守りますよ』
フェンリルの姿になったサスケが遠吠えを上げた。
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人間界と魔族界に平和の橋が架かる事を願いながら[明日に架ける橋]を吹き始めた。
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いつもなら体が熱くなってきて体内を魔力が駆け巡るのを感じるのだが、今回は一曲吹き終えても変化が現れなかった。
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選曲を間違っているのか、魔族界ではハーモニカの効力がないのか、色々な事が頭に浮かぶが考えを纏める思考は働かず、再度[明日に架ける橋]を吹き始めた。
♪~~~♪~~~♪‼。
「やはりやってきたか、勇者カズラ。魔族界では聖なる力も半減するぞ」
背中に翼の生えた黒いスーツ姿の男が現れた。
「あんたが魔人ベルゼブブね。たとえ力が半減しても私には力強い仲間がいるわ」
カズラさんが聖剣エクスカリバーを抜くと、光の刃が鋭い輝きを放っていた。
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「ドラゴン以外にも魔獣のフェンリルを連れているとは流石は勇者だな。だがここは魔力の世界、魔人である私の世界なのだよ」
声を出して笑う魔人ベルゼブブは、掌の上にバレーボールほどの火の玉を浮かべた。
「フレイムボム!」
魔法が専門のユリナさんが、その大きさに声を震わせた。
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「フレイムボム? チィ、チィ、チィ」
苦笑いを浮かべる魔人ベルゼブブが、人差し指を顔の前で振った。
♪~~~♪~~~♪‼。
魔人ベルゼブブは僕が吹いているハーモニカは、まったく気にしていないようだ。
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「一撃で終わらせるのは忍びないが、勇者に敬意を込めて大地をも焼き尽くすフレイムエクスプロージョンをお贈りするよ」
赤色だったバレーボールほどの火の玉が青白くなっている。
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僕にはフレイムエクスプロージョンの威力が分からず、ハーモニカを吹き続けるしかなかった。
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浮遊した魔人ベルゼブブの手から離れた青白い火の玉が、膨らみながらゆっくりと向かってくる。




