ミノタウロスとケンタウロス
今はケンタウロスの物となっているミノタウロス城は小ぢんまりとしていたが、謁見の間があり玉座にオグリスが座っていた。
「久し振りだな、マンデル。ウオッカから話しを聞いた時は驚いたよ」
「私も君がそこに座っているのを見て驚いているよ」
「お前が人間を連れて戻ってきたところを見ると、魔人メフィスト様が仰っていた事は事実だったんだな」
オグリスが合図をすると、槍を持った兵士が僕達を取り囲んできた。
「初めから話しを聞く気はなかったのね」
アマリアさんがオグリスを睨んだが、謁見の間に入る前に武器は全て取り上げられているので逆らう事は出来なかった。
「魔人メフィストに何を吹き込まれたか知らないが、私の話を聞いてくれないか」
「父親を殺して、魔族界に危険を及ぼす人間を連れてくる奴の言う事など聞ける訳がなかろう」
「待ってくれ。私は魔人メフィストに父を殺され洗脳されていたが、魔人メフィストが滅びた今は正常に戻っている。だから話しを聞いてくれないか」
土下座状態のマンデルさんは、床に額を付けている。
「魔人メフィスト様が滅びる筈がないだろ。全員を地下牢に入れておけ!」
オグリスが兵士に指示を出している。
「主、倒しますか?」
十体以上の槍を構えた兵に囲まれているのに、ガイア達は平然としている。
「ここでゆっくりはしていられない、殺さないように倒してくれ」
「分かりました」
ガイアが僕の前に歩み出た。
「歯向かえばこの場で処刑だ。全員を取り押さえろ!」
玉座から立ち上がったオグリスが叫んだ。
「死にたくなかったら、大人しく主の話しを聞け!」
ガイアが右足を踏み鳴らすと、城全体が激しく揺れた。
身構えていた【名もなきジョブ】のメンバーは辛うじて耐えたが、不意を衝かれた兵士は倒れてオグリスも玉座に腰を落としている。
建物が崩壊しそうな揺れに、方々から家具が倒れる音が響いている。
「何をしている、全員殺せ!」
膝を衝いている兵士に、オグリスの命令に従える者は誰もいなかった。
「もう一度揺らしたら、城が潰れますよ。それでも話しを聞いて貰えませんか?」
顔を歪めているオグリスと睨み合った。
マンデルさんのように改造魔石を埋め込まれはいないようだが、ケンタウロスの王であるオグリスの目力は半端ではなく、全身の毛穴から汗が噴き出した。
「分かった、聞こう」
「兵士を下がらせて貰えますか?」
「全員武器を収めて、部屋の隅に下がっていろ」
渋顔のオグリスが右手を上げて追い払う仕草をした。
「マンデルさん、後は頼めますか?」
「分かりました」
マンデルさんは魔人メフィストに操られていた事、魔人メフィストが死んで疑似魔族と魔人ベルゼブブが現れた事をオグリスに話した。
「魔人メフィスト様に、お前が錯乱して魔族界を滅ぼそうとしているから、ミノタウロスの国を制圧しろと言われたんだ。あれは嘘だったのか?」
「魔人メフィストは、魔族界も人間界も支配しようとしていたんだ」
「絶対者だった魔人メフィスト様、嫌、魔人メフィストを倒したのは誰なんだ?」
「人間の勇者カズラ様だ」
「勇者?」
「そうだ。そこにおられる純白鎧の騎士が、勇者カズラ様だ」
「カズラです、よろしく」
突然名前が出たカズラさんは、照れ臭そうに頭を下げた。
「すると他の人間は、勇者の配下と言う事か?」
「それは」
「そうなのです。【名もなきジョブ】は勇者様のお供させて頂いているのです」
マンデルさんが視線を向けてきたので、慌てて出まかせを言った。
「リーダー、魔族界に来てまでそんな事を言っているんですか、いい加減に自分の立場を自覚したどうですか!」
三人の女性に睨まれて震え上がった。オグリスと視線を合わせた以上に危機感が感じられる。
「何だ、内輪揉めか?」
「何でもありません。ところで魔人ベルゼブブを探しているのですが、最近魔族界で変わった事は起きていませんか?」
リーダーとしての自覚はないが、諦めてオグリスに話し掛けた。
「そうだな、霊峰・魔津岳で新しい魔人が誕生すると言う噂が流れていたな」
静かに話すオグリスからは敵対心が消えていた。
「霊峰魔津岳か、調べて見るか」
仲間と友達を見渡すと、全員が小さく頷いた。
「ところでマンデル。妹のエンデルには悪い事をした。魔人メフィストに騙されていたとは言え、殺害しようとしたんだ。今どうしているか知らないか?」
オグリスが申し訳なさそうに詫びを入れている。
「人間界で元気に暮らしているよ。ここにいた時より幸せかもしれないなぁ」
「そうか、それは良かった。俺が謝っていたと伝えてくれないか。それと、この玉座はお前に返すよ」
オグリスが立ち上がると深々と頭を下げた。
「いや、俺は魔族界に戻ってくる気はないんだ。魔人ベルゼブブを倒したら、妹と人間界で暮らそうと思っているんだ」
「そうか、だが本気で魔力が充満している魔族界で、魔人を倒せると思っているのか?」
「ここにいる人間達は、やってくれると信じているよ」
「そうか、死ぬなよ」
幼馴染の二人は握手をして、昔を思い出しているようだ。
「あまり時間がない。霊峰魔津岳に行こう」
「場所は分かりますか?」
オグリスが僕に歩み寄ってきた。
「私が知っているから大丈夫だ」
マンデルさんが問題を払拭してくれた。
「そうだったな。貴方のお名前を聞いていませんでしたね」
オグリスが手を差し出してきた。
「【名もなきジョブ】のリーダーのジュンイチです」
「ジュンイチさん、友と魔族界を頼みます」
ディフラントに来て、ケンタウロスと握手をするとは思っていなかった。
この後何が起きるか分からないが、日本に帰るまでにはのんびり田舎暮らしが出来るようになりたいと切実に思った。




