疑似魔族現れる
北の大地に戻って数日たったある日、クラリスさんがアルカインさんの手紙を持ってやってきた。
アルカインさんがシシナダのダンジョンに近づいたことのある人間の追跡調査をしていたのだが、その中に最近の記憶をなくしているカーリンと言う魔法使いがいたので、疑似魔族ではないか調べて欲しいと言う内容だった。
「お久し振りです、カーリンさん」
バーニドアに向かった僕達は、冒険者ギルドで宮廷軍の監視対象となっているカーリンさんに会った。
「貴方方は確か【名もなきジョブ】の皆さん、お久し振りです」
「他のメンバー方々は?」
「私の記憶が飛んでしまっていて、何処ではぐれたか思い出せないので、ここで探しているのです」
カーリンさんはユリナさんの探りに普通に答えていて、疑似魔族と決めつける証拠は何もなかった。
彼女は祖国が北の大地だと言っていた【熱血の刃】のメンバーに間違いなかった。
「死線を切り抜けた者の同士、一緒に探して上げましょうか?」
「お父様に何か言われましたか?」
カーリンさんは、ユリナさんがアルカインさんの娘だと言うことは知っていた。どうやら最近の記憶だけがなくなっているようだ。
「そうなのです。父から貴方達の事を聞いて心配になって来てみたのです」
「ありがとうございます。訳が分からないのですが、実は軍に監視されているようで困っているので、助けて貰えると嬉しいです」
カーリンさんは本当に困っているようで、後方に控えている僕達にも頭を下げている。
「貴方達の最後の仕事は何だったのですか?」
「思い出せないんだけど、ここで聞いて回ったら辺境の地にある洞窟の探検に行ったらしいのです」
「そこではぐれたのですか?」
「分からないわ」
「一緒にその洞窟に行ってみましょう」
その洞窟がシシナダのダンジョンと呼ばれるようになったことも、魔人メフィストの研究施設だったこともカーリンさんは知らないようだ。
「どうしてそこまで?」
「北の大地の復興に力を入れているリーダーが、貴方方の事をとっても心配しているからです」
ユリナさんが僕に視線を向けて、何かを促している。
「そうなんです。僕も一緒に仕事をした冒険者の事は、心配していまして」
コミュニケーション力のない僕は片言になっている。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
こうしてカーリンさんに同行して、シシナダのダンジョンに向かう事になった。
カーリンさんに僕達が接触した事で、アルカインさんの命を受けた監視役の兵士は姿を消した。
馬車での移動中、色々と話をしたが特に怪しいところもなく、女性陣同士仲良くしていた。
「この近くなんですが、何か思い出せませんか?」
「何も思い出せません」
カーリンさんは悲しそうに首を振った。
「この森を抜けると、巨大化した生物が現れた洞窟があります」
「巨大化ですか。そう言えば皆さんと一緒に巨大ムカデと戦ったような……」
カーリンさんが記憶を取り戻そうと頭を振っている。
森を抜けると広場はすっかり片付けられていて、ガイアと【氷結の薔薇】のメンバーが訓練をしていた。
「ここは!」
目を見開いたカーリンさんが膝を崩して震えている。
「ここで何があったのですか?」
「あそこから巨大な蛇が出てきて……」
門扉を指さすカーリンさんが、真っ蒼になってガタガタと震えている。
「ジュンイチさん、今日は何用ですか?」
【氷結の薔薇】のメンバーが駆け寄ってきた。
「ギャー!」
奇声を上げたカーリンさんが、【氷結の薔薇】のメンバーに向けてアイスランスを飛ばした。
「何を!」
流石は最強の冒険者、難なく攻撃を躱している。
「来るな、化け物! 来るな、来るな!」
カーリンさんが狂ったように、無詠唱でアイスランスを飛ばしている。
「皆、避難しろ! ガイア、皆を守れ!」
「止めなさい!」
アマリアさんがカーリンさんを羽交い締めにしたので、アイスランスの雨は止んだ。
「邪魔をしないで、仲間が大蛇に食われてしまうわ」
身体能力に自信のあるアマリアさんを投げ飛ばしたカーリンさんは、門扉に向かって走り出している。
「ガイア、彼女を止めろ!」
「主よ、何が起きているのですか?」
「分からないが、カーリンさんは錯乱状態だ」
突然の出来事で僕の対処が遅れた。
ガイアの制止を振り切って、広場の中央まで走ったカーリンさんが上空を見上げた。
「デズモンド、ガマリエル、ロッテ!」
両手を突き上げたカーリンさんが仲間の名前を叫ぶと、黒い渦が下りてきて彼女を呑み込んでいった。
「カーリンさん! 戻ってきて!」
アマリアさん達が叫んでいるが、声は届いていないようだ。
黒い渦の中から出てきたのは、人間でも魔族でもない化け物だった。
黒い塊となった元カーリンさんの体から無数の触手が伸び、それぞれが攻撃態勢に入っている。
「何なのよ!」
アマリアさんが襲ってきた触手を斬り落とした。
クラリスさんとオルタナさんも剣を振っているが、斬り落とした触手は蛇のように動き人間に襲い掛かっている。
「炎よ、目の前の敵を焼き尽くせ。フレームストーム!」
ユリナさんのステッキから炎が噴き出して化け物に直撃したが、動きを止められないでいた。
「ダメだ、森まで逃げろ!」
【氷結の薔薇】が退却を始めた。燃え盛る炎の中から伸びた触手が、鞭のようにしなりながら攻撃をしてきたのだ。
逃げ遅れたカトレアさんが打ちのめされそうになった時、ガイアの大盾がそれを救った。
「ありがとう」
「気にするな」
ガイアは【氷結の薔薇】のメンバーの退避を確認すると、僕の下にやってきた。
「奴は魔力を吸収して大きくなっているようだ」
フレッド君が言う通り炎が消えると、黒い塊は倍の大きさになり蠢く触手も太くなっている。
「あれが、魔人ベルゼブブが作り出した疑似魔族のようです」
「エイアイ、奴の弱点は?」
「僕も見るのが初めてなので分かりません」
「リーダー、何とかしなさいよ」
僕の護衛に回ったアマリアさんが、無茶振りをしてくる。
「何とかと言われても。ガイア、何とかならないか?」
「今の我ら三兄弟が集まっても、勝てないかも知れません」
表情を変えないガイアが首を横に振っている。
勇者の装備になったカズラさんが、向かってくる触手を切り落としては止めを刺しているが、黒い塊からは触手が無限に生えてきて時間稼ぎにしかなっていない。
「魔人より厄介な相手じゃないか」
なす術がなくディフラント神様に救いを求めようとした時、
「ご主人様、ひとつだけ倒す方法があります」
「何だ?」
「ご主人様の魔力を奴に送って、体内の魔石を容量オーバーにして破壊するのです」
「無茶を言うな。失敗したら手の付けられたい化け物になってしまうぞ」
エイアイの提案には無理があり過ぎてとても採用出来るものではなかった。
「今でも手が付けられないのですから、やってみたどうですか?」
ジュリアナさんが小さな声で呟くと、皆が僕を見て頷いている。




