勇者の鎧の秘密
今日はクラリスさんからの定期連絡を受けて、【名もなきジョブ】の会議を開いていた。
「他に意見はある」
議長はいつものようにアマリアさんに任せてある。
「リーダー、呪縛の人形も完成している事だし、そろそろ僕達も動いたほうがいいんじゃないかな」
フレッド君は、凶暴化してきている魔物の事を気にかけているようだ。
アルカインさんの手紙には、近くシシナダのダンジョンを調査するので協力して欲しいと書かれていた。
「そうですよ。それに、フェニックさん、ポセイドンさん、ガイアさんの角も取り返して上げないとダメでしょ」
【名もなきジョブ】の行動はジュリアナさんの呟きで決まってしまうのだ。
「リーダー、どうするの?」
仲間や友達に危害があれば戦うと言う、僕の考えを理解してくれているアマリアさんが決断を迫ってきた。
「勇者様と相談して決めるよ」
友達たちのためと大儀を言われると、いつまでも先延ばしに出来ない問題だった。
「カズラさん、魔人メフィストが居ると思われるダンジョンを調べたいのですが、力を貸して貰えますか?」
アマリアさんは、部屋の隅で会議を聞いていた勇者様一行に声をかけた。
「私達のほうこそ力添えをお願いします」
三人が立ち上がってアマリアさんに頭を下げている。
「決まりね。明日から準備にかかりましょう」
アマリアさんが会議を纏めてしまった。
細かいことを相談してからと考えていた僕の思いは、完全に無視されている。
シシナダのダンジョンを警備している宮廷軍と足並みを揃えるために、アマリアさんとユリナさんには魔方陣を使ってフレッツ王国に先発してもらった。
今回はツバキだけしか残しておけないので、セキハラ草原の警備をディフェンス村の村民に、農地の世話をトライの村とチャレンジの村の村民に頼んで回った。
「私も連れて行って貰えませんか? 兄が魔人メフィストに攫われているのです」
と、エンデルさんが言ってきたので驚いた。
「以前、魔人メフィストと出会った時、傍にいたミノタウロスが君の兄さんだと言うのか?」
「可能性はあります」
「だとしたら、僕達は君の兄さんを殺さなければならないかも知れないんだ、ついてこない方が良いと思うよ」
「兄が人間に迷惑を掛けているなら、それも仕方がないと思います。ただもう一度会えるものなら、会いたいのです」
エンデルさんが真剣な顔になっているので、無碍には断わり切れなかった。
皆を馬車に乗せると、シシナダのダンジョンの近くまでフェニックに運ばせた。
「勇者様。それにジュンイチ君、よく来てくれた。娘から連絡は受けているよ」
ダンジョンの近くの広場には宮廷軍の駐屯所が出来ていて、アルカインさんが指揮を取っておられた。
「そうですか。作戦は勇者様と打ち合わせして貰えますか」
今度こそ出番がないことを祈りながら、前線から身を引いた。
「ジュンイチ殿、ご苦労様です」
【氷結の薔薇】の全員が頭を下げてきたので慌てた。最強の冒険者と絡んでいるだけで、周囲の視線を集めてしまっているのだ。
「止めて下さいよ」
「あの方が勇者様ですか。勇者様はポセイドンさんより強いのですか?」
いまだにポセイドンを人間だと思っているオルタナさんが、熱い視線を向けている。
「どうだろう? どうなんだ、ポセイドン」
「私の特訓に耐えられようになりましたので、それなりには強くなったと思いますよ」
「特訓ですか! わ、私にも特訓して頂けませんか!」
オルタナさんが凄い勢いでポセイドンに迫っている。
「ご主人様」
困った表情のポセイドンが救いを求めてきた。
「僕を呼ぶなよ」
二枚目に縋るように呼ばれると、周りが勘違いするだろ。
「やはりお二人は、そう言う関係だったのですね?」
クラリスさんがニヤニヤと笑みを浮かべている。
「何ですか? 僕達は主従関係にはありますが、変な関係はありませんからね」
「主従関係ですか? お友達ではなかったのですか?」
「いや、それは……。時間がある時に北の大地に来て下さい、特訓でも何でもさせますから」
慌てて口を押えたが遅かった。また自分が口を滑らせてしまった事を悔いながら、【氷結の薔薇】の全員を北の大地に受け入れることを約束した。
「よろしくお願いします」
オルタナさんが嬉しそうに頭を下げているので、それ以上なにも言えなかった。
カズラさんとアルカインさんの話し合いが纏まったようで、宮廷の魔術師達が動き始めた。
アルカインさんが杖を門番のゴーレムに向けて翳すと、集団攻撃魔法の詠唱が唱えられた。
「我らが集いし力よ、我らの敵を倒し、我らに勝利を。フレームブレス!」
アルカインさんの杖から轟音と共に炎が噴き出し、ゴーレムに襲い掛かると真っ赤になって熔解しだした。
ただ前回と違うのは、勇者の鎧を纏ったカズラさんが炎の中に飛び込んで行ったことだ。
熔け出したゴーレムの胸には、核と思われる魔石の存在が確認できた。
武器の金棒を失ったゴーレムはカズラさんに殴り掛かるが、動きが緩慢になっていてパンチはかすりもしなかった。
「あれだけの戦いをされているのに、ポセイドンさんには歯が立たないのですか?」
僕達の傍にいるオルタナさんが、カズラさんの動きを注目している。
「そんな事はありませんでした。僕は良い勝負をしていたと思いますよ」
ただし人間の姿のポセイドンとですがね。最後は胸の内で呟いた。
「スキル、斬撃剣!」
光を纏った聖剣エクスカリバーを構えたカズラさんは、全体重を乗せるようにして前方に刃を突き出した。
キリモミする光の刃は半分熔解したゴーレムの胸から魔石を弾き出した。
地響きを立てて倒れた二体のゴーレムは、フレームブレスの炎が収まっても再生する事はなかった。
「流石、勇者様!」
大歓声が湧き上がった。
フレームブレスの中で戦った所為なのか、派手だった勇者の鎧の赤い色がくすんでいる。
「ご主人様、少し不味いですよ」
「どうしたんだ?」
無表情になっているエイアイが話しかけてきた。
「勇者の火属性の魔力がかなり消耗しています」
「どう言う事なんだ?」
「あの鎧はドラゴン三兄弟の鱗を使って神様が作られた物で、赤はフェニックの力を宿している証なのですが、魔力の消耗が激しくて色が悪くなっているのです」
「今は火属性の攻撃に対して、無敵ではなくなっているのか?」
「そうです。それに三色が揃って初めて無敵の鎧なので一色でも欠けると、かなり危険な状況になります」
「カズラさんは知っているのかな?」
「分かりません」
「そらそうだよな」
また厄介な事になってきたので、頭が痛くなってきた。




