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アマリアさんに怒られる


 バッハの回廊でのワインドウルフの調査報告をしてから、アルカインさんに懇願されて定期連絡を取ることになり、その連絡係りにクラリスさんが自ら名乗り出た。


 流石に最強の冒険者のリーダーに雑用をしてもらうのは気が引けたが、【氷結の薔薇】全員に頭を下げられて断われなかった。


 セキハラ草原にある魔方陣を使って貰えるように、クラリスさんを北の大地に連れてくるのが大変だった。


 何事にも動じない剣士だろうと思っていたが、ドラゴンの姿になったフェニックを見て腰を抜かしてしまうし、フェニックの背中の上ではガタガタと震えているので、クラリスさんの名誉のために目を瞑っていることにした。


 そのクラリスさんが定期連絡の予定日より早く姿をみせたのは、勇者様一行がセキハラ草原で修行を始めて十日目のことだった。


「ジュンイチ殿、すぐに来てください」

 畑仕事をしている僕を見つけたクラリスさんが、駆け寄ってきた。


「何があったのですか?」

 予定日以外にクラリスさんが現れた時点で諦めていたので、静かに聞いてみた。


「フレッツ王国で唯一、地底湖のあるアキヨシのダンジョンから魔物が溢れ出して人間を襲っているのです」


「そうですか」


「そうですかって。宮廷軍と冒険者が戦っているのですが、強い魔物ばかりなのです。助けに来て頂けませんか?」

 僕が落ち着いているので、民を守ることを誇りに思っているクラリスさんが怖い顔で睨んできた。


「行きますが、その前に勇者様一行をご紹介しましょう」


「勇者様がこられておられるのですか?」

 クラリスさんの顔が一瞬で明るくなった。


「皆、集まってくれ!」

 激しい訓練で荒れた草原に行くと、カズラさんとツハリーさんが扱かれていた。


「何かあったの?」

 アマリアさんはクラリスさんを見て、緊急事態を察したようだ。


「ジュンイチさんが修行を見に来るなんて、初めてじゃない」

 ポセイドンとの訓練が楽しいのか、カズラさんが清々しい笑顔を浮かべている。


「紹介しよう。こちらは最強冒険者【氷結の薔薇】のリーダーで、クラリスさんだ。そして、こちらが勇者のカズラさん。そして戦士のツハリーさんと神官のラブリーヌさんだ」


「勇者様ですか。魔物が暴れているのです、助けてください」

 クラリスさんがいきなり深々と頭をさげた。僕達と初めて会った時の、絶対的強者の威圧感がなくなっている。


「アマリアさん、どうなさるのですか?」

 カズラさんが聞くと、アマリアさんの視線が僕に向いたので小さく頷いた。


「行きましょう。場所はどこですか?」


「フレッツ王国のアキヨシのダンジョンです」


「行ったことのないダンジョンね。バーニドアからは遠いの?」


「早馬車で五日ぐらいのところです」


「遠いんだか、近いんだか? リーダー、どうするの?」

 アマリアさんが困り顔で振ってきた。


「そうだな。今回は勇者様一行がおられるので魔方陣が使えないし、フェニックに運んで貰うしかないかな」


「どれ位で来て頂けますか?」

 フェニックと聞いてクラリスさんが蒼ざめている。


「そうですね。人数が多いですが、明日には行けると思いますよ」


「そうですか。私は先に帰って報告をしてきますので、送って貰えますか?」


「分かりました、礼拝堂で待っていてください」


「勇者様、宜しくお願いします」

 クラリスさんは逃げるように走っていった。


「彼女は何を慌てているんですかね?」

 カズラさんをはじめ、三人は首を傾げている。


「戦況がおもわしくないのでしょう。僕達も急いで行きましょう」


「少しいいかな? 以前、ピエールにも話を聞いたのだが、君達の移動手段は何を使っているのかね?」

 ツハリーさんは不思議そうに僕を見ている。


「一度行ったことのあるところは転移魔方陣を使って、そうでないところは特殊な馬車を使っています」


「そうなのか」

 三人とも頭の上に?マークを浮かべているよだが、すぐに分かるだろうから詳しい説明は止めた。




 魔方陣に魔力を注ぎ込んでクラリスさんを送ると、礼拝堂の前の広場に皆を集めた。


 魔人メフィストはまだ出てこないようなので、フレッド君とジュリアナさんには留守番を頼み、ガイアには村の守りを任せることにした。お腹の大きいツバキは、もちろん留守番だ。


「勇者の皆さん、乗ってください」

 大型の馬車を用意したが全員は乗れなかったので、僕とポセイドンはフェニックの背中に乗っていくことにした。


「この馬車は何で引くのかね?」

 引き棒のない馬車をみて三人が首を傾げている。


「早く乗り込んだほうが、ショックが少なくてすみますよ」

 アマリアさんは背中に乗るのが嫌なのか、一番に馬車に乗り込んでいった。


「よく分からないが、乗せて貰おう」

 ツハリーさんは女性陣をエスコートすると、自分も乗り込んだ。


「静かに飛んでくれよ」

 大きくなったフェニックの背中に乗り込むと、突起に掴まった。


「お任せください」

 ホバーリングしたフェニックは馬車を吊り上げると、西の大地を目指して飛び始めた。


 海を越えてフレッツ王国の領土に入る頃には、日が落ちてかなり時間が経っていた。


『主よ、ユリナさんが今日は実家で休んでいかないかと提案されています』

 このまま現地に行っても、キャンプの邪魔になるのではないかと考えていると、サスケからの思念が飛んできた。


 しかし、大人数でカーソル家に押しかけるのも気が引けた。


『アルカインさんが、いつでも来るように仰っているようです』

 ユリナさんは僕とサスケが思念で会話をしているのに気づいているようだ。


『分かった。カーソル家に向かう』


「フェニック、バーニドアの近くに下りてくれ」


「分かりました」

 久しぶりにフェニックに乗ったので、腕も腰もパンパンになっていた。


「ここは、どこ……」


『フェニック、戻れ』

 一番に馬車から降りてきたツハリーさんが、フェニックを見上げて言葉をなくしているので、慌てて肩に戻るように思念を送った。


「あそこに見えるのが、フレッツ王国の首都、バーニドアです」


「今日は、もう遅いので私の家で休んで貰います」


「私達は野宿には慣れているわよ」

 カズラさんは夜遅く、知らない家に行くのを躊躇しているようだ。


「気になさらないでください。父は今回助けて頂く宮廷軍の魔導師ですので歓迎してくれます」


「しかし、この時間では街に入れないだろ」

 一国を預かっているツハリーさんは、首都の警備について熟知している。


「行って見ましょう」

 ポセイドンに馬車を任せると、街に向かって歩き始めた。


「どうして、ポセイドンさんを残していくのですか?」

 カズラさんが心配そうに何度も振り返っている。


「彼なら大丈夫です」

 一言で済ませた。


「いつも、いつも! リーダーの口数が少ないから誤解を生むのよ、もっと話をしたらどうなの」

 アマリアさんにコミュニケーション力のなさを怒られた。


「話せと言われても」


「本当に! こんなところはリーダー失格なんだから。私が説明をするわよ」

 アマリアさんがブツブツと怒っている。


「任せるよ」

 このままリーダーを任せたいと思いながら黙り込んだ。


「リーダーのジョブがテイマーなのは知っているでしょ。ポセイドンもガイアもフェニックも、テイムされたドラゴンなのよ」


「ドラゴン!」

 アマリアさんの言葉に耳を傾けていた三人の視線が、背中に刺さってきた。


「それだけじゃないわ。エイアイは巨人で、サスケとツバキはフェンリルなのよ」


「ピエールから話は聞いていたが、やはりジュンイチ君は天上人なのか? テイム出来るのはテイマーより力の弱いものと決まっているからな」

 背中に刺さってくる視線がさらに鋭くなった。


「僕はただの人間ですよ。たまたま皆がついてきただけで、テイムしたとは思っていませんから」

 言い訳をしても無駄なのは分かっているので、小さな声で呟いた。


「そんな訳だから、リーダーがやることには驚かないほうがいいわよ」

 アマリアさんは笑って話を纏めようとしているが、僕を見る三人の視線は今までとは明らかに変わっている。




 バーニドアの正門は頑丈な扉が閉まっていて、街には入れなかった。


「誰か居ないの? 冒険者の【名もなきジョブ】よ!」

 アマリアさんが門の前で何度か叫ぶと、塀の小さな扉が開いて兵士が出てきた。


「こんな時間になに用だ。明日、出直してこい」


「待て。身分を証明する物を持っているか?」

 【名もなきジョブ】と聞いて出てきた騎士が、兵士を制している。


「有るわよ」

 ユリナさんが首から外したプレートを騎士に渡した。


「ユリナ・カーソル。アルカイン様にはお世話になっております。するとそちらが?」

 プレートを確認した騎士が、僕を見詰めてきた。


「リーダーのジュンイチよ」


「失礼しました。どうぞお通りください」

 騎士が直立不動で最敬礼した。兵士も直立不動で固まっている。


 僕の噂がどんな風に広がっているのか、恐ろしくて誰にも聞けなかった。


 カーソル家では奥様に温かく迎えられ、食事と休息のための部屋をお世話になった。


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