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北の大地に勇者現れる


 バッハの回廊でワインドウルフを倒して数日後、高台に立って夕焼けを眺めながらハーモニカを吹いていると、馬に乗った三人の旅人が現れた。


「久し振りだな、ジュンイチ君」


「皇帝閣下!」

 黄金の鎧姿で盾と大剣を携えているが、間違いなくツハリー・アース・ヴェールテ十五代皇帝閣下だった。


「今は勇者様のお供をする戦士でしかないんだ。ツハリーと呼んでくれたまえ」


「勇者様のお供ですか?」

 ツハリーさんの後ろには革鎧を着た少女と、神官服の少女がいるだけだった。


「勇者のカズラです」


「神官のラブリーヌです」

 二人の少女が軽く頭を下げている。


「勇者様、お待ちしていました。僕はジュンイチです」

 勇者が少女だったことに少し驚きながら、深々と頭を下げた。


「素敵な音色でした。ハーモニカですね、もしかして貴方も日本人ですか?」


「はい」

 緊張で何を話して良いのか分からなかった。


「貴方も召喚されたのですか?」

 カズラさんが澄んだ瞳で見詰めて来るので、顔が熱くなった。美人だしスタイルも抜群だった。


「とんでもありません。僕は生きていくための修業に来ただけです」


「生きていくための修業ですか?」

 カズラさんが首を傾げているが、他に説明のしようがなかった。


「こんな所ではお話しも出来ませんので、礼拝堂の方にお越し下さい」

 三人を礼拝堂に案内すると、三人の神官に紹介した。


「勇者様とそのご一行様、よくお越し下さいました。私は当礼拝堂で司祭を務めさせて頂いているマググリ・ベルトットです」


「お世話になります。こちらにはディフラントシン様の銅像が安置されていると聞いております。拝見させて頂けないでしょうか?」

 立派なステッキを持ったラブリーヌさんが、マググリさんに丁重に頭を下げている。


「どうぞ、こちらに」

 マググリさんが三人を本堂に案内すると、突然ラブリーヌさんが正面の御神体に向かって土下座をした。


「ラブリーヌ、急にどうしたんですか?」


「これほど立派なディフラントシン様の銅像を拝見するのは初めてなのです」

 カズラさんに声を掛けられたラブリーヌさんが、なぜだか涙ぐんでいる。


「バレンタインの礼拝堂にも祀られていたじゃない」


「そうだけど、この像からはそれ以上の神々し力を感じるのです。司祭様、この銅像はどうしてここに安置されているのですか?」


「ディフラントシン様が降臨された際に、残されて行かれた物です」

 マググリさんは僕の方を見ると困った顔をしている。


「ディフラントシン様と交信が出来るのは聖バレン王国の女王だけです。ここはアヤカシが作った世界ですね」

 カズラさんを庇うように立ったラブリーヌさんが、ステッキを掲げて呪文を唱え始めた。


「ラブリーヌ、どうしたんだ?」

 ツハリーさんの驚き以上に、僕が驚いている。


「ツハリーさん、騙されないように気を付けて下さい。北の大地は人が住めない所、ここは魔人が作り出した虚構の世界だと思われます。我らを迷わす悪しき力よ、聖なる光りに浄化され消え去れ。ホーリーフラッシュ!」

 ラブリーヌさんが魔法を行使すると、拝殿全体が目を開けていられない光に包まれた。


「カズラ、敵を!」

 眩しい光が収まると、マググリさんにステッキを向けているラブリーヌさんを全員が見詰めていた。


「聖なる光を欺く事は誰にも……エエッ!」

 何の変化も起きていない事に、ラブリーヌさんが呆気に取られている。可愛いがとっても早とちりする性格のようだ。


「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。私達は魔人メフィストを討伐する旅をしていまして、常に危険と隣り合わせだったので神経質になっているのです」

 カズラさんがマググリさんに詫びを入れている。


「大変なご苦労、お察しいたします。我々も勇者様一行の旅が無事に終わりますようにお祈りを捧げて、陰ながら応援させて頂きます」


「ありがとうございます。ところでディフラントシン様は何故この地に降臨されたのですか?」


「セキハラ草原は、北の大地が壊れる原因となった戦争が行われた場所です。そこに礼拝堂が出来たので、多くの霊を弔うためにお力をお貸し下さっているのです」

 マググリさんは御神体に手を合わせて頭を垂れた。


「この礼拝堂をお造りになったのはどなたですか?」


「北の大地の気候変動をお鎮めになった神様です」

 マググリさんが僕の方を見ているので、名前を言わないように小さく首を横に振った。


「やはりディフラントシン様は凄いお方なのですね」

 ラブリーヌさんの早とちりに救われた。


 ツハリーさんはピエールさんから話しを聞いているだろうが、僕をチッラと見ただけで何も言ってこなかった。




 その夜は、勇者様一行の歓迎会になった。


 チャレンジ村の魔族との対峙ではひと騒動起きるかと思ったが、神が祝福された土地と思い込んだ三人は何も言わずに受け入れてくれた。


 キャンプファイヤーを焚いての宴会となった。

 ピエールさんを始めディフェンス村の住人は、ツハリーさんから無礼講の言葉を貰っていたが、流石に皇帝閣下の前では騒げなくて静かにしていた。


「勇者様、稽古を付けて頂けませんか?」


「良いですよ」

 アマリアさんの突然の申し出を、カズラさんが快く受けている。


 魔人メフィスト討伐に召喚された勇者の実力が見たかったので、止めなかったのが失敗だった。


 革鎧にショートソードを手にしたカズラさんと、同じように革鎧にロングソードのアマリアさんの戦いは、暫く鍔迫り合いが続いていたが、


「それが勇者様の全力ですか? それでは魔人メフィストには勝てませんよ」

 アマリアさんが挑発を始めたのだ。


「どう言う意味ですか?」


「私達は魔人メフィストの部下だった魔物と戦った事があるけど、恐ろしく強くて手も足も出なかったのよ」


「何ですって!」

 カズラさんの表情が険しくなり、動きも剣捌きも鋭くなっていった。


 ポセイドンを相手に稽古を積んでいるアマリアさんは、決して引けを取らない動きをしている。

 次第に僕の目では、二人の動きが追えなくなっていった。


「止めなくて良いの? このまま続けたら、どちらかがケガをするわよ」


「しかし、アマリアに勝てないようでは、魔人メフィストは倒せませんよ」

 ユリナさんの言葉にフレッド君が口を挟んだ。


「今さら止められないだろ」

 またまた厄介事の予感がして、先が読めない自分を呪った。




「スキル、斬撃剣!」

 アマリアさんのスキルの威力が、以前に増して強くなっている。


 斬撃剣を見切ったカズラさんは一瞬で派手な鎧を纏い、手には見た事のない剣を握っていた。


「全力で行くから、全力で掛かってきなさい」

 カズラさんの剣が光を纏い、軽く振るだけで風が巻き起こった。


「スキル、岩斬撃剣!」

 アマリアさんが上段から剣を振り下ろすと、地面が割れて斬撃がカズラさん向かっていった。


 躱す気配がなかったカズラさんの姿が、寸前で消えた。


「どんなに威力があっても、敵に当たらなければ意味がないのよ」


「負けました」

 背後を取られたアマリアさんが剣を手放した。


「凄い剣術ですね。私に力を貸して貰えませんか?」

 一瞬でカズラさんは元の革鎧の姿に戻っている。


「お断りします。まだ死にたくはありませんから」


「決して貴女を死なせたりはしませんわ」


「今の勇者様では、魔人メフィストには勝てません」

 アマリアさんは厳しい表情を崩していない。


「まだ私の力が認められないの?」

 カズラさんがかなり怒っている。


「貴方方三人で【名もなきジョブ】のリーダーに勝てたら、勇者様の実力を認めてお供しましょう」

 また勝手な事を、アマリアさんの言葉に頭を抱えた。


「リーダーとは誰ですか?」


「明日になれば分かりますわ。おやすみなさい」

 アマリアさんは、ひとり自宅に戻って行った。


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