[ともだち]と魔物
目の前の空間が歪むと、フェニックの思念を追って転移魔法陣を使ったポセイドンとガイアが姿を現した。
「主よ、お呼びでしたか?」
「魔物に囲まれている。出来れば戦わずに魔族界に帰って貰いたいんだが、無理だろうか?」
「我々が敵の動きを牽制しますから、主の力を示して追い返して下さい」
ガイアがいとも簡単に言ってくる。
「力を示せと言われてもなぁ」
『主は好きな曲を全力で吹けば良いんですよ』
途方にくれていると、龍三兄弟と並ぶサスケが小さく頷いている。
「やってみるよ」
と言っては見たが、自信は全くなかった。
「後は任せておさがり下さい」
ガイアとポセイドンはピエールさんの傍に行くと、エンデル・ガーデンと対峙した。
「君達は?」
「ご主人様の友達です」
ポセイドンが青い刃のロングソードを抜いた。
「ご主人様?」
怪訝な表情で僕の方を振り向いたピエールさんは、何を思ったか部下の元に戻ると、馬車を囲んで防衛陣形を組み始めた。
「何だ、お前達は!」
エンデル・ガーデンが脅しを掛けるように大槍で地面を突いたが、今度は地面が揺れる事はなかった。
「何をした!」
大槍を正面に構えたエンデル・ガーデンは、武器を持たない作業着姿のガイアを威圧している。
「主が大人しく魔族界に戻るなら見逃すと仰っている、力の違いが判るならさっさと帰るが良い」
腕組みをしているガイアが右足を踏み鳴らすと、立っていられないほど地面が揺れた。
「何者か知らないが、邪魔をするなら殺すまでよ」
エンデル・ガーデンが大槍を天に突き上げて気勢を上げると、ウオッ! と空気を震わせる雄叫びが魔物の大群から湧き上がった。
「ウオッ――!」
サバイバルナイフと合体したサスケが負けじと遠吠えを上げ、上空に飛び上がったフェニックは本来の大きさになり、空の敵を威嚇している。
♪~~~♪~~~♪‼。
全面衝突が始まっては困るので、坂本九さんの[ともだち]を吹き始めた。魔力を吸収する聖なる衣が黒のロングコートに変わり、裾が溢れ出る魔力ではためいている。
♪~~~♪~~~♪‼。
「貴様達は、人間ではないな!」
大槍の衝きをポセイドンのロングソードで受け止められたエンデル・ガーデンは、牛に似た顔を歪めている。
♪~~~♪~~~♪‼。
「何も知らずに死ぬのは可哀想だから教えよう。私は海龍のポセイドン、そして地龍のガイア、空にいるのが空龍のフェニック。そしてあそこにおられるのが我らのご主人様だ」
ポセイドンの声は聞き取れなかったが、エンデル・ガーデンに射るような視線を向けられたので足がガタガタと震えた。
♪~~~♪~~~♪‼。
魔物と友達にはなれないだろうが、争いを避けるために必死でハーモニカを吹き続けた。
♪~~~♪~~~♪‼。
次第に体が熱くなり、鼓動が早まっていくのが分かった。
♪~~~♪~~~♪‼。
苦しさはないので気合を入れて吹き続けた。
友達と魔物の睨み合いは続いているが、気勢を上げる雄叫びは聞こえなくなった。
♪~~~♪~~~♪‼。
僕の体を包んでいた風が、次々と色を変えて渦巻き始めた。
♪~~~♪~~~♪‼。
足の震えも収まったので、微笑みながら[ともだち]を吹き続けた。
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魔法は使えないが音楽で争いが鎮められたら、どれだけ平和的かと考えながら友情を想う曲を奏で続けた。
♪~~~♪~~~♪‼。
僕の体を包んでいた八色の光の渦が空に舞い上がると、オーロラのように広がった。
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兵士にも魔物にもオーロラは見えるのか、呆けたように空を見上げている。
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さらに演奏を続けると、光のシャワーが草原一帯に降り注いだ。
「主よ、ご苦労様でした」
久し振りに全力で一曲吹き終えて呼吸を整えていると、ガイアが声を掛けてきた。
他の皆も戦闘体形を解除して寄ってきている。
周りを見渡すと兵士も魔物も座り込んで僕に視線を向けているが、全てが好意的な視線だったので安堵した。
「大人しく魔族界に帰って貰えるかな?」
サスケに付き添われてエンデル・ガーデンに近寄ると、刺激しないように静かに聞いてみた。
「ムリ」
エンデル・ガーデンが首を横に振った。
「どうしても戦うなら、多くの仲間が死にますよ」
「戦うのもムリ、貴方に勝てる訳がない」
大槍を手放しているエンデル・ガーデンが、悲しそうな眼で僕を見ている。
「なら、どうして帰ってくれないのですか?」
「ゲートは一方通行。私達は魔族界を捨ててきた」
「ハァ!」
眩暈がして倒れそうになった。
(これだけの魔物をどうするんだ)
座り込んだり、伏せている魔物全員が、悲しそうな視線を向けている。
「イヤイヤ、絶対にテイムはしていないからな」
サスケ達を見ても、誰も救いの言葉を発してくれなかった。
「ジュンイチ殿、貴方様は天上人なのですか?」
僕に歩み寄ってきた厳つい顔のピエールさんが、凄く穏やかな表情で見詰めてきている。
「僕はただの人間ですよ!」
宮廷軍からも魔物軍からも畏敬の視線を向けられて空に向かって叫んでみたが、誰も救いの手を差し伸べてくれなかった。
「エイアイ、どうすれば良い?」
スーパーコンピューターの知識に頼るしかなかった。
「北の大地へ連れて行かれてはいかがでしょうか?」
「しかし、海に出るまでに人目に触れたら大騒ぎになるぞ」
エイアイの案に賛成できなかった。
「魔族は人間に近い姿になれる筈です」
「そうなのか?」
借りてきた猫状態のエンデル・ガーデンに聞いてみた。
「なれますが上位魔族は私だけなので、他の者は姿を変えるには魔力が足りません」
「そうなのか。先ずは君が人の姿になって見せてくれないか?」
「分かりました。…………」
言葉遣いが大人しくなっているエンデル・ガーデンが立ち上がると、目を閉じて何か呟いた。
人間の倍ほどあった体格が人並みに縮み、角が消え顔立ちが人のそれに変わった。鎧は街娘の服装に変わり、大槍はただの杖に変わっっている。
「確かにかなりの魔力が必要なようだな」
見事な変身だが、エンデル・ガーデンの躰から大量の藍色の光りが溢れ出しているのが気になった。
「これなら大きな騒ぎにはなりませんよ」
ピエールさんも街娘になったエンデル・ガーデンを見て、感心している。
「しかし。エンデル・ガーデン、その尻尾は何とかならないのか」
「生まれつき尻尾がある魔族は、尻尾がないとバランスが取れないのです。それとエンデルとお呼び下さい」
エンデルが申し訳なさそうに頭を下げている。
「分かった。それなら仕方がないな」
出来るだけ人に遇わずに海に出る道を選ばなければならないと、独り頭を抱えた。
「他の魔物はどうなさるのですか?」
ピエールさんの言葉遣いも変になっているが、突っ込む気力が湧いてこなかった。
「僕の魔力を使って人間に近い姿にして、全員を北の大地に連れて行って生活をさせるつもりです」
「そのようなことが出来るのですか?」
「何とかなると思います」
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一時間近く色々な曲を吹き続けて、全ての魔物を人間の姿に変身させると流石に疲れた。
魔物は姿を変えても体力は落ちることなく、馬車の後をついて歩き続けることが出来た。
街や村など人がいる所を避けて海に向かったが、街道で出会った商人たちには大人数での移動を大いに怪しまれた。
「我々は北の大地に移住する国民を護衛中なのだよ」
ピエールさんには皇帝閣下の書簡を武器に、何度か危機を切り抜けて貰った。
海を渡れば北の大地だから安心なのだが、宮廷軍、魔族軍占めて三百人を越える者が乗れる大きな船などなかった。
「ポセイドン、何とかならないか?」
海の事は海龍に任せるのが一番なのだ。
「海の中に道を造りますから、私の魔力が切れそうになったら補充して下さい」
「分かった」
海龍に姿を変えたポセイドンが海に飛び込むと、モーゼの奇跡のごとく海が割れて道ができた。
考えるのを止めたのか、兵士も魔物も驚いたようすもなく海を渡り始めた。
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時折[海]を奏でてポセイドンに魔力を送りながら、セキハラ草原に着いたら全員の記憶を消さないと駄目だと独り思った。




