魔族との遭遇
二日後、皇帝閣下から下された裁定は完全無罪ではなかった。
ピエール・レンブラントさん率いる小隊をセキハラ草原に案内して、僕の話が事実だったら無罪として必要なだけの種籾を進呈して貰える事になった。
小隊は騎士四十人と魔術師十人の編成だった。
宮廷軍が許可なく他国に入るのはご法度だったが、南の大地ではツハリー・アース・ヴェールテ十五代皇帝の書簡があればフリーパスだったし、北の大地には現在国が存在していないので通行の心配はなかった。
北の大地までの遠征資金の事を考えると、見聞だけの部隊にしては大掛かりだった。ダーダー連合国では脅威への調査にも、二十人の派遣が精一杯だったのだ。
小隊は馬十頭、馬車十五台の編成で、十日掛けて港街に出て船で北の大地に渡る計画だった。
自分達だけだったら帰りは転移魔方陣を使って五分も掛からないのに、とんだ時間の浪費だが種籾を手に入れるために我慢しなければならなかった。
「ピエール・レンブラントさん、北の大地からペットを連れてきているのですが、呼び寄せても構わないでしょうか?」
「構わないとも。それと、ピエールと呼んでくれたまえ」
「ありがとうございます、ピエールさん」
王都を出るとサスケとフェニックを呼び戻した。ピエールさんは、犬と鳩程度の鳥なので心配ないと思ったのだろう。
特に問題もなく国境近くまでは順調な旅だったが、さほど高くない山越えに入ると事態が一変した。
クマやオオカミだけではなく、イノシシまでもが人間を襲ってくるのだ。イノシシは食料になるので良いのだが、獣の行動が少し異常だった。
「獣がこんなにも人間を襲ってくのは変だ! 注意を怠るな!」
ピエールさんが部下に注意を促していると、先行が慌てて戻ってきた。
「大変です、この先の草原に魔物の群れです!」
「数は?」
「二、三百はいると思われます」
「こんな所に何故、そんな大群が?」
ピエールさんがかなり慌てている。
確かに近くにダンジョンも見当たらないし攻め込む街もないので、大群の出現理由が分からなかった。
「エイアイ、魔物は何処からやって来たんだ?」
傍にいるエイアイに小声で聞いてみた。
「ゲートが開いたのだと考えられます」
「ゲート?」
「ダンジョンや街の近くに現れる少数の魔物は、上位者が魔族界から呼び寄せているのが大半なのですが、たまに大きな力が働いて人間界と魔族界を繋ぐゲートが開くのです」
「何のために?」
「魔族の勢力を広げるためです」
「魔族界は何処にあるんだ?」
「神様によって閉ざされた世界です」
「魔族界があるのに、なぜ人間界に現れるんだ?」
エイアイの説明が完全には理解出来なかったが、侵略的行為には腹が立った。
「人間界にいる魔人が、魔物を呼び寄せている可能性があります」
「まさか、今回の大群は魔人メフィストが呼んだのか?」
一人呟いた。僕の体内にある魔力融合装置を狙って来たのではないかと思ったのだ。
「分かりませんが、注意が必要です」
エイアイと話をしている周りでは、騎士達の動きが慌ただしくなっていた。撤退の判断がなされたようで、馬車の方向転換が行われている。
「隊長!」
監視隊員の指さす空に大型の鳥が見えた。すでに包囲されているようだ。
そして草原にはオークやオーガの他にも見たことのない魔物が、列をなして進行してきていた。
「ジュンイチ君、貴公達を守りきれそうにない。隙を見て逃げてくれるか」
この旅で少しだけ打ち解ける事が出来たピエールさんが、厳つい顔で申し訳なさそうに頭を下げている。
「気にしないで下さい、僕がお国を訪れたのが原因なのですから」
「皇帝閣下には貴公達を送り届け、司祭様の話しを聞いてくるように仰せつかったのだが、ここまでのようだ」
ピエールさんは死を覚悟しているようだ。確かにこのままでは勝ち目は皆無だった。
「サスケ、フェニック、勝てるか?」
『これだけの数だと、戦うだけが精一杯で皆を守る事が出来ません』
「そうだよな。子守唄を吹いても眠らない魔物がいたら、それまでだよな」
サスケの頭を撫でながら考え込んでいる僕を、ピエールさんが不思議そう見ている。
『我々だけなら、この場から逃げることは簡単です』
「そうだが」
ピエールさん達を見捨てることは出来なかった。
「ご主人様、兄と弟を呼びましょう?」
「ここまで飛んで来るには時間が掛かるだろう」
「ご主人様に力を頂いていますので、思念で場所を伝えます。二人なら魔方陣を使いこなせるでしょう」
「そうか、呼んでくれ。それと、仲間達に注意するように伝えて貰ってくれ」
「分かりました」
「ジュンイチ君、君は一体何者なんだね?」
フェニックが人間の言葉を喋ったので、ピエールさんが驚愕している。
「テイマーです。テイムした友達が魔物と戦ってくれるそうですので、皆さんは自分達の命を守る事だけを考えて下さい」
「テイマーか。変わったジョブを持っているんだな」
ピエールさんと遣り取りをしていると、魔物の中から指揮官らしいのが出てきた。
「人間、降伏するなら配下にしてやるぞ!」
黒い鎧に身を包んだ魔物は以前見た事のあるミノタウロスに似ていたが、女と言うのが正しいのかメスと言うのが正しいのか分からなかったが胸が大きく膨らんでいた。
「魔族が何の目的でこんな所に来たのだ!」
ミノタウロスの前に歩み出たピエールさんが叫んだ。
「南の大地は魔王親衛隊副隊長の私、エンデル・ガーデンが支配する事になったのだよ」
「何を勝手な事を言っている!」
「降伏しなければ殺すまでよ」
エンデル・ガーデンと名乗った魔物が大槍で足元の地面を突くと、地震のような激しい揺れが起きて兵士達がざわついている。
「エイアイ、魔王親衛隊って何なんだ?」
「分かりません。初めて耳にしました」
エイアイも知らない魔物の大群に囲まれて、体の震えが止まらなかった。




