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米を求めて南の大地へ


 大豆を収穫して麦を蒔き終えると、種籾が手に入れたくなった。


 この世界の主食はパンでご飯を見た事がなかったが、ディフラントシン様のお話しでは、南の大地には米が存在するらしいのだ。


 皆に相談したら危険はなさそうなので、僕とサスケとフェニックとエイアイで出掛ける事になった。


 フレッド君とジュリアナさんは最後の祈禱に入っているし、ユリナさんはガイアと協力して農地の拡張に精を出している。


 アマリアさんとポセイドンはトライの村の若者に剣術を教え、自警団を作ろうと頑張っている。


 南の大地では、魔物を嫌う聖バレン王国の上空を避けてソフト帝国に入った。

 上空から稲刈りが終わった田んぼを見付けて村に交渉に行ったが、米は全量が王都に送られているので手に入らなかった。


 南の大地最大の首都アリーナは、頑強な石壁に囲まれた要塞都市だった。

 皇帝は近隣諸国からも信望が厚い、ツハリー・アース・ヴェールテ十五代皇帝だった。


 街は賑わっていて商売も盛んに行われていて、小麦は大量に出回っているのに米は見当たらなかった。


「米を探しているのは君達かね?」

 何件か店を回っていると、憲兵さんに声を掛けられた。


「そうですが、何か?」


『サスケとフェニックはこの場を離れろ』

 厄介事の予感がして思念を飛ばした。


「詰所まで来て貰おうか」

 両脇を掴まれた僕とエイアイは、訳が分からないまま連行されていった。


「販売が禁止されている統制品の米を、何故探していたのかな?」

 詰所で上役のような騎士が問い詰めてきた。


「北の大地から来たばかりなので、統制品だと知らなかったのです」

 丁重な扱いとは言えなかったが、犯罪者扱いされているようでもなかった。


「北の大地から来ただと。隊長に連絡しろ!」

 聴取をしていた騎士は部下に命令をした後は、僕と向かい合ったまま黙ってしまった。

 気まずい時間ではあったが、何を言ったら良いのか分からずに静かにしていた。





 軍服に勲章を幾つもぶら下げた男が詰所に入ってきた。


「私は宮廷軍第三部隊の隊長の、ピエール・レンブラントと申すものだ。貴公達の名前は?」

 口髭を生やしたいかつい男性が睨んできた。


「ジュンイチとエイアイです」


「北の大地から来たらしいが、本当か?」


「はい。北の大地で農業をしていまして、お米を作るために種籾を探しに来ました」

 睨み付けられていて声が震えてしまった。


「北の大地で農業だと、出まかせを。我が国で米が作られている事をどこで知った!」

 ピエールさんの、半端ではない威圧感にたじろいでしまった。


「セキハラ草原の礼拝堂で、司祭様から教えて頂きました」

 ハーモニカを吹いて脱走も考えたが、ご飯への未練も断ち切れなかった。


「ますます怪しい輩だ。宮廷軍本部で取り調べを行うから来て貰おう」

 僕と違って顔色ひとつ変えないエイアイに、ピエール・レンブラントさんは懐疑心を深めているようだ。


 否応なく王宮の詰所に連れて行かれると、軍人ではなく立派な白い顎髭を蓄えた老人が応対に現れた。


「私は皇帝閣下の側近のひとりで、ラファエル・デボルド・ヴァルモールだ。率直に聞こう、貴公は勇者様の関係者か?」

 ラファエル・デボルド・ヴァルモールさんは僕ではなく、エイアイの顔を見詰めている。


(勇者様、何の事だ)

 首を傾げていると、


「ご主人様、何と答えましょうか?」

 と、エイアイが言ったので、ラファエルさんが驚いた表情をして僕を見詰めている。


「僕が答えるよ」

 スーパーコンピューターの機転の利かなさに溜息が洩れた。


「僕達は勇者様とは何の関係もありません。どのような理由で勇者様が出てくるのでしょうか?」


「君達が米を買い求めていたからだよ。勇者様はご飯が大好物だそうだから、我が国では米を作って新たな勇者様をお待ちしているんだよ」


「勇者様がこの国に来られるのですか?」

 ラファエル・デボルド・ヴァルモールさんの仰っている意味が分からなかった。


「ソフト帝国の十二代皇帝閣下は、世界を救うために戦士として勇者様と旅をされたのだが、その皇帝閣下が残された日記にご飯の事が記載されていたんだ。それで新たな勇者様が現れたら、我が国に来て頂くために米を作っているんだよ」

 ラファエル・デボルド・ヴァルモールさんは隠すことなく疑問に答えてくれた。


「それで米を探していた僕達が疑われた訳ですか。確かに僕もご飯は好きですが、勇者様とは何の関係もありませんよ」

 先代の勇者様も日本人だったのだと、理解が出来た。


「確かに、どこから見ても強そうには見えないわな」

 農作業に適した服装をしたまま出掛けてきた僕を見ているラファエル・デボルド・ヴァルモールさんの表情が、急に落胆したものになった。


「それでは、帰らせて貰えますか?」

 種籾を諦めて退散した方が良さそうだった。


「まだ聞きたい事がある。正直に答えたら無罪放免にしよう」

 ラファエル・デボルド・ヴァルモールさんは僕に鋭い視線を向けてままだ。


「どのような事でしょうか?」


「北の大地で農業をしているそうだが、北の大地は人が住めない状況だと認識しているのだが、間違っているか?」


「いいえ。半年前はそうでしたが、今は気候が落ち着いて住みやすい大地になっています」


「誰が気候変動を鎮めたのだ?」


「分かりませんが、セキハラ草原に礼拝堂を造られたディフラントシン様ではないでしょうか?」

 苦し紛れに神様の名前を出してしまった。


「ディフラントシン様が、聖バレン王国以外の地に降臨されたと言うのかね」

 ラファエルさんの表情からしてかなり驚いているようだ。


「礼拝堂には降臨された時に残された銅像も安置されていますし、間違いないと思います」


「君達の処分については皇帝閣下に判断をあおるから、二、三日与えられた部屋で大人しくしているんだ」


「分かりました」

 いつでも逃げ出せるので従うことにした。


 ラファエル・デボルド・ヴァルモールさんが出ていくと、世話係だと言ってメイドが二人入って来た。

 案内された部屋は牢屋ではなく、それなりに豪華だったので犯罪者扱いでない事にホッとした。


 城内が寝静まるのを待って窓からサスケとフェニックを呼び入れると、転移魔法陣で北の大地に戻り事の次第を皆に報告をした。

 帰りが遅くなると、アマリアさんとユリナさんに怒られるのだ。


「それでどうするの?」


「皇帝閣下の裁定を聞いてから判断するよ」


「大丈夫なんでしょうね」


「心配ないよ。危険を感じたら皆を眠らせて、逃げてくるから」

 アマリアさんとユリナさんがついて行くと聞かなかったが、話がややこしくなるので何とか説得してアリーナの城に転移した。


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