幕間15アルカイン・カーソルの苦悩
私の名前はアルカイン・カーソル。フレッツ王国宮廷軍魔術師団のナンバー2の要職に就いている。
冒険者ギルドから宮廷軍の出動要請があった。
フレッツ王国の辺境の未開地に新しいダンジョンが発見されたが、多くの冒険者が戻らないだけではなく巨大生物が現れたと言うのだ。
ダーダー連合国でも色々と問題が起きているとの情報が入っているので、国王様は調査隊を派遣する事を決められた。
宮廷軍は騎士五十名、魔術師三十名の調査隊を結成して、私が副隊長に任命された。
隊長は貴族の三男で、功績を上げて箔をつけるためだけに宮廷軍騎士団に在籍している男だった。
調査隊の先行きを案ずる私は情報収集に奔走する傍らで、部下に命じて時折バーニドアに買出しに来ているジュンイチ君を探させていた。
彼が率いる【名もなきジョブ】が護衛についてくれたら、これほど頼もしい事はないのだ。
偶然を装ってジュンイチ君と会って話を聞くうちに、護衛が頼めなくなった。敵がダーダー連合国に現れたのと同じ魔人なら、娘を死の危険に晒す事になるのだ。
ジュンイチ君は優しい男で妻が娘に会いたがっていると思ったのか、数日後にユリナが帰ってきて久し振りに私もゆっくりと話す事ができた。
「お父さん、調査隊の副隊長をするんだって?」
気難しい筈だった娘が、驚くほどあっけらかんとしていた。
「ジュンイチ君から聞いたのか?」
「そうよ」
「他に何か言っていなかったかい?」
「大変だろうから、雑用係り位ならお手伝いしたいと言っていたわよ」
「そうか、それは有り難いな。冒険者ギルドには私が推薦しておくので宜しく頼むと伝えておいてくれ」
「分かったわ」
娘の魔法の才能は父も認めていたが、【名もなきジョブ】のメンバーになってさらに強くなったのか、強敵がいると思われるダンジョンに行く事に全く動じていなかった。
私は【名もなきジョブ】が同行してくれる事になったので、少し肩の荷が軽くなったような気がした。
冒険者ギルドが護衛に推薦してくれた最強の冒険者【氷結の薔薇】は桁外れに強くて、調査隊は無事にダンジョンの前に到着したが、そこに待っていたのは想像を絶する強敵だった。
体長五メートルを超えるビッグベアーは、死闘のすえに【氷結の薔薇】が倒したが、フェンリルが率いる凶暴化したオオカミの群れに包囲された我々は、絶体絶命の危機に見回れた。
「ジュンイチ君、何とかなるかね?」
こんな時でも落ち着いている【名もなきジョブ】に近づくと声を掛けた。
「リーダー、父を助けて」
娘が縋る様な目でジュンイチ君を見詰めているので、彼が何とかしてくれると確信したが何も言ってくれないので、
「いや、君達だけでも逃げられるのなら逃げてくれ」
と、父親としての弱さが出てしまった。
「アルカインさん、皆に座るように命令して下さい」
「分かった」
ジュンイチ君の自信に満ちた声を聞いて安心したが、流石にオオカミに囲まれているのに座る訳にはいかず、
「皆、危険だから出来るだけ身を低くしろ!」
と、叫んだ。
♪~~~♪~~~♪‼。
突然睡魔に襲われて倒れたが身を低くしていたので怪我もなく、目が覚めるとオオカミもフェンリルも居なくなっていた。
「オオカミもフェンリルも、ビッグベアーを倒した【氷結の薔薇】の実力に恐れをなして逃げていったようだな」
目を覚ました隊長が笑っているが、ジュンイチ君が追い払ったのだと私には分かっていた。
ダンジョンの入り口には二体のゴーレムが立っていて、娘の最強魔法でも倒せなかった。
「冒険者などに任せておけん。アルカイン、宮廷魔術師の威信に掛けもゴーレムを破壊しろ!」
「集団攻撃魔法フレームブレスを発動する。集中して詠唱を始めろ」
隊長の命令には逆らえずに集団攻撃魔法を発動させたが、ゴーレムが完全に溶解する前に魔術師達の魔力が切れてしまった。
「騎士団、壊れかけのゴーレムを破壊しろ!」
功を焦る隊長の掛け声で騎士団が突っ込んでいったが、ゴーレムの再生能力が優れていて惨劇が起きてしまった。
多くの兵士に死傷者が出たが魔術師の魔力が切れていて、治癒魔法が殆ど使えなかった。
「アルカイン、何とかしろ」
遠征の失敗を悟った隊長は、後始末を丸投げしてきた。
究極魔法で魔力を使い果たしている筈なのに元気にしている娘を見た私は、【氷結の薔薇】のメンバーをジュンイチ君の下へ連れて行った。
「ジュンイチ君、少し良いかな」
「何でしょうか?」
「皆を助け貰えないだろか?」
「僕に治癒能力はありませんよ」
「ジュンイチ殿。先ほどから拝見していると不思議な事をされているが、ケガをしている騎士を一人でも多く助けたいので、カトレアの魔力を回復させて貰えないだろうか?」
隣に立っていたクラリスが頭を下げたので、私も頭を下げた。
「僕の事を人に話さないで下さいよ」
暫く考え込んでいたジュンイチ君は、カトレアの肩に手を乗せてハーモニカを吹き出した。
♪~~~♪~~~♪‼。
「凄いわ。魔力で満たされて行きます」
聖女と呼ばれているカトレアが大きな目を輝かせているので流石に驚いた。
「ありがとう」
大魔導師の父が師匠と呼び、娘が全般の信頼を置いている彼を畏敬の眼差しで見詰めた。
カトレアの聖魔法で多くの兵士が回復したが、調査隊は撤退を余儀なくされた。




