最強冒険者【氷結の薔薇】の実力
調査隊は馬十一頭、荷馬車十五台での移動となった。
先頭は今回調査隊の隊長を務める宮廷騎士団の副団長であるガスデルさんと【氷結の薔薇】が走り、後方の警護を騎士二人と【グレイトソール】が務めている。
隊員は十人ずつが一台の馬車に乗り込み、【試練の戦士】と【名もなきジョブ】には、食料などの荷物を積んだ馬車の見張り役があてがわれた。
一行は十日掛けて後ひと山越えれば、辺境の街シシナダに入る所まで来ていた。
「私達だけだったら、二日も掛からなかったのにね」
イライラが募ってきているアマリアさんがボヤいている。
ユリナさんは【試練の戦士】のメンバーと蟠りもなく話をしているが、コミュニケーション力がない僕は出来るだけ避けるようにしている。
「何か来るぞ!」
山越えの途中で隊長が叫んだ。上空を見上げると三つの飛行体が、滑空しながら近づいて来ている。
「ワイバーンだ、荷物を取られないように気をつけろ!」
クラリスさんが剣を抜き、フロリダさんが杖を翳して詠唱を始めている。
「主様、追い払いましょうか?」
フェニックが耳元で囁いてきた。
「皆の力を知っておきたいから様子を見よう」
僕達は荷物を守る事に専念した。
「ワイバーンですか、最初から強敵が来ましたね」
【試練の戦士】の皆は立ち上がって戦闘態勢に入っているのに、一番に抜刀すると思っていたアマリアさんは座ったまま上空を見上げている。
「ギヤー!」
叫びを上げた一体が突っ込んできた。
「アイスランス!」
フロリダさんの杖から一度に五本の氷の槍が飛び出して、ワイバーンに突き刺さった。
「凄い!一撃だ!」
ワイバーンが地面に激突すると歓声があがった。
「ギヤー!」
間髪入れずに二体目が襲い掛かって来ると、クラリスさんが上段に構えた剣を振り抜いた。
白い刃が空間を引き裂き、一体を真っ二つにするとその先のワイバーンの片翼を切り落とした。
「グワーッ! グワーッ!」
二体目は錐揉みしながら頭から地面に突っ込んでいった。
「流石【氷結の薔薇】だ、これなら何が出ても安心だ」
調査隊の中から安堵の吐息と共に、大きな歓声が沸き起こっている。
「俺達もあんな風に強くなれるかな」
学校では最強だと粋がっていた【試練の戦士】が、【氷結の薔薇】に憧れの眼差しを向けている。
「今回は僕達の出番はなさそうだね」
仲間にだけ聞こえるように呟いた。
「そうだと良いわね」
ユリナさんもアマリアさんも、ワイバーン程度の敵との戦いには関心がなさそうだ。
その日はシシナダの街の近くで野宿をする事になった。
小さな街なので、全員が宿泊できるような宿がないのだ。
「ワイバーンを簡単に倒されるなんて、凄いですよね」
食事の後の話は、昼間の戦闘の話題で持ちっきりだった。
「どうすれば皆さんのように強くなれるのでしょうか?」
特に【試練の戦士】は【氷結の薔薇】に執拗にすり寄っている。
「飽くなき鍛錬をする事。経験を積み重ねる事ね」
クラリスさんは後輩の話し相手になっているが、オルタナさんは時折僕達に鋭い視線を向けてきている。
「少し良いかな?」
何か気に障る事でもしたかなと思いながら視線を合わせないでいると、向こうから話し掛けてきた。
「何かしら?」
何事にも臆さないアマリアさんが返事をしてくれたので任せる事にした。
「あんたらはアルカイン・カーソル氏の推薦だそうだな」
「それが何か?」
目上の人なんだから、もっと敬意を払って下さいよ。僕はそっとその場を離れようとした。
「弱い奴はいるだけで邪魔になるんだよな、私と勝負をして実力を見せてみな」
背中でオルタナさんの声を聞いていた僕は、ビクッとなった。
「ご主人様、どうしましょうか?」
「ええっ」
振り返ると、オルタナさんが指名しているのはポセイドンだった。
「オルタナ、任務中だぞ、よさないか」
「長旅で皆も気が滅入っているだろ、余興に少しぐらい良いじゃないか」
「【名もなきジョブ】の皆、申し訳ない。オルタナは気に入った男を見ると、実力を知りたがる悪い癖があるんだ」
(気に入った男か)
確かにポセイドンは二枚目だからな。オルタナさんが僕に鋭い視線を向けていたのでない事が分かると、少し緊張が解れた。
「オルタナさんが試合をするぞ!」
すでに人が集まり始めていて、模擬戦は回避出来そうになくなっていた。
「隊長さん、ほんのお遊びだから良いだろ?」
オルタナさんは強引だった。
「ケガをさせないのなら良いだろう」
隊長さんがアルカインさんを見ている。僕達を推薦したアルカインさんに気を遣っているのだろう。
「少しぐらいのケガなら私が治して上げますよ」
カトレアさんが楽しそうな顔をしている。大人しそうに見えるが、この人も相当の戦闘マニアのようだ。
「ご主人様、どれほどの力で戦えば良いでしょうか?」
ポセイドンの言葉に頭を抱えた。目立たないようにしている僕の努力が無に帰していく。
「何を寝ぼけた事を言っている。私達は最強の冒険者だぞ、全力で掛かってこい!」
怒りに震えるオルタナさんが、真っ赤な顔になっている。
『一割の力で戦え』
何も言えなくなった僕は、思念を送りながら指を一本立てた。
「武器を取りなさい!」
真剣な表情になっているオルタナさん大剣を構えた。
白いスーツの胸元に手を入れたポセイドンは、青い刃のショートソードを取り出した。
魔物と戦っている時より剣が小さいので、少しホッとした。
オルタナさんの動きは凄かった。大剣を軽々と扱い、早い動きからの太刀筋は僕には追い切れなかった。
ほとんど動かないポセイドンは、紙一重で見切り軽く刃を大剣に当てている。
「流石、剣豪オルタナさん! 相手は動けずにいるぞ!」
刃が火花を散らす度に、観客から大きな歓声があがった。
【氷結の薔薇】のメンバーは、仲間の勝利を確信した顔で戦いを見ている。
「あれではポセイドンには勝てないわね」
僕の目では追い切れないオルタナさんを凝視しているアマリアさんが呟いた。
大剣を振り回していたオルタナさんの動きが、少しずつ鈍くなっていく。
ポセイドンにわざと負けるような配慮が出来る訳もなく、剣を片手持ちで突き出し、挑発するような構えをしている。
「止めなさい、殺す気!」
オルタナさんが足を止めて構えを変えると、クラリスさんが叫んだ。
「スキル、岩切剣!」
腰を落としたオルタナさんが胸の高さで地面と水平に構えた大剣を振り切ると、砂埃を巻き上げる突風が起こりポセイドンに向かっていった。
「どうして?」
逆手持ちにした剣を地面に突き立てる格好で立っているポセイドンを、オルタナさんは信じられないと言った顔で見ている。
「何があったの?」
【氷結の薔薇】の皆も呆気に取られている。
「まだ続けますか?」
ポセイドンは息ひとつ乱していないが、オルタナさんは片膝をついて息を切らしている。
「そこまでよ。お騒がせして申し訳なかった」
クラリスさん達がオルタナさんを連れて、自分達のテントに戻っていった。
決着がどう着いたのかよく分からなかったので、最初の盛り上がりが嘘のように人だかりが引いていった。
「最後に何があったんだ?」
【氷結の薔薇】の全員が驚いたような顔をしていたのが気になったので、ポセイドンに聞いてみた。
「たいした事ではありませんよ。彼女が剣圧を飛ばしてきたので、刃で受け止めただけです」
「そうか。でも剣圧で砂埃を巻き上げるなって、オルタナさんの剣術は凄いんだな」
僕は大剣を振り抜いて起こった風が、ポセイドンの所まで届いただけだと思っていた。
「余興なんだから、私だったもっと派手な動きを見せたのになぁ」
アマリアさんらしい言葉だが、何故か表情が曇っていた。




