三人だけの【名もなきジョブ】
指定された日時に正門前に行くと、すでに出立の準備は整っていた。
「君が【名もなきジョブ】のリーダーかね。俺は【熱血の刃】のリーダーでデズモンドだ、よろしく頼むよ」
立派な革鎧を着て、クレイモアを背負った青年が声を掛けてきた。
「はい。ジュンイチです、よ、よろしくお願いします」
突然の事に驚いてしどろもどろになった。
「君が参加すると聞いて、我々も急遽参加する事にしたんだよ」
「そうですか、頼もしいです。よろしくお願いします」
熾烈な戦いを生き抜いてきたと思える、四人のジト目が怖かった。肩に乗ったフェニックを気にしているのだろが、格上冒険者の視線はそれだけで動けなくなりそうな威圧感があった。
「冒険者の諸君、護衛を引き受けてくれてありがとう。私が隊長のハンスだ。戦闘時以外は私の指揮下に入って貰うのでよろしく頼む」
整列した騎士団と魔術師団の前に立ったハンスさんは、真新しい鎧に身を包んでいた。
「分かっています。出しゃばるなと、ギルマスから釘を刺されていますよ」
冒険者を代表して、貫禄のあるデズモンドさんが声を張った。
【熱血の刃】のメンバーの後ろで小さくなっている僕は、調査隊の中に鉄鎧を着たアマリアさんと、一人だけ白いローブ姿のユリナさんがいる事に驚いた。
「アマリアさん、宮廷のお仕事に戻られたようですね」
「ユリナさんは、宮廷魔術師に入られたのかな?」
フレッド君とジュリアナさんが囁き合っているが、僕は二人と視線を合わせるのが気まずくて顔を伏せていた。
護衛と言っても守る相手は冒険者よりも強い宮廷の軍人なのだから、道中は何もする事はなく最後尾の荷馬車に乗って荷物を守っていた。
「ジュンイチ君と言ったね。君は北の大地に行っていたそうだが、何をしに行っていたんだい?」
デズモンドさんは僕に関心があるのか、何かと話し掛けてくる。
「【熱血の刃】の皆さんのご先祖は、北の大地のご出身なんだそうだよ」
フレッド君が知っている事を教えてくれた。
「そうだったのですか。僕は友達の両親を探しに行っていました」
「気候が狂ったあの大地にかね? それで見つかったのかね?」
「はい。セキハラ草原で出会う事が出来ました」
隠す必要もないので事実の一部を話した。
「吹雪が荒れ狂っているセキハラ草原に到達したと言うのかね!」
【熱血の刃】の全員が驚愕している。
「仲間の協力がありましたから」
「君の仲間は、吹雪に阻まれて戻って来たと言っていたぞ?」
「そうなんですか」
フレッド君とジュリアナさんを見ると、小さく頷いている。
「僕には他にも助けてくれる友達がいるんです。サスケにフェニック、それにエイアイとポセイドンです」
傍にいる友達たちを紹介した。
「君は?」
「リーダーはテイマーで、そこにいる皆はテイムされた、人に非ざる存在なんですよ」
フレッド君が不思議がっている【熱血の刃】に説明した。
「テイマー。人に非ざる存在?」
屈強そうなデズモンドさん達が、僕達に視線を向けて言葉を失ってしまっている。
その後は僕を観察するような視線を感じるが、突っ込んだ問い掛けもないまま洞窟に到着した。
「君達が巨大ムカデに襲われたのは、この洞窟に間違いないね」
「はい。入って少し行った所で襲われ、後ろからワームに逃げ道を塞がれました」
デズモンドさんがハンスさんに、前の戦いを説明した。
「そうか、油断をするなよ。騎士団を先頭に調査を開始する、冒険者諸君には周りの警戒をお願いしたい」
ハンスさんにとって隊長としての初めての遠征で、かなり気負っているようだ。
「やはり出たか!」
洞窟が少し広くなった地点で、全体が黒光りする巨大ムカデが行く手を阻んできた。
「触覚と目を狙え!」
ハンスさんの命令で騎士団と魔術師団が攻撃を始めた。
僕達が振り返ると巨大ワームが、出口を塞ぐようにゆっくりと迫って来ている。
前回と同じ攻撃があると言う事は、この洞窟は何者かによって守られている事になる。
「ジュンイチ君、君の力を見せて貰えないか?」
デズモンドさんが右の肩を軽く叩いてきた。
「僕にはワームを倒すのは無理ですので、友達のポセイドンが戦ってくれます。頼んだぞ」
「分かりました。切り刻みますか? それとも屍を使いますか?」
水色のロングコートのような服を着ているポセイドンが、青く輝く刃の剣を手にしている。
二枚目が口にするような言葉ではないと思いながら、
「切り刻んだワームは見たくないなぁ」
と、小さく首を振った。
「分かりました」
表情ひとつ変えないポセイドンは、何の躊躇もなくワームに向かってゆっくりと歩いて行った。
「彼ひとりで大丈夫なのかい?」
デズモンドさんが剣の柄に手を掛けてワームを睨んでいる。
「大丈夫でしょう」
海龍であるポセイドンがワームに遅れを取るとは思えなかったので簡単に答えると、四人が誹謗するような視線を向けてきた。
大口を開けて襲い掛かるワームに向けてポセイドンが剣を突き出すと、まだ十分に距離があるにも関わらずワームの体内から小さな魔石が弾き出された。
「何があったんだ」
魔石を拾って戻って来たポセイドンに【熱血の刃】の全員が驚愕の視線を向けている。
「スキル・斬撃を使っただけですよ」
「斬撃って、剣で斬り付けるのと同じ力を遠くに飛ばす技だろ。本当にその様な事が出来るのか?」
魔剣・炎の刃の使い手デズモンドさんが目を輝かせている。
「出来ると信じて、剣を振り続ける事ですよ」
ポセイドンが剣を軽く振ると、五メートルほど離れた先の小さな石が半分に割れた。
「ほおっ!」
皆が驚きに包まれている中、好青年の爽やかな笑みにカーリンさんがウットリとしている。
巨大ムカデと戦っていた宮廷軍は、アマリアさんとユリナさんの働きもあって無力化に成功していた。
「どうしてこんな化け物が生まれるんだ」
「止めを刺しておかないと毒を吐きますよ」
ムカデを調べているハンスさんに、デズモンドさんが注意を促した。
「毒か、それは厄介だな」
調査隊がムカデから慌てて離れた。
触覚を切り落とされて両目を潰され、頭部を地面に剣で串刺しにされているが、巨大ムカデは黒光りの胴体をくねらせ最後の足掻きを見せている。
「洞窟内では焼き払う事も出来ないし、外皮が硬くて止めを刺すのが難しいぞ」
ハンスさんが巨大化した昆虫の処理に困っておられた。
「リーダー、何とかしなさいよ」
騎士団の中にいたアマリアさんが、僕に近づいてきた。
「何とか言われても、どうしたものかな?」
アマリアさんに声を掛けられ、周囲の視線が僕に向いたので気まずさが倍増した。
『主よ、僕が外に運び出しますよ』
サスケの思念が飛んできた。
「友達が外に運び出しますので、魔術師の皆さんで焼き払って下さい」
「任せたわよ」
ユリナさんが魔術師団の先頭に立って洞窟を出て行った。
「あんな巨大ムカデ、どうやって運び出すんだ。無理じゃないか!」
兵士の中で声が上がっている。
「分かった。全員、外に出るんだ!」
ハンスさんの指示で、部隊は半信半疑ながら洞窟を出て行った。
ライオンほどの大きさになったサスケがムカデの二節目を銜えると、ポセイドンが頭部を串刺しにしている剣を抜いた。
「何だ、何だ!」
巨大ムカデを運び出したサスケに、騒ぎが起こった。
「僕の犬ですから大丈夫です。ムカデを放しますよ」
「よし、ファイアボールの準備だ!」
「炎よ、我らの敵を焼き払へ。ファイアボール!」
ハンスさんの指示で魔術師団が詠唱を始めた。
十人の魔術師が放った魔法で炎に包まれた巨大ムカデは、蠢きながら炭になっていった。




