新たな厄介事の始まり
北の大地で農業を始める事にした僕は、けじめを付けるためにサスケとフェニックを連れてダーダー連合国に戻ってきた。
【名もなきジョブ】の定宿を訪ねたが、すでに引き払われていた。
宿屋のご主人の話では、元貴族の持ち物だった屋敷が【名もなきジョブ】に払い下げられて引っ越したようだ。
かなり大きな屋敷を訪ねると、仲間達が揃っていた。
「今まで何をしていたのよ!」
邸内に入るなり四人の厳しい視線が飛んできた。
北の大地に四季を取り戻していた事を説明したが、なかなか許して貰えなかった。
「何故、一人で行動したのよ。私達は仲間じゃなかったの?」
リーダー代行をしていたアマリアさんが、一番怒っている。
「あまりにも過酷な環境だったから、先に帰って貰ったんだ」
「本当に皆の事を思うなら相談して欲しかったわ」
「心配を掛けて御免」
頭を下げる事しか出来なかった。
「それで、北の大地はどうなったんだい?」
フレッド君が空気を変えるように声を掛けてくれた。
「まだ完全ではないけど、昔のように住みよい大地に戻って来ているよ」
「あの厳しい気候変動を制御するなんて、流石はリーダーだわ」
ジュリアナさんが笑顔になってくれた。
「まあ、無事に戻って来たのだから良いんだけど、もう少し仲間を信用して欲しいわ」
アマリアさんが声のトーンを落とした。
「それで、相談なんだけど。僕、冒険者を辞めて、北の大地で農業を始めようと思っているんだ」
皆の冷たい視線に耐えながら一気に喋った。
「僕も一緒に連れて行ってくれないかな。自然の中で生きる方が僕には合っていると思うんだ」
気まずい沈黙を破ってフレッド君が言った。
「私も行きたいわ」
ジュリアナさんも賛同してくれた。
「冒険者としての【名もなきジョブ】は解散するのね」
「そうだね」
「私は自分を犠牲にしてでも人を助けようとするジュンイチに惹かれて【名もなきジョブ】に入ったの、だから国や民のために働く宮廷騎士団に戻るわ」
アマリアさんが悲しそうな顔で僕を見ている。
「私は自分の歩む道を、もう一度考えてみるわ」
ユリナさんも暗い表情になっている。
「勝手を言って御免。アルバインさんに報告をしたら北の大地に戻るよ」
頭を下げた僕は、居た堪れなくなり屋敷を後にした。
「待ってくれ、僕達も一緒に行くよ」
フレッド君とジュリアナさんが後を追って来たので、行動を共にすることにした。
アルバインさんは忙しくしておられたが、無理をして時間を作って下さった。
「そうか、北の大地に行ってしまうのか。君のハーモニカが聞けなくなると思うと寂しくなるなぁ」
アルバインさんがしんみりした表情になっている。
「色々とお世話になりました」
過酷なディフラントで今日までやってこられたのは、アルバインさんのお陰だと感謝している。
「儂の方こそ世話になった。最後にもう一つだけ仕事を頼まれてくれないか?」
フレッド君とジュリアナさんの顔を見ているアルバインさんは、何故か言い難そうにしている。
「どのような事でしょうか?」
「ジージーの街の近くにある洞窟に軍の調査隊を派遣するのだが、その調査隊の護衛を頼めないだろうか?」
「洞窟に軍の調査隊とは大層ですね」
「フレッドとジュリアナは知っていると思うが、巨大ムカデの出現報告があり調査する事になったのだが、どうも冒険者では手に負えないので軍を派遣する事になったんだよ」
アルバインさんは復興にまだまだ時間が掛かりそうな国内で、次々と起こる問題に頭を抱えておられるようだ。
「その巨大ムカデはどうなったのですか?」
「それは、儂よりフレッド達の方が詳しいから聞いてくれ」
「どうなったんだい?」
「ユリナさんが魔法で焼き払ったよ」
話を振るとフレッド君が、その時の戦いを聞かせてくれた。
「それなら僕達より格上の冒険者なら、問題なく処理できるんじゃないのかなぁ」
この忙しい時に軍が出動する事が合点いかなかった。
「勝てたのは運が良かっただけなんだよ。それに僕達が同行したダーダー連合国のギルドで一番強い【熱血の刃】がムカデに襲われて死にかけたので、ムカデ以上の化け物が出たら対処出来ないとこの仕事を辞退しているんだ」
その時の戦闘を思い出したのか、フレッド君の顔色が悪くなっている。
(そんな事があったんだ。それでアマリアさんはあんなに怒っていたんだな)
アマリアさんの厳しい顔を思い出して、心の中で謝った。
「調査隊はハンスを隊長に、騎士十人、魔術師十人の組織だ。巨大ムカデに負けるようなメンバーではないが、君達が護衛に付いてくれたら安心だからな。今日は後の二人はどうしたんだい?」
「事情がありまして、アマリアさんとユリナさんとは別れてきました」
「そうか、残念だが仕方がないな。それで、仕事は請けくれるかね」
「お請けします」
北の大地でのんびり田舎暮らしをするためにも、今までの恩を返しておきたかった。
「出発は三日後だからよろしく頼むよ。君達が護衛についてくれた安心だからな」
サスケとフェニックに視線をやるアルバインさんは、苦笑いを浮かべながら小さく頷いている。
「分かりました。ではこれで失礼します」
アルバインさんのお仕事の邪魔をしてはいけないので、早々にお暇した。
「三日間、どうするんだい?」
「一度、セキハラ草原に戻って出直してくるよ」
「僕達も連れて行ってくれるだろ」
「勿論さ」
「フェニックに運んで貰うの?」
「いいや。墳墓にあった転送魔方陣を覚えているだろ?」
「覚えているけど、あれは……」
「あれはまだ壊していないんだ」
「アマリアが聞いたら怒るな」
フレッド君とジュリアナさんが顔を見合わせている。
「機会があれば謝るよ。転送魔方陣を作動させるから、あの部屋を思い出してくれるかい」
必要な買い物を済ませて王都から離れるとハーモニカを取り出した。
「いつでもいいよ」
二人とも北の大地のことはしっかりと覚えていた。
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転送魔方陣に魔力を注ぎ込むために[旅立ちの歌]を奏でると一瞬で景色が変わった。




